5.自戒
ドミニクは王宮を出ると急ぎ馬車でエドワーズ男爵家へ向かった。
せめて、ジュリアのいい分を聞く事位すべきだった。
ここに来て自省気味に考えた。
エドワーズ男爵家に着き、応接室に案内されるや否や、エドワーズ男爵夫妻とその兄ダンまでが取り繕った笑顔で飛んで来た。
「ジュリア嬢を呼んで欲しい」
昨日の婚約破棄騒ぎが男爵夫妻等の耳に入っているなら、怒りや罵りを向けられるかもしれないと覚悟の訪問だったが、そんな予測とは程遠い対応だった。
「ジュリアは昨日勘当しました」
ドミニクはエドワーズ男爵の言葉に愕然とした。
「どういう事だ」
自分の娘をこんなに簡単に勘当したと言うのか?
怒りに満ちた目で鋭く見返すドミニクに気圧された様に男爵は後退りする。
「イブリン様からジュリアがブレイク様と、その、情を交わしていたとお聞きし、ドミニク様も婚約破棄を宣言されたという事でしたので、追い出したのですが、その、何か問題が?」
ドミニクはすっかり目が覚めた。
私も謀られたとやっと気が付いた。
全ては母イブリンとあの愚弟ブレイクの仕業だと。
「ジュリアは否定したのでは無いか?
信じてくれと言わなかったか?」
ドミニクは自分の事は棚に上げ、エドワーズ男爵夫妻とその兄に怒りを向けた。
「仮にも自分の娘が泣いて身の潔白を申し立てたなら、信じてやるのが家族では無いのか?」
それは正にドミニクが自分自身を責めている言葉だった。
仮にも愛した女性が泣いて身の潔白を申し立てたなら、信じてやるのが、恋人では無いのか、と。
「ジュリアは何処へ行ったのだ」
ドミニクの見幕にエドワーズ男爵も自らの愚かさに気付き震えながら答えた。
「わかりません。
僅かな路銀と下着だけ持たせて追い出してしまった。何て事をしてしまったんだ」
エドワーズ男爵の狼狽ぶりを見て、男爵夫人も自身の過ちに気付き震え始めた。
「どうしよう。大変な事をしてしまった」
兄だけは、そんな二人を見ても平然としていた。
「誤解されるような事を仕出かすのが悪いんだ」
ドミニクはダンを冷たく見据え言った。
「いつかその言葉が自身に返って来ないといいがな」
ドミニクは踵を返し、エドワーズ男爵邸を後にした。