きみは風に吹かれ
「その帽子、どうしたんだい?」
彼女の新しい帽子を指差して、ぼくは尋ねた。
「編んだのよ。自分で」
「自分で?」
一見、麦わら帽子かとも思ったんだが、材質が微妙に違う。
「新しく開発された糸で編んだの」
ぶわっ。
下から吹き上げる風が帽子の広いつばを翻した。
「テクノロートって知ってる?」
「いや」
「帽子の型崩れをしないように編み込んであるの」
「手芸もここまでくると芸術的だね」
彼女は翻る帽子を見つめ、そしてその先の空を見つめた。
空は宇宙との境界線が曖昧で、どこまでもどこまでも続く。
「……」
沈黙。
「何を思っているの?」
「……。ふふふ」
「何?」
「何でもない。……あなたにも帽子、編んだげる」
「そんな女らしいデザインでは、ぼくはかぶれないよ」
「編み図を探すわ」
そう言って、彼女は立っていた岩から下へ飛び降りた。ぼくは面食らって慌てて降りた。
海岸の砂浜。打ち上がった流木。
「これでブレスレットを作るわ」
割れたガラスのカケラ、波に揉まれて角が取れている。
茶色に青にソーダ色
彼女はワイヤーワークスで繋ぐブレスレットを作るって言ってる。
米津玄師のm八七の歌詞を何回も反芻した。風に吹かれて翻る帽子見つめ、ということは、君、は女の子なのかな?星を追いかけた、僕、は男の子だから。もう一人の存在も匂わせる歌詞。もう一人は超生命?
あるいは、僕と君は同一人物をさしていて、視点が自分と超生命なのかも?