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1.婚約破棄


「ジュリア・エドワーズ、お前との婚約は破棄する!

何故かはわかっているだろう!

お前が我が弟ブレイクと情を交わしたからだ!

汚らわしい売女め!

とっとと私の前から消え失せろ!」


ジュリアの婚約者ドミニク・キャンベル侯爵は激昂して叫んだ。

いつも優しかったドミニクとは別人だ。


「ドミニク様、私はブレイク様と情を交わしてはおりません。信じてください」

ジュリアは涙ながらに懇願したが、ドミニクの怒りは収まらない。


「昨夜、お前とブレイクが王都の外れの汚ない安宿に2人で泊まった事はわかっているんだ。嘘をつくな!」


「ドミニク様、私は拐かされてあの宿に連れて行かれたのです。ブレイク様とは一晩一緒におりましたが、誓って何もありませんでした」


ドミニクはフンっと鼻息荒く捲し立てる。

「そもそも未婚の娘が男と一晩を共にしただけで婚約破棄の正当な理由になる」


それに、とドミニクは怒声で言った。

「ブレイクが白状した。

ずっと前からお前と情を交わしていたと。

泣いて謝った。

これでもまだ嘘をつくのか!」


「ドミニク様、本当です。私は嘘はついていません。ブレイク様と情を交わすなどありえません。どうか、どうか私を信じてください」

涙ながら必死に懇願し、取りすがるジュリアの手をドミニクは払い落とした。


「拐かされたと言うが、それなら何故かすり傷ひとつ負っていないのだ。服は薄汚れているようだがな」

小馬鹿にするように笑う。


「いいか、二度と私の目の前に姿を現すな!

この女を摘み出せ!」

ジュリアはキャンベル侯爵家の使用人たちに無理矢理、邸から摘み出された。


ジュリアが振り返ると、二階の窓からドミニクの母親のイブリンとブレイクがニヤニヤと笑いながら眺めていた。


「謀られた」



そもそも、イブリンは初めからジュリアを気に入らなかった。

貧乏男爵家の娘のジュリアには利用価値も無いし、もっと相応しい令嬢と婚姻させたいと、憚らず言っていた。


確かに侯爵家筆頭のキャンベル家と末端男爵家のエドワーズ家では身分違いだ。

それでもドミニクとジュリアが婚約したのは、ドミニクの父である先代のキャンベル侯爵とジュリアの父が無二の親友だったからだ。


先代のキャンベル侯爵はジュリアを実の娘のように可愛がった。

しかし、昨年落馬して亡くなられてしまったのだ。

ジュリアは実の父を失ったような喪失感を味わった。


そしてジュリアが散々泣いて悲しんでいるうちに、イブリンの態度が変わってしまった。

それまでも温かく接して貰ったとは言い兼ねるが、それでも礼を失する事無かったのだから。

しかし、先代の侯爵様が亡くなられてからは、あからさまにドミニクと別れさせようとしていた。



「どうして信じてくださらないの」

ジュリアはポロポロと流れ落ちる涙も拭かずに歩き続けた。

貧乏男爵家なので馬車の迎えなど無い。


歩き疲れてやっと我が家に辿り着くと、小さな邸の前でジュリアの両親と兄が怒気を纏い待っていた。


「お父様、お母様、お兄様」

ジュリアが泣きながら縋りつこうとすると、三人は汚ないものでも見るような目付きで言い渡した。


「お前はもう、うちの娘では無い。

よりによって、侯爵様の弟と情を交わしていたなど、汚らわしい!

先代の侯爵に何とお詫びしたらいいのか。

あれほど可愛がって貰ったのに、よくも恩を仇で返したな!

金輪際、エドワーズ男爵家には近づくな!

わかったな」


父親はジュリアが裏切ったと信じ込んでいた。

無二の親友に顔向け出来ないと頭に血が上っているようだ。


「お父様、私を信じてください。

私はブレイク様と情など交わしておりません」

ジュリアはまた無実を訴えるが、父親も母親も兄も聞く耳を持たなかった。


「お前のせいでやっと婚約したミア嬢に破棄されたらどうしてくれるんだ!」

兄ダンが喚く。


「恥ずかしくて社交界に顔を出せないわ」

母親も怒り狂っている。


「せめてもの情けだ」

父親は小さな布袋を投げて寄越した。


『何処へ行けばいいの?』

一瞬、親友のグレイシーを頼ろうかと思ったが、王太子の婚約者であるグレイシーの側にこんな醜聞を抱えたジュリアがいたら迷惑をかけてしまうと断念した。


ジュリアはのろのろと布袋を拾い、当てもなく歩き出した。


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