【閑話】のどかな生活
ゆなとヨハンの話。短い
ミュナとヨハン、2人の生活はのんびりしたものだった。
ヨハンは養父の元へは戻らず、2人で小さな一軒家を借りそこからヨハンはこちらで新たに回復師として病院に就いた。ミュナはフリーランスの通訳と翻訳なども請け負って生計を立てている。商人が国外の取引の際に頼んでくる事が多く、思いの外需要があって助かった。
最初はどこか遠慮していたミュナもヨハンの本当の兄の様な優しさに、遠慮が薄れてきていた。ミュナには兄弟が居なかったのでここぞとばかりに、憧れの優しいお兄ちゃんに甘え始めている。ヨハンは貴族として生まれ育ったのでいくら妹との仲は良かったからといって、ミュナの様に甘えてくる事は子供の時位しか無かったので戸惑ったものの今では進んでミュナの頭を撫でたり抱きしめたりしている。
若干問題なのが「え・・・私の世界じゃお兄ちゃんって・・・」とミュナの理想の優しいお兄ちゃん像を押し付けるので、ヨハンには正解は分からずミュナの言う通りの行動を取っていることである。ミュナは人肌恋しい時は決まってヨハンのベッドに潜り込む様になった。ヨハンもまた、ミュナの温かさに安心していた。
ミュナは稼いだお金で田舎の療養施設にいる、幼児退行の症状が出ているというヨハンの妹のエリーナに向けて絵本やおもちゃを送っていた。いつか元に戻ると信じて週末はヨハンと2人で教会に行き祈り、纏まった休みが取れた時は一緒に療養施設に行っておもちゃで遊ぶエリーナと一緒に遊んだりしていた。
エリーナは最初の頃は癇癪を起こしていたが、今ではお友達認定され受け入れられていた。エリーナはミュナと同じくらいの年であるが幼い印象が強く年下に見える。可愛らしくミュナにも妹ができた様で会えるのが楽しみにさえなっている。
ーーエリーナとも一緒に暮らせたらいいな。もっと稼いで田舎に畑のある家を買って3人で暮らせば大変かもしれないけど、2人には幸せになって欲しいからやれるだけの事はやってみよう。もしエリーナが環境の変化に耐えられそうになかったら、療養施設の側に住めば会いに行く回数多く出来るしね!
多く貰ったお城で働いた時の給金を家を買う為の貯金として使わない事を決めた。
♢♢♢♢♢
ミュナは休みで家で家事をこなし夕食の準備をしていると、ヨハンが帰宅した。
「ヨハンさんおかえりなさい!!夕飯はちょっと待ってねー」
奥からミュナの声が聞こえる。
「ただいまゆなさん。ーーこれは?可愛いハンカチですね」
ヨハンは広げて見ると思わず首を傾げた。そのハンカチだと思っていたものは四角く無かったからだ。初めて見るレースの付いた可愛いハンカチの様な物をじっくり見る。ヨハンは構造からハンカチでないのではと気付く。
「これ、ハンカチでは無いですよね?何に使う物なのですか?」
「なんのこーーーーふぁぁぁぁああああああああああああっっっっ!!!」
奥から顔を出したミュナは顔が一瞬で真っ赤に染まり、転げる様にヨハンの前に来たかと思うと引ったくる様にヨハンの手からハンカチらしき物を回収した。
「あ、あのっ勝手に触ってすみませんでした!!」
触られたくない物を触ったのだと気付き、申し訳なさそうにヨハンが謝罪する。しかし、男と同居しているにも関わらず洗濯物をリビングに落としたミュナが原因であることには間違いない。
「ーーいえ......。その、忘れてください......」
消え入りそうな声で恥じらう赤面のミュナは、妹の様に思っていたヨハンはミュナが妹では無いのだと思い知らされるには十分な破壊力があった。
「その、あっ...いや...流石にそろそろ別々に暮らした方が良いかも知れないね...」
「え!?何故ですか!?......下着落とす様な鈍臭い女だからですか?」
「その...やはり、未婚の男女が一緒に暮らしていては間違いが起きる可能性もあるし...って、え?えぇっ!?今のっーーーーすみませんっっ!!!」
今度はヨハンが顔を真っ赤にしてテーブルに隠れる様にしゃがみ込んで顔を手で覆った。
「あの、別に構いませんけど?」
「ーーゆなさん。いくら私がゆなさんの事を妹の様に思っているからと言って、下着を目に付くところに忘れて別に構わないなんて事はないですからね!?はぁー・・・」
ヨハンは顔を覆っていた手で今度は頭を抱えた。
ミュナの下着が見た事の無かったもので、かなりじっくり見た為にしっかり頭に焼き付いてしまい下着と聞いた今は絶対忘れられそうに無い自分の煩悩に頭を抱えた。




