第17話:けじめ
エリアルはロザリーの言葉に困惑していた。無理もない。まさかここまで反省の色を示さない人間がいるなんて普通は誰も想像し得ないだろう。ロザリーのワガママはもはや人の範疇を超えていた。
エリアルがチラリとこちらに目配せをする。俺は無言で首を振った。
決闘を応じるメリットは皆無だ。ロザリーの決闘には正当性がなく、先程の恨みを晴らすための口実でしかない幼稚な発想。
付き合うだけ時間の無駄だろう。
「ロザリー、少し落ち着いたらどうだい? エリアルと決闘なんかしてなにがいったい解決するんだい? キミの尊大な自尊心を満たすためだけにエリアルを巻き込むのはやめなよ」
「アレスは黙っていなさい! 私はエリアルに用があるのよ!」
「黙るのは『お前』の方だよ。いい加減にしなよ」
自身の感情が冷えていくのを感じる。
エリアルに視線を戻して先に謝罪した。
「ごめんエリアル。こいつは勇者の俺がしっかり教育できなかった結果生まれてしまったモンスターだ。責任を持ってきっちりと俺が片付けるよ」
俺はゆっくりと聖剣を抜いてロザリーの前で身構える。
「早くかかってきなよロザリー。『決闘』したいんだろう? お前の鬱憤を晴らす相手なら、代わりにこの俺がなってやるよ」
「は、はあ!? アンタが決闘に出てくるのよっ!」
「お前は俺の友達を侮辱した。戦う理由なんてそれで充分だろう? それともなにかい、エリアルのように戦闘が不得意な相手じゃないと決闘できないのかい?」
ロザリーの頭からブチンという何か切れる音がした。
「上等よ! アンタなんてすぐにぶっ飛ばしてあげるわ!」
するとロザリーは火精霊のサラマンダーを召喚した。
現在俺達がいる場所は学園の通路。闘技場でも訓練場でもなんでもない。しかし、ロザリーはそんなことをまったく気にせずにサラマンダーに火炎弾を放つように命じる。
サラマンダーの口から火炎弾が発射されたのを見届けた瞬間、俺は勇者紋を解放し、10メートルあった距離を一瞬でゼロに変える。
サラマンダーを火炎弾ごと一刀両断する。
現在、俺のすぐ目の前にはロザリー。唖然とした表情を浮かべているロザリーの瞳には感情のこもってない俺の姿が映っている。
両腕を振り上げて、ロザリーの正中線を斬るような勢いで全力で聖剣を振り下ろした。
全体重をかけて一気に振り下ろされた一撃は神速の域にも達していた。
結論から言えば、俺の一撃はロザリーに直撃しなかった。剣先がロザリーの鼻先を掠めるように位置を調節したからだ。鼻先の皮膚がやや捲れた程度。数日もすれば治る程度の怪我。
だが俺の本気が込められた一撃は、ロザリーにとっては少々刺激が強すぎたようだ。
ロザリーは尻餅をついて顔をゆがませて、恐怖のあまりその場で失禁していた。
茫然自失となっているロザリーを横目に、俺は鼻を鳴らして、別れの言葉を告げることなくその場を立ち去っていく。
「あ……ああ……」
ロザリーは涙交じりに嗚咽を漏らすのみで、最初の時のように俺について来ることはなかった。
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