7.奇跡?
夜更けにブライアント邸に帰り着いたライリーとジュリアはライリーの母親の部屋へ向かった。
「お兄様、お医者様は?」
疲労困憊の体の若い女性が聞いてくる。
ジュリアはエマ嬢だと思った。
「駄目だった」
ライリーの返事にエマ嬢と思しき女性が泣き崩れる。
「それでは、お母様は、お母様はどうなるのです。このまま手を拱いているしか出来ないのですか!」
泣きながらやるせない気持ちを吐露するエマ嬢と思しき女性をジュリアは心から羨ましいと思った。
『あんな風に棄てられた私には、親が重篤でも素直に悲しむ事はもう出来ないだろう』
ライリーはため息をつき、ジュリアを紹介する。
「エマ、こちらはエドワーズ男爵令嬢のジュリア様だ。いや、勘当されたからただのジュリアかな」
「ジュリア、妹のエマだ」
エマは驚き、慌ててスカートを少し持ち上げ挨拶する。
「ジュリア様?
エドワーズ男爵家の?
勘当されたのですか?」
ジュリアは少し微笑んで言った。
「エマ様、初めまして。
不躾とは思いますが、私についてのお話は後にして、お母様の容態を見せていただけますでしょうか」
ジュリアの発言に驚くブライアント兄妹を尻目に、ジュリアは寝台へ近づく。
そこには瀕死の女性が横たわっている。
苦しそうだ。
ジュリアはライリーを振り向いて言った。
「ライリー様、お母様が治るようにお祈りしても宜しいでしょうか」
ライリーが静かに頷いたので、ジュリアは枕元に立ち、そっと両手をブライアント伯爵夫人にかざす。
『どうか良くなりますように』
すると、またあの眩い光が発せられブライアント伯爵夫人を包み込んだ。
ブライアント兄妹は唖然としている。
光が消えると、ブライアント伯爵夫人の顔色が見る見る良くなり、息遣いも正常に戻っている。
慌てて母親の側に駆け寄り、脈を取ったライリーは叫んだ。
「どういう事だ。
これは奇跡か?
母上が良くなっている」
エマも母親に駆け寄り喜びに啜り泣いている。
ライリーはジュリアの手を取り感謝した。
「医者も匙を投げたと言うのに。
ジュリア様、貴女はもしかして聖女様?」
ジュリアは困り顔で言った。
「それが良くわからないのです。
でも、伯爵夫人が良くなったのなら嬉しいです」
伯爵夫人の容態が安定したので、付き添いはライリーひとりに任せて、エマとジュリアは
一旦休む事になった。
「今夜使える寝台が私と一緒のものしか無くて、不自由をお掛けしてすみません。
お母様を助けてくださった恩人ですのに」
エマは恐縮して謝った。
「いえ、ライリー様に拾っていただけなかったら今夜は野宿でした。
お礼を申し上げるのは私の方です」
暗闇の中でエマとジュリアはお互いを見つめ
そして微笑んだ。
「少し寝ないと。
詳しいお話は明日ゆっくり聞かせてくださいね」
疲れていたふたりはすぐさま眠りについた。