表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/18

3.縁とは異なもの


ジュリアがぼんやり考えていると、王都方面から猛スピードで馬車がやって来る音が聞こえた。

ランプの灯りも見える。

ジュリアは立ち上がり助けを求めた。


馬車が止まってくれたので、ホッとしていると、中からきちんとした身なりの若い男性が降りてきた。

「どうされました」


こんなぼろぼろの姿のジュリアに優しく問いかけてくれる。

「申し訳ありません。

歩いている内に林の下へ転がり落ちてしまい気を失ってこんな時間になってしまいました」


暗くて顔が良く見えないが、どうやら貴族のようだ。

「それはお困りでしょう。

私はライリー・ブライアントと申します。

今領地に急ぎ戻るところですが、そちらで良ければお乗りになりませんか。

もう夜ですから、馬車も通らないでしょうし、野盗が出るやも知れません」


有り難い申し出だ。

「ありがとうございます。

ご迷惑をお掛けしますが、乗せていただけますでしょうか。

私はジュリア・エドワーズと申します」


ジュリアはライリーにエスコートされ、馬車に乗り込んだ。

急ぎなのか馬車は又猛スピードで走り出す。


「お急ぎのところ申し訳ありませんでした」

ジュリアがお礼を言うと、ライリーは淋しそうに笑って言った。


「返ってお気を遣わせてしまいました。

実は母の具合が悪いのです。

領地の医者には匙を投げられたので、王都の高名な医者に頼みに行ったのですが、門前払いされました」


「なんて、お気の毒な」

ライリーは良く見ると質は良いけれど着古した服を着ていた。

しかし、顔には優しさが溢れ出ている。


「あの、ライリー様。

もしかしてライリー様はブライアント伯爵様ですか」

ジュリアは記憶を辿って尋ねてみる。


「その通りです。

ジュリア様はエドワーズ男爵家の御令嬢ですよね」


「やはりそうでしたか」

数年前から婚姻相手を探していたジュリアの兄に最初の打診があったのが、このブライアント伯爵家の令嬢エマだった。


気立も良く、可愛らしい方との評判だったが、ジュリアの母と兄は貧乏伯爵家の娘と結婚したら益々貧乏になると言って身の程知らずにも断ってしまった。

そして、目を付けたのが肥沃な領地を持つ富裕なコリンズ伯爵家の令嬢ミアだった。

ジュリアの兄はありとあらゆる手段でミアに近づき、最近になってやっと婚約に漕ぎ着けたのだ。


正直、ミアは性根が悪く高慢ちきでジュリアは好きになれなかったが、同じ様に意地悪な兄には似合いかもしれない。

そもそもミアに一時期不義密通の噂が流れた事があり、それが貧乏男爵嫡男の兄との婚約の決定打になったのだと、ジュリアは思っていた。


ジュリアの母は兄が結婚するまではと、ジュリアの結婚を許さなかったので、婚約が伸び伸びになってしまったのも事実だった。


「あの、その節は大変失礼致しました。

両親と兄が身の程知らずにも折角のお話を」

ジュリアが言いかけると、ライリーは被りを振って優しく言った。


「ご縁が無かったのです。

我が領地は石ころだらけで作物が育ちません。

こんな名ばかりの伯爵家の娘と婚姻を結んでくださる家はありませんよ」


ジュリアは両親と兄が恥ずかしく下を向いた。

よくよく考えれば勘当された身なのだから気にする事では無いと思い至った。

「私、エドワーズ男爵家を勘当されましたの。だからお気遣いは要りませんわ」


ライリーは驚いて聞いた。

「勘当とはどうされました」


ジュリアはこれまでのあらましを旅路のかたわら、ライリーに話した。


「酷い話だ。

ジュリア様の家族も酷いが、キャンベル侯爵家も考えられない。

大体にして、何故キャンベル侯爵はジュリア様の話を信じないのですか!」


自分の事の様に激昂してくださるライリーにジュリアは涙が溢れた。


「行く当てが無いのなら、どうか私の邸に滞在してください。

大したおもてなしは出来ませんが、雨露をしのぐ事くらいは出来ますので」


『何と優しい方でしょう。

ご自分も心配事を抱えていらっしゃるのに。

私が出来る事はお手伝いしよう』

ジュリアは誓った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ