case.6 Hello, new World!
剥き出しのエンジンから伝わる鼓動は、いつだって僕をワクワクさせる。晴れた日なら最高。僕を未知の世界へ連れて行くマシンは、メタリックブルーの体を光らせて、早く行こうと僕を呼ぶ。
あの丘へは思ったより早く行けた。幼い頃、もっと遠くにあった気がしたけど、そんなことなかった。目的地を失った僕は、新たな目的地を決めた。見たことない、行ったことのないところへ行こう。
学生時代に乗り回したバイクを取り寄せ、エンジンオイルを入れ替える。僕という人間も、少し生まれ変わった気になる。初めは海に。次に山に。次はだだっ広い草原に。仕事が休みの日は、こうして新しいものを見るのが僕の趣味になった。
病気から回復して仕事に戻った僕に、当たり前の世の中は当たり前な顔をして僕を受け入れた。いや、当たり前だった世の中か。
WHOから新型ウィルスによるパンデミックが発表されてから半年が経った。世界は少しずつだが元に戻ろうとしていた。病から回復した人には特殊な抗体が生まれ、感染症の殆どを自己回復できる程の免疫力を手にした。ウィルスによる進化であると専門家は言っていたけど、正直良くわからない。
ウィルスは、十億人を殺した。いや、今もまだ殺し続けている。特殊な抗体を持つ人からワクチンを作ろうとしたが、どうやらDNAに作用して個人にしか効果が生まれないものらしく、意味をなさなかった。ウィルスは人間を選別するために作られたものだ、陰謀論だ、とかなんとかネットでは騒いでいるけど、そんなのどうでもいい話だ。現に僕は、こうして生きている。生きる事に誰からの干渉を受けずに。幼い頃、何だってできると思い込んでいたあの時の僕のように。
「さあ、今日はどこへ行こうか!」
今の僕ならどこへだって行ける。
WHOから新型ウィルスによるパンデミックが発表されてから半年。この半年間で、世界は、選択を余儀なくされた。生きるか死ぬか。最も単純で、最も恐ろしい選択。それでも、多くは生きるを選ぶ。そこにどれだけの苦痛があるとしても。そこにどれほどの哀しみがあるとしても。そこに、絶望しかないとしても。
なぜなら、ほんの僅かな希望にすがってしまうからだ。人が人として生きるとは、希望を諦めきれない愚か者の生き方かもしれない。
でも、その希望の片鱗を見つけたとき、人は極上の幸福を得られるのだ。それは、絶望も哀しみも苦痛も、吹き飛んでしまうほどの。
ハロー、ニューワールド。これは、僕と、これからの僕達の物語。
―読み人知らず




