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3 最悪の出会い

 

 ◇◇◇


「こいっ!」


 アレクサンドルが無理やり手を引っ張ると、サリーナはふらふらとよろけ、その胸の中に倒れ込んだ。その体の思いがけないほどの軽さと、折れそうな程の細さにぎょっとする。


 美しさばかりに目を留めていたが、よく見ると驚くほど痩せているし、体は冷え切っていて冷たい。小さな指先はかじかんで少し赤くなっていた。


 アレクサンドルは、初めてみるサリーナをまじまじと観察した。抜けるように白い肌も、どこか顔色が悪く不健康そうに見える。


(ちっ、やはり、まだ子供ではないか。もう15歳になった筈なのに、とてもそうはみえん)


 忌々しく思いながらも、どこか引っかかるものがあることも確かで。それでも怒りに我を失っていたアレクサンドルは小さな疑問を押し込めた。


「こいつはこのまま俺が貰う。お前たちは我が兵がくるのを大人しく待つがいい。最も、いまここで逃げても構わない。その場合、最後のひとりになるまで、必ず見つけ出して殺してやるから楽しみにしていろ」


「か、必ずここで待っております。なにとぞ、命、命ばかりはお助け下さい!」


「ふんっ、生き汚いことだ。恥をさらしたくないと願うなら、自害してもいいのだが?」


「ヒ、ヒイ……」


 泣きながらブルブル震える王をみて白けたように鼻を鳴らすと、アレクサンドルはサリーナを左手に抱え、飛竜に飛び乗った。


「落とされたくなければしっかり掴まっていろ」


 顔も見ずに投げかけられた言葉に、サリーナは小さく頷いた。アレクサンドルの胸にぎゅっと顔をうずめ、震える小さな手でしがみつく。


 その頼りなげな様子をチラリと見つめ、徐々に頭の冷えてきたアレクサンドルは小さく溜め息を付いた。まぁ、やってしまったものは仕方がない。十分に怖がらせたようだし、取りあえず連れて帰ろう。


 そして、真っ直ぐラクタスへと、向かった。


 ◇◇◇


(お腹空いたなぁー)


 アレクサンドルの腕に抱かれ、サリーナはぼんやり考えていた。もう、何日食事を抜かれているかわからない。最後にまともな食事をしたのはいつだろうか。


 姉達の嫌がらせもあり、サリーナは食事も満足に与えられないことが多かった。家族が食事を楽しむ席に呼ばれながら、サリーナの分だけ用意されていないのも良くあることだ。たまにまともな食事が用意されていたとしても、


「あら、サリーナはダメよ。こんなもの食べたら太ってしまうわ」


「殿方は羽根のように軽い女がお好みのようよ?」


 そう言いながら途中で取り上げてしまうのだ。サリーナの体重は丸々と太った姉達の半分もなかっただろうが。それでも、細身ながら女性らしく優美な丸みを帯びていくサリーナの体に、姉達はますます嫉妬を募らせるのだった。


 サリーナの母はとても若く、美しい人だった。しかし、そのことは母にとって不幸なことだった。旅先で母を見初めた王が、無理やり王宮に連れ去ったからだ。


まだ幼気(いたいけ)な少女だった母は、突然家族や愛するものと引き離され、王の慰み者(なぐさみもの)にされてしまった。愛されていたわけでもないのに。


(確かに私もお母様と一緒ね。こうして奴隷として見知らぬ男に連れ去られるのだから)


 母と同じ境遇(きょうぐう)になった自分に、苦い笑いが込み上げる。この人は私に奴隷になれと言った。すでに私は奴隷なのに。


 サリーナは自分が、王や、姉達の嗜虐心(しぎゃくしん)を満たすためだけの道具であったことを理解していた。サリーナが賞賛(しょうさん)を浴びれば浴びるほど、サリーナに対する嗜虐心は強くなるのだ。


 サリーナに出来るのは、ただ、感情を殺すことだけ。頭を空っぽにして、考えないようにするだけ。


(この人も、お父様と同じ。私から奪えるだけ奪って飽きたら捨てるのね)


 それなのに、サリーナをしっかりと抱く腕は太く逞しく、その温もりさえ心地良く感じてしまう。


(馬鹿みたい……)


 ――――どこか遠くで、懐かしい子守歌が聞こえたような気がした……


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