雪女。ロジハラされて論破されるけど幸せになる。
むかしむかし。
ゆききちという少年とその父が雪山で遭難していると雪女が現れ、ゆききちの父を凍らしてしまいました。
『少年よ。お前はまだ若い。見逃してやろう。ただこの夜の事は誰にも話すな。話したらお前を消してやろう』
・
それから一年後。ゆききちはゆきという女と結婚しました。
ゆききちとゆきは五人の子宝に恵まれました。
ゆききちは言いました。
『お前はずっと美しいままだなぁ』
そこでゆききちはポロリとあの夜の事をゆきに話してしまいました。
ゆきは悲しそうな顔して
『お前さん。何で話してしまったんだい!話したら消すと言ったじゃないか!』
と言いました。おゆきの姿はみるみる雪女に変わります。
『そう。私はあの時の雪女。子供達の事を思うとあなたは消せない。代わりに私が消えましょう……』
消えようとしたおゆきの腕をつかんでゆききちは言いました。
「知ってたましたよ?」
「えっ?」
「いや。そもそもあなた。そんなに頭が良くないんですよね。普通一年ぐらいで父親をガチガチに凍らせた女の顔を忘れるわけないじゃないですか?」
「じゃあ分かってて結婚したんですか?」
「ええ。好みでしたから。あなたも僕が好みだったんですよね?若いから殺さないなんてとんだ少年趣味ですね。好みに育ってから嫁になりに来るなんてとんだ変態ですよ?」
雪女の頬が溶けそうなほど熱くなります。そうです。ゆききちは雪女好みの美少年だったのです。
「そもそも僕はその約束をした覚えがないんですよね。実は一方的な口約束をする人には優秀な人が少ないんです。それとも書面に残してありますか?今は室町時代ですよ?いや。鎌倉時代でもそんなお粗末な考えは通用しませんよ?」
ゆききちはずっとニヤニヤしながらゆきを小馬鹿にするように話し、ゆきが何か反論しようとすると大声で遮りそれを許しませんでした。
「あの~『子供達の事を思うと』とあなたはおっしゃいましたけど~。子供達の事を思うなら母親としてそばにいるべきですよね?なんか僕。間違ったこと言ってるッスかね?」
ゆきは元々口下手なので何も言い返せません。
「反論が無いということは僕の勝ちですよね?というわけでこれからもずっと僕のそばにいてもらっていいですか?」
「……なんでそんな。私はあなたの父親を……」
「あ。愛してるんで」
「……!?」
「僕。感情的になることほとんど無いんですー。最初は父親を凍らされたしー。復讐しようかなーとあなたに気づかないフリしてたんですけど~。何かあなた健気だし一途だし料理上手だし子供への愛情も素晴らしいじゃないですかー。気がついたら愛してたんですよねー。自分に驚いてます。消えないでください。一生そばにいてもらっていいっすか?」
「……はい」
こうして二人は子供達といつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
ちなみにゆききちの父親はゆききちの適切な解凍により普通に生きていました。
ゆききちがおゆきと出会う前に京都の女と再婚して今は京都にいます。
ゆききちの父も彼なりにいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたと……さ。