第16話:正論
エリアルによる平手打ち。それはロザリーにとって完全に不意打ちで、状況を理解するまでに数秒ほど時間を有した。
「いきなりなにするのよエリアル! アンタ、この私にこんな事して、ただで済むと思っているの!!」
ロザリーは激昂する。
エリアルは一歩も引かず毅然とした態度でロザリーを睨んでいた。エリアルだって侯爵家の娘だ。家柄だけならサルバート家に引けを取っていない。
「お黙りなさい、ロザリー。ここは神聖な学び舎ですよ」
エリアルの声色がガラリと変わる。鶴の一声のような、相手に有無を言わせない、心臓にドクンと響くような声だった。エリアルってこんな声が出せたのか。
静かながら迫力のある声に俺は息を呑んだ。
ロザリーは一瞬怖気づいて後ずさる。しかし、侯爵家としての幼稚なプライドがそれを許さなかった。
「う、うう……。うるさいうるさいうるさい! 人を殴っておいて偉そうなこと言わないで! 私は侯爵家よ!」
ここまで幼稚な侯爵家も存在しないだろう。
「私もアナタと同じ侯爵家ですが、人としての常識は最低限守っているつもりです」
「あ……うう……」
エリアルは追撃の手を緩めない。的確に冷静に静かにロザリーの悪いところを指摘していく。
「そもそも、そうなるように仕向けたのはアナタ自身ではありませんか。他人の食事を邪魔する、人を出身だけで侮辱する、あげくの果てには料理人さんが作ったお料理を粗末に扱う。これが侯爵家のやっていい振る舞いだと思っているんですか? 」
エリアルの言っている事はすべて正論だった。侯爵家うんぬんの前に人として取っていい行動ではない。
ロザリーは言葉を詰まらせて口ごもる。エリアルに対して何も言い返す事ができなかった。
エリアルもそれ以上ロザリーを責め立てたりはしなかった。
口げんかの引き際もキチンと理解しており、まさに貴族の気品を兼ね備えた完璧な侯爵令嬢だ。
俺は改めてエリアルを尊敬した。
まず、エリアルは俺に対して謝った。そして次は、料理スタッフに一人ずつ謝罪をしてまわった。
侯爵令嬢が謝罪をする。これは本来ありえない事だ。彼女はここにいる人間の中で誰よりも権力を持っていた。そんな彼女が自分を罵倒した相手のために謝罪をする。
彼女の振る舞いは周りの者達を全員感動させた。
対照的にロザリーは無様だった。
侯爵家の威光を傘にして横柄なふるまいをとった挙句に同じ侯爵家から論破されて、その尻拭いまでされてしまう。侯爵家の恥とも言える状況だろう。
食堂で一人ポツンと立っている惨めなロザリーに向けて、エリアルは静かに告げた。
その声には感情がなく、冷徹に、刃を突きつけるように。
「ロザリー。貸し一つですね」
「……ッ!」
エリアルは、ロザリーから俺へと視線を移す。
「申し訳ございません、アレスさん。私のせいで険悪な雰囲気になってしまいましたね」
「いや、エリアルは何も悪くないよ。それより、ロザリーと知り合いだったんだね」
俺はエリアルに質問した。
エリアルは少し表情を暗くして小さく頷く。
「はい、実は彼女もフリークス魔法学校の生徒で、それも私と同期なんです」
「ロザリーが同期なのは大変だっただろ?」
「ええ、まあ。少し……」
エリアルはぎこちなく笑いながらそう答えた。
そのあと、「ロザリーも根は良い子なんですよ」と付け加えた。
「アレスさん。お詫びといってはなんですが、この学園で一番の絶景スポットをお教えしますので、これから一緒にどうですか?」
エリアルは食後の散歩を提案した。
絶景かー。それはすごく興味があるなぁ。
綺麗な夜景を見れば、この夕食で味わったストレスを軽減できるかもしれない。とても魅力的な提案だった。
「それじゃあお願いしてみようかな。どれくらい綺麗なんだい?」
「ふふっ、それは到着してからのお楽しみです」
エリアルは唇に指を当てて悪戯っぽく微笑んだ。その仕草にキュンときた。
エリアルはやっぱりかわいいなぁ……。俺はしみじみとそう感じた。
ロザリーと比較するのはエリアルに対して失礼だけど、エリアルは侯爵令嬢の理想形ともいえる存在だ。
優しくて年下でおっぱい控えめで良い子。こういう子とお友達になりたいね。
俺とエミリアは食堂を去った。
二人で肩を並べて仲良く廊下を歩いていると、突然背後から足音が響いてきた。
「待ちなさいっ!」
ロザリーは屈辱に満ちた表情を浮かべ、怒りで半泣きになっている。
エリアルを指差しながら高らかに叫んだ。
「エリアル=パークス! 私と『決闘』しなさいっ! 負けた方がこの学園から消えるのよっ!」
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