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第2話:勇者の力

 森を離れて街道を歩きながら隣町のルーゼンベルグを目指していく。

 勇者パーティを脱退して心機一転を図りたいところだったが、俺の背後には三つの不穏な人影。


 元パーティ仲間のロザリー、エルザ、レスティアの三名。

 彼らは仲良く横並びとなって俺のあとをついて来ていた。


 ついて来るだけならまだ可愛げがあったのだが、俺の悪口を連打して俺をののしっていた。

 もちろん謝罪の言葉なんてものはない。終わりのない罵倒をずっと聞いていると頭が痛くなってくる。


「ちょっとアンタ! いつまで私達を無視するつもりよ! いい加減返事しなさいよ! 平民の分際で侯爵家の私を無視するとか何様よっ!」

「ロザリーの言うとおりだ、アレス。お前はまだ自分がしでかした愚かさを理解してないのか?」

「エルザの仰るとおりです。クラウドを殴って、さらに謝罪もできないとは、本当に人間性が終わってますね」


 ロザリー、エルザ、レスティアの順番で口を開いた。


 いつもの罵倒三連打だ。

 ロザリーが先陣を切って、エルザが同意し、レスティアが最後に締める。

 この順番は大体固定であり、ロザリーとエルザがたまに前後するが、レスティアは必ず最後になるという法則性がある。

 すばやさ順だろうか?


 理不尽な理由で俺を追放した事は棚に上げてさっきから言いたい放題。

 我慢できなくなった俺はついに振り返った。

 三人と目があう。


 俺はもはや彼らの事を仲間だとはこれっぽっちも思っていない。

 たしかに三人とも容姿はいいが性格は最悪だ。彼らは人間のクズと言える。

 暴言は吐く、人格を否定する、人を追放する、反省の色は一ミリもない。

 こんな奴らを一瞬でも仲間だと勘違いしてしまった過去の自分を呪いたいくらいだ。


「人間性が腐っているのはキミ達の方だろ。キミ達は俺を追放したんだからもう仲間じゃないはずだ。早く賢者のところに戻りなよ」


 はっきりとそう告げて、旅への同行を拒絶した。しかし、彼らは諦めるどころか、よりいっそう怒りを強めていた。



「アンタ馬鹿ァ? 私達は勇者パーティとして魔王退治をしてるの。クラウドは賢者であって勇者じゃないでしょ」


 三人の中から、侯爵令嬢のロザリー=サルバートが一歩前に出る。

 勇者パーティの中ではもっとも小柄。年齢も15歳くらい。

 鮮やかな赤い髪に紫色の瞳。瑞々しい桃色の唇、白磁のような傷一つない白い肌。年相応の幼さが残る顔立ちは可憐であるが、つり目がちなので気が強い印象がある。

 黒色の三角帽子を被っており、漆黒色のローブで身を包んでいる。ローブの下には白色のインナーを着込んでいる。

 侯爵家のお嬢様というだけあり、全身の装飾も凝っている。

 彼女の装備だけで俺の一生分の収入をゆうに超えるだろう。




「言葉の意味も分からないとは……お前は本当に頭が悪いな。クラウドについていけば私達は賢者パーティになってしまうだろ。アレスよ、これ以上私をがっかりさせないでくれ」


 次は、剣王の一人娘であるエルザ=バルディッシュが口を開いた。

 艶のある黒髪は腰付近まで伸びている。端正な顔立ちで、三人の中では一番年上に見える。

 メロンのようにたわわに育った豊満なバストを誇り、鎧越しでもその大きさがわかるほどだ。意識してるわけではないが、自然と胸の方に視線が移ってしまう。

 鎧の面積は少なく、胸元・手甲・足甲の三か所に絞られている。

 本人は素早さ重視の装備と言ってるがタンク役なのに軽装甲なのは判断ミスだと思う。




「仲間である私達に暴言まで吐くとは本当救えませんね。今からでも遅くありません、早く勇者紋をカノープス様に返還してください。アナタは勇者として不相応です」


 最後は、シルド大教会の大聖女のレスティア=エルゼルベル=クォルテ。

 見事な金髪ロングに、翡翠色の瞳。白色を基調とした神官服に身を包んでいる。

 三人の中では最も肌面積が広く、前垂れの隙間から見える太ももは少しだけ蠱惑的な印象を覚える。

 神聖さと厳格さと美しさを同時に備えた顔をしているので、喋らなければまぎれもなく聖女である。



 ◆ ◆ ◆


 勇者紋とは、勇者の証であり『力の源』だ。

 普段は俺の右手に宿っていて、力を解放すると右手の甲にグリフォンの紋章が浮かび上がる。


 グリフォンとは、鷹の頭部にライオンの四肢をもつ伝説上の生き物である。

 俺が暮らしている《シルドマルク帝国》では神獣として扱われている。

 シルドマルク帝国は、国旗にもグリフォンが描かれているほどで、勇者とグリフォンの関係は非常に密接である。


 俺の右手に勇者紋が発現したのは16歳の誕生日。

 勇者紋が発現のおかげで俺は超人的な身体能力を手に入れた。


 神級>王級>上級>中級>初級と強さのランクが続く中で、俺は最高位とされる神級相当の強さとなった。


 万年荷物持ちの俺にとってこの勇者紋は、まさに人生逆転ともいえる強大な力だった。

 この力を『正しく生かす』ために勇者として半年間活動してきた。



 だが、もう限界だった。俺はこれ以上彼らと一緒に旅を続けることはできないと判断した。

 ストレスが限界に達した俺は勇者紋を開放する。そして、俺は彼らから走って逃げ出した。


「あっ! ちょっと待ちなさいよッ!」


 ロザリーが大声で叫んだが俺は構わず走り続けた。

 土煙を立てながら俺は山道をひたすら走っていき、気がつけば山を三つほど越えていた。


 俺は後ろを振り返る。

 彼らの姿は完全に消えていた。

 付き合いは長かったけど終わりは一瞬だったな。


 彼らがいなくなって少しだけセンチメンタルな気分になったけど、これは必要な事なんだと考えて目的地であるルーゼンベルグを目指した。



 ◆ ◆ ◆


 街道を歩いて進んでいると少女が人相の悪い3人組に絡まれていた。

 少女はとても嫌がっており、表情には怯えが混じってた。


「おい、その子が困っているだろ。その手を放せ!」


 俺は男達を指差す。

 男達は顔を見合わせてヘラヘラと笑い始める。


「へへへ、正義の味方気取りかぁ?」

「10秒くれてやる。今すぐ俺の目の前から消えるか、俺から殴られるか好きな方を選べ」


 俺は毅然とした態度で返事をする。


「はあ? なに言ってんだテメェ。女がいるからってかっこつけてんじゃねえぞ」


 男達の一人がこちらに近づいてきて、突然殴りかかってくる。

 咄嗟に両腕をクロスしてガードしたが衝撃で数メートル後ろに下がった。


「おい、クソガキ。俺を殴るんじゃなかったのか?」

「そっちがその気なら俺も手加減しない」


 俺は身構えて、勇者紋に力を込める。


 すると、勇者紋が輝き、俺の身体能力が超強化される。

 文字通り一瞬で目の前の男まで近づいて、男の全身を何十発と高速で殴って気絶させた。

 その間、わずか1秒。

 残りの二人は何が起こったのか理解できず唖然としていた。


「なっ……!? い、いったいなにが起こったんだ!」

「キミ達に見えない速度で殴っただけだよ」

「な、なんだとぉ⁉︎」


 男達は激しく動揺する。


「さあ、次に殴られたいのはどっちだい?」


 俺はあえて攻撃をせずに残り二人に尋ねる。


「ふざけやがって! ぶっ殺してやる!」


 触発された二人が俺を殴ろうと飛びかかってくる。

 だが、勇者紋の力が発動している今の俺には、彼らの動きがスローモーションのように見える。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!


 俺は男達の攻撃を華麗にかわしていく。

 痺れを切らした男の一人が剣を抜いて攻撃を仕掛けてくる。


 だが、俺は一切動揺していない。

 彼らの粗末な攻撃など子供のお遊戯みたいなものだ。


 冒険者時代に鍛えた巧みなフットワークを生かして彼らを翻弄していき、残りの男達も正義の拳でやっつけた。

 ふぅ、ひとまずこれで落ち着いたかな。



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