第1話:追放から始まる物語
それは王都を出発して半年後の出来事だった。
3人目の四天王《炎竜王》を討伐して拠点の町に戻ろうとしていると、俺は賢者クラウドから呼び止められた。
クラウドは今年で20歳となる男性。
金髪で容姿端麗。鼻筋はすらっとしていてかなりのイケメン。
パーティ随一の知謀と聡明さを誇り、賢者の異名を持っている。
さらにシルドマルク帝国の皇太子なので発言力もあった。
イケメンで権力もある男。それが賢者クラウドだ。
クラウドの背後には他に三人の仲間がいた。
精霊使い・聖騎士・聖女。
それぞれ女性で年齢も俺と比較的近い。
賢者・精霊使い・聖騎士・聖女の4人に、勇者の俺を加えた合計5人が今期の勇者パーティである。
俺達の目的は魔王アイギスを倒す事だ。
俺自身も打倒魔王に向けて剣の研磨を重ねてきた。
その甲斐あって魔王を守護する四天王の数も残り一人にまで減っていた。
戦況は優勢だった。俺自身のコンディションも最高だった。
そんな中、クラウドが突然俺にこう言い放った。
「偽勇者アレス。本日をもって、お前をパーティから追放する」
しばらくの間、自分が何を言われたのか理解できなかった。
それだけ唐突だったのだ。
クラウドに視線を戻す。
彼はニヤニヤとした表情を浮かべている。
「えっと、【偽勇者】というのは、なにかの冗談かい?」
突然の解雇通告に俺は動揺して、言葉を詰まらせてしまう。
パーティを追放される心当たりはなかった。
クラウドは首を振る。
「こんなこと冗談では言わない。俺達は全員、お前を勇者パーティから外したいと思っているんだ」
「勇者パーティなのに勇者本人を追放するってどういうことだよ……」
「そのまんまの意味だよ。お前は勇者じゃなくて偽勇者なんだよ。偽勇者をパーティに入れる理由なんてねえだろうがっ!」
クラウドは舌打ちし、苛立ちながら俺を突き飛ばした。
彼の言ってる内容はめちゃくちゃで暴論だった。丁寧だった口調も本来の乱暴な口調へと早変わりしていた。
実はクラウドには二面性がある。
世間では心優しき賢者と称されているが、本当の性格は癇癪持ちで自分勝手。
俺の事もよく偽勇者と蔑称で呼んでいる。はっきり言ってムカつく奴だ。
それでも魔王を倒すには勇者の力は必要不可欠なので、表面上は俺の命令に大人しく従っていた。
だが、今回にいたっては、俺を意地でも排除しようとする悪意を感じた。
精霊使い、聖騎士、聖女の三人はクラウドの言葉に無言で頷いた。
彼らの反応を見て、これが冗談ではなく本気で言っている事なのだとわかった。
賢者の言葉に呼応するように残りの三人も罵声を俺に浴びせる。
「ほんと平民のくせに生意気ね。さっさとクラウドに聖剣を返しなさいよ!」
精霊使いは叫んだ。
「うむ、ロザリーの言うとおりだ。私も平民と一緒に旅をするのは苦痛だった。今日という日を一番待ち望んでいたのは恐らくこの私だろう」
聖騎士は叫んだ。
「エルザさん、流石にそれは言いすぎです。彼は平民出身で頭が悪いので、やんわりと諭してあげましょう。アレス、これ以上私達を苦しめないでください。アナタが勇者パーティにいる事にみんな苦痛を感じているんです」
聖女は淡々とそう述べた。
「あはは! 世界一優しいレスティアにも見捨てられるなんてお前は終わりだな。お前はもう真の仲間じゃねえ。平民出身の偽勇者は聖剣を置いて、さっさと俺達の目の前から消えろッッッ!」
クラウドは最後にそう叫んだ。
俺は気づかないフリをしていただけなのかもしれない。
彼らにとって俺は仲間ではなく小汚い平民だったのだ。
精霊使い、聖騎士、聖女の告げた無慈悲な罵倒三連打。
そして、首謀者である賢者の自分勝手な一言についに俺の堪忍袋の緒が切れた。
怒りの炎は、俺の中に芽生えていた仲間意識をすべて焼き尽くすほどであった。
何もない拳を思い切り握り締め、真っ直ぐな目で彼らを睨む。
そっちがその気なら俺も考えがある。「はいそうですか」とやすやす屈したりなんかしない。これは俺の物語だ。
聖剣も、勇者としての使命も、絶対に渡さない。
「あっそ。じゃあ俺は別の奴らと勇者パーティ作るよ」
「は? 何わけわからねえこと言ってるんだ。さっさと引退して俺に聖剣渡せよ」
クラウドは激昂した。
クラウドは腰に装備した短剣を抜いて剣先を俺の首元に突きつけた。
俺は小さくため息を吐いた。
俺はいたって冷静だった。この半年間、俺は多くの修羅場をくぐってきた。今さら短剣程度でビビるわけがない。
「馬鹿馬鹿しい、話にならないね。これ以上みんなと会話しても時間の無駄だから俺はもう行くよ」
「待てやゴラァ!」
背後からクラウドが短剣で斬りかかってくるが、それをサッと身をかわして攻撃を避ける。振り返ったクラウドの顔面に拳を叩きつけた。
拳はクラウドの顔にめり込む。俺はさらに全体重を込めてクラウドの顔面を地面に叩きつけた。
知らず知らずのうちに積年の恨みが拳に宿っていたのかもしれない。
拳をどけると気絶しているクラウドの顔があった。
唖然としてる三人を横目に、俺は鼻を鳴らして、別れの言葉を告げることなくその場を立ち去っていく。
「あっ、ちょっと待ちなさいよアンタ!」
「おい、クラウドを殴って謝罪もないのか。まったく、お前のような奴は勇者失格だな」
「平民のくせに生意気ですね」
彼らは口々にそう言って、ぞろぞろと働き蜂のようについてきた。
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