15.狂乱
ジュリアらしき令嬢の存在を知ったドミニクは王太子アーロに許可を貰い急ぎブライアント伯爵領へ向かった。
ヒューゴも同行してくれると言う。
「お前、本当は聖女を見てみたいだけだろう」
馬車の中でドミニクが指摘するとヒューゴがニヤニヤと笑う。
馬車で行くのは、もしジュリアを見つけた時に乗せて帰る為であるが、あくまで許して貰えた場合の話だ。
ドミニクにすれば、まず生きてさえいてくれたらそれだけで良いと言う心境だった。
ブライアント伯爵邸が見えて来た。
窓から眺めていると、門前で見覚えのある3人が揉めていた。
「何故あの3人がここに」
愕然としたドミニクを見て、ヒューゴも窓から覗く。
「何だ、あれは。
俺の記憶が正しければ、ジュリア嬢の鬼畜母と鬼畜兄、そして国一の尻軽令嬢じゃないか」
ドミニクはため息をつきながら言った。
「取り敢えずは知らぬふりをして伯爵邸に入るしかあるまい」
門前に馬車をとめると、中から執事が出て来たので御者が小さな声で王太子名代のキャンベル侯爵と王宮騎士団長だと伝えると、門が開く。馬車で邸前まで移動しようとすると、開いた門からあの3人が入って来ようとしている。
「あなた方はお帰りください」
執事が必死に止めるが、尻軽令嬢を先頭にズカズカと押し入って来た。
「大体失礼なのよ!
私を誰だと思ってるのよ!
帰りの馬車くらい用意しなさいよ」
言いたい放題だ。
「そうよ!この馬車で帰ればいいのよ」
ミアが笑いながらドミニク達の馬車に乗り込もうとする。
ヒューゴがここは任せろと言って馬車を降り、乗り込もうとしたミアの首根っこを掴んで門の外へ投げ飛ばす。
ヒューゴがひと睨みするとエドワーズ男爵夫人とダンもすごすごと門の外へ出た。
地べたを這いずりながらミアが叫んだ。
「何もかもあんたが悪いのよ!
宝石も買い戻してくれない!
結婚もしようとしない!
馬車も用意出来ない!」
「五月蝿い!
何でお前の宝石を買い戻さなければならない!
落ちぶれた尻軽女と結婚?
するわけないだろう!」
ダンも負けじと叫び出す。
「お腹に子どもがいるのよ!
責任取りなさいよ!」
「ふんっ!
俺の子じゃ無いのはわかっている。
あのジジイの子だろう?
お前がまだあのジジイとキレていないのは知っているんだ!
汚らわしい!」
「ジジイ呼ばわりしないでよ!
年は上だけど、ちゃんとくれる物はくれるわよ!
あんたとは大違い!」
「孫までいる男をよく言うわ!」
ダンとミアの罵り合いの内容にエドワーズ男爵夫人は愕然としている。
罵り合いが嫌でも聞こえて来たヒューゴとドミニクも呆れて物が言えなかった。
「あんたなんて死ねばいいのよ!」
激昂したミアが叫びながらダンに飛びかかった。
「ウッ」
鈍い声を出しダンは膝から頽れる。
良く見るとミアの手には血みどろのナイフが握られている。
何度もナイフを振り下ろすミア。
「何をしている!」
馬車から駆け出すヒューゴとドミニクだが、
ミアは標的を男爵夫人に変えナイフを振り下ろした。
男爵夫人もくずおれ、ミアは爛々と瞳を光らせ仁王立ちしている。
ヒューゴとドミニクは門を出てミアの背後に
回り込んだ。
振り向いてドミニクに気付いたミアは怒りの矛先をドミニクに向けた。
「そもそもあんたが婚約破棄なんてするから
こんな事になったのよ!」
狂ったようにナイフを振り回し、ナイフはドミニクの首を深く傷つけた。
首から大量の血が噴き出す。
ドミニクはバタっと前屈みに倒れ込んだ。
「ドミニク!」




