1 プロローグ
20XX年冬のこと
「あー寒い!くそまだ来ないのか!」
ざっざっ
「やぁ待っていましたか。わざわざ来てくれてありがとうございます。」
「やっと来たか。20分も待ったぞ!」
「それは大変申し訳ございませんでした。私中村頼一と申します。短い間ですがどうぞよろしくお願いいたします。」
「俺は田中智だ。それよりおっさん何でこんな山奥なんだよ。」
「すいませんねぇ田中さん。私は足腰が悪くてなかなか家から遠くまではいけないのですよ。」
「ちっ。まぁいい。それよりこいつを50万で買い取ってくれるのは本当か?」
「えぇはいそうです。私は昔から切手の収集が趣味でですね、世界中のいろんな切手を集めることが好きなんですよ。そしてあなたが持っているのはなかなかの貴重なものでしてね。田中さんのTwitterで持っていることを知りとても欲しくなったのです。」
「ふーん。この切手は昔友人から貰ったものでなんとなくTwitterに載せていたんだが、そんなに価値があるものなのか?」
「他の収集家からしたらそんなにたいしたものじゃないかもしれませんが私にとってはとても興味深いものなのですよ。それにこうしてわざわざ取引のために遠くまで来てくれた感謝も入れてのこの金額なのです。」
「そうなのか。でも連絡の時も言ったがなぜ直接じゃないとダメなんだ?郵送でもよかったじゃないか。」
「もちろんそう思いますよね。しかし最近ではちゃんと届いていなかったり、偽物が届いていたりと何かとトラブルがあるとよく聞くのですよ。大事な品物ですから私自身が確認しておきたかったのです。」
「仕方がないやつだなぁ。まぁ俺は切手なんか興味がないしこんなに高く買い取ってくれるのはありがたい。さっさと取引を終らせろもう夜8時だぞ。」
「えぇそうですね。とても冷えていますし。ここは少し暗いのであそこの外灯がある橋のところで取引を行いましょうか。」
ざっざっざっ
「よっこらせっと、では始めましょう。」
「おい!おっさんそんなところに腰かけていて大丈夫か?川の流れは速い。そんな橋の上に座っていたら後ろに落ちて死ぬぞ。」
「大丈夫じゃ心配ない。私にはお構い無く。私にとってはここは落ち着くのですよ。」
「そうなのか?危なっかしいおっさんだなぁ。じゃあもう始めろ。」
「では田中さんのご年齢を確認させて下さい。」
「22だよ。」
「22ですか...とてもお若いですねぇ。うらやましい限りです。」
「はぁ、」
「連絡にも話したとおり身分証と通帳、印鑑をお持ちですか?」
「あぁ持ってきたが何に使うんだよ。」
「それは後ほど。次にご職業はなんですか?」
「今はフリーターだよ。」
「では、ご両親や友人との今の関係を教えて下さい。」
「両親は秋田にいるんだが俺が家を出ていったきり連絡はしてないな、だちは地元にいるが今はたまに会うくらいだ。」
「そうですが...それは私にとってとても都合がよろしいことですな。」
「ん?どういうことだ?」
「それはさておき、最後にこの紙に田中さんの住所、銀行の暗証番号、携帯やメールアドレスのパスワードを...」
「おいまてよおっさん!この取引でそんな情報必要かよ!」
「いえいえ、その紙に書くだけでけっこうです。私が見るつもりはありません。書き終わりましたら、田中さんのかばんやポケットなどにしまってください。」
「意味あんのか、それ?」
「まぁまぁ気にさんでくだされ。もしそれが面倒でありましたらさらに1万円追加で上乗せさせてあげましょうか?」
「ちっ。仕方がねぇな。」
ざぁざぁざぁ
「昨日は大雨でしたから川がいつもより流れが多いですな。」
「あぁそうだな。こんな人気のない田舎でこんな遅い時間に取引なんて馬鹿馬鹿しい。ほら書いたさ、大事な情報があるんだおっさんには絶対見せないからな!」
「けっこうでございます。ではお品物を、」
「ほらよ、写真のとおりにまだきれいな状態だろ。」
「えぇそうですね...」
「ん?おっさんどうしたんだ?」
「ほんとこんな誰もいない山奥でわざわざ取引のためにやってくるなんてお前はアホだなぁ。」
「はぁ!なんだよおっさん!どういうことなんだよ!」
「そもそも私はこの切手になんか全く興味なんかない。この取引はお前をここまで呼び込むための嘘なんだよ。」
老人はそう言って切手を川に投げ捨てた
「なっなにしてんだよおっさん!ふざけんな!騙したのかよ!なんのために俺を連れてきたんだよ。」
田中は怒りに達し老人の胸ぐらを強く掴んだ。
「てめえこの橋の上から川につき落としてやろうか!あぁー!お前の目的はなんだったんだよ!」
「私の目的か...私の目的はお前の...」
老人は胸ぐらにある田中の手を掴んだ。次の瞬間激しく電流のようなものが二人の体のなかを駆け巡っていた。
ぐわぁ!なっなんなんだぁーこれ。手がしびれる!
「おっさん手はなせよこら!おい!おっさん!」
どういうことだ力が入らない。これはおっさんの力なのか?だんだん手の感覚がなくなってくる。うっ左手も?足もだ!あれ?まわりもだんだん見えなくなって...あぁ意識が遠のいていく...。
全身の感覚がなくなり視覚や聴覚さらに意識までなくなった。しばらくすると意識が現れじょじょに全身の感覚が戻り、周りを見渡せるようになった。しかし、目の前にあるのは思いがけないものだった。
「えっ?何で俺がそこにいるんだ?ん?体の感覚が違う!」
田中はすかさず自分の手を見たそこにはしわしわの太い手があった
「うわっなんだこれ!服もなんだ?おっさんの地味な服じゃないか!」
「今回も入れ替わりに成功だ!田中くん君の体と私の体を交換させて貰ったよ」
「えっ俺はおっさんの体になっているのか!」
「そうだな。お前はもう老いぼれジジイの体だよ」
「ふっふざけるな!俺の体を返せ!」
「無理だ。私の目的はお前のからだなんだよ。」
「なんだと!」
「こんな年老いた体じゃ誰も譲ってはくれまい。仕方のないことだ田中くん君の用はもう済んだ死んでくだされ。」
田中の体を手にした老人は老人の体となった田中を川へつきだした。
「うわぁー、やっやめろー!」
「私が橋の上に座っていたのはこうして入れ替わったあとに元の体を処理しやすくするためさ」
「しっ死ぬ!助けてくれー!」
「勝手に体を奪ったら死ぬまで俺を憎み追いかけるだろ?そういうときはこうして殺しておかないと気が進まないのさ。ほれ!」
老人の体をした田中は足を柵にはさんで必死に抵抗していたが若い田中の体の力には及ばず橋から足が離れ川の音だけが聞こえる暗闇のなかに老人の体は消えていった。
バシャーン
「よし終わった。うむ、誰もいないな」
彼は橋の上に花と自分で書いていた遺書をおき、その場を離れた。
「健康そうだな、なかなかのいい体が手に入ったな。42年ぶりの新しい体だ。...ふん、所持金はこんなもんか。」
がさがさ
「携帯のパスワードはちゃんと書いるなよし。」
ざっざっ
「今日から俺が田中智だ!」
彼の名は中村頼一しかしたった今、田中智に変わった。彼の能力は肉体から魂を取り除き自由に魂を移動させることができる。そう彼は自分の体を都合のよい他の体にのりかえていくことで魂だけは死ぬことなく生き続けている。本当の名前は中村でも田中でもない。乗り換えるたびに名前も変わっているから本当の名前は彼以外知らない。いや彼自身も忘れかけているだろう。今までに乗り移った体はもう50体以上にのぼり、すでに400年以上も生き続けていたのだ。彼の体を交換してくれる者がいなかったら、容赦なく殺してまで奪う。それが彼のやり方なのだ。
今日も人殺しによって新しい身体を取りかえさっていた彼だがこの山奥での出来事をまたまた遠くから一部始終見ていた者がいた。
「なっなんなんだ!とんでもないものを見てしまった!」
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