4.王太子の慧眼
王宮では本日の執務を終えた王太子アーロが側近のドミニクを呼び止めていた。
「ドミニク、ちょっと待て。
聞いたぞ。ジュリア嬢との婚約破棄」
ドミニクは渋い顔をして無二の親友でもあるアーロを見返す。
「あの女はよりにもよってブレイクと情を交わしていた。婚約破棄されて当然だ」
アーロはため息を付き、諭すように言った。
「ドミニク、お前本当にジュリア嬢の事になると視野が狭くなるな。
ジュリア嬢がそう言ったのか?」
「いや」
ドミニクは小さく呟く。
「情を交わしたと証言したのは、あのいけすかないブレイクだけ?」
「そうだ」
ドミニクは更に声が小さくなる。
アーロは大きくため息を付き言った。
「目を覚ませ、ドミニク。
元々お前の母親と弟は先代が亡くなってから露骨にこの結婚を反対していた。
大体、あのジュリア嬢が他の男と情を交わす?あり得ないだろう。
我が愛しの婚約者グレイシーが、ただ一人の親友と信頼するジュリアだぞ」
王太子アーロの婚約者グレイシー・ハリス侯爵令嬢は王太子の婚約者となるまでに、他の候補令嬢にありとあらゆる嫌がらせを受けて来た。
そんな時にいつも助けてくれたのはジュリアだった。
ジュリアを誰よりも信頼している。
ドミニクはその事を思い出した。
「そうでした。
ジュリアは正義感が強い」
アーロはそうだろう、と頷き更に追い討ちをかける。
「その上、ジュリア嬢はあの屑、いやブレイクを蛇蝎の如く嫌って避けていた、とグレイシーから聞いたぞ」
ドミニクは青い顔をして冷や汗をかき始める。
「そ、そんな事は私にはひと言も」
アーロはあきれ顔で呟く。
「仮にも婚約者の家族をあからさまに非難する訳ないだろうが」
ドミニクは拳を握りしめている。
「どうしてしまったんだ。ドミニク。
お前は私が最も信頼する側近で将来宰相となる男だ。視野も広く、見地も深い。
国一の才人と呼ばれるお前が、どうしてかジュリア嬢が絡むと凡人以下のでくの坊になる。あきれたものだ」
ドミニクは肩を震わせている。
「いいか、冷静になってもう一度この件を吟味してみろ。
おそらく違った答えが出るだろう」
アーロはそう言って、項垂れているドミニクを残し執務室を出た。
ひとり取り残されたドミニクは頭を抱え、この一件を整理する。
自分でも本当はわかっていた。
ジュリアを愛しすぎて、冷静に判断出来なくなる事を。
それを認めたくない自分がいる事も。
ドミニクにはキュッと唇を噛み締めると立ち上がりするべき事をする為に歩き出した。




