16.和解
門前の騒ぎを聞き付けて窓から様子を見ていたジュリアたちは、ミアの刃傷沙汰に驚愕し、一緒固まっていた。
次いで、馬車からヒューゴとドミニクが降りてミアを止めに掛かるのが見えると、更に驚愕した。
「ドミニク様が何故ここに」
ぼんやり考えていると、ミアの凶刃がドミニクを襲った。
「ドミニク!」「ドミニク様!」
ヒューゴが叫んだと同時にジュリアも叫んだ。
ジュリアの体は勝手に倒れたドミニクに向けて全力疾走した。
『いやよ!いやよ!
嫌われていても、信じてくれなくてもそんな事はどうでもいいの。
ドミニク様さえ生きていてくれたら、それだけでいい』
涙は止めどなく溢れた。
ドミニクの傍に跪き、ただひたすらに祈った。
「ドミニク様を助けてください。
私の大切な方なのです」
ジュリアから優しい光が溢れ出し、ドミニクの出血は止まり、首の傷も見る見る治っていく。
ミアが唖然としている隙に、ヒューゴが背に一発食らわせ気絶させて叫んだ。
「縄を持って来てくれ!」
ドミニクはゆっくり目を開け、ジュリアを確認すると、涙を流し、ジュリアを強く抱きしめる。
「ジュリア、ジュリア。
夢なら醒めないで欲しい。
会いたかった。
全て私が悪かった。
くだらない世迷言に惑わされ、君を信じなかった。
許してくれとは言えない。
けれど、君は私のただひとり愛する人だ。
それだけは信じて欲しい」
ジュリアもドミニクの腕の中で涙が溢れた。
少し落ち着くと、毅然として言った。
「ドミニク様、私を信じてくださらなかった事は許せません」
ドミニクは落胆で肩を落とす。
「でも、たった一度の過ちをいつまでも許さないほど心が狭い訳ではありません。
私はドミニク様を愛しています。
ですから、これからはふたりが幸せになれる様、精一杯努めてくださるなら水に流します」
ドミニクは歓喜し、更にジュリアを強く抱きしめた。
「私はジュリアと共にいられたら、それだけで幸せだから。
ジュリアが幸せになれる様精一杯努めるよ。
もちろん、これからは君を信じ続ける。
くだらない嫉妬はしないと誓うよ」
ジュリアは目を丸くして尋ねる。
「嫉妬されていたのですか?」
ドミニクは顔を真っ赤にして頷く。
「私にはドミニク様しかおりませんのに。
困ったドミニク様」
ジュリアは微笑んで言った。
邸からはライリー、ブライアント伯爵夫人、エマが出て来て見守っていた。
「良かったね、ジュリア」
ライリーは本当の兄の様に喜んでくれた。
ブライアント伯爵夫人とエマも微笑んでいる。
門外から憲兵がやって来たのでヒューゴはミアを引き渡した。
ミアは魂が抜けた様で憲兵に大人しく連れて行かれた。
刺されたダンとエドワーズ男爵夫人はまだ倒れたままだった。
別の憲兵が2人の容体を確認して言った。
「致命傷と言えるくらい深い傷がいくつもありますが、命は取り留めた様です。
しかし後遺症は残るでしょう」
ライリーとエマが不思議そうに顔を見合わせた。
「さっき、ドミニク様に癒しを施した時、あの2人にもその光が降り注いでいましたよね」
ジュリアは後ろめたそうに言った。
「ドミニク様を助ける事しか頭にありませんでした」
憲兵が男爵夫人とダンを運んで行く。
残った誰もが、ジュリアについて行けとは言わなかった。
「あれだけ酷い仕打ちをしたのに命を助けたんだ。これ以上の義務はないよ」
ライリーが呟く。
ヒューゴがニヤニヤしながら言った。
「やはりジュリア嬢が聖女様か。
ドミニク、せっかく取り戻したがこれからが大変だな」
「別に構わないよ。
ジュリアが誰かの役にたちたいと言うなら、私もついて行くし、ゆっくりしたいと望むなら全力で守る。もう邪魔をする者はいないから大丈夫だ。母と弟は除籍した」
ドミニクはしれっと言う。
ジュリアは驚いたが、少しホッとした。
ドミニクが大きな犠牲を払ってくれた事に感謝した。
ブライアント伯爵夫人が言った。
「もし、ジュリアが望むなら、ジュリアはこのブライアント伯爵家の娘として、キャンベル侯爵家に嫁がせます」




