第9話「養成所卒業」
冒険者生活8日目。
ダンジョン5Fからスタート。
カエルとの闘いは続く。ゲロゲーロ。
火は弱点なんだろうけど、爬虫類系モンスターは紙や木のように燃えない。
「カエルって弱点ないの?」
「あのつぶらな瞳をくり抜いたらいいんじゃないの?」
「アナトって…意外とグロい事言うなぁ」
「モンスターのくせにちょっとかわいいもんね~」
「そっち?」イリビも変だな。
そりゃ、5歳から毎日毎日モンスターを相手にしていたら頭おかしなるで。
いや、真直ぐ育った方か。
世の中にはおかしな奴が五万といる。
この子たちが立派な大人になるかどうか、俺にかかってたりする?
誠実に行動しなければ。
「目をつぶすってのもいいね。どこが弱点なのか一つ一つ探ってみようか」
「あー…そうね。何で気が付かなかったんだろ」
「たしかに。もしかしてそれって全部のモンスターにやっとけば良かった…」
「いやぁ…早目に気付いて良かったよ」
「ヒコにとってはね」
「あー…考えて戦ってなかったなー」
「これからだよ」
「そうね」
「そーかもね~」
カエルとの闘い。
弱点は目だった。目を潰されたカエルはあらぬ方向に攻撃をくりだして無力と化した。
目を潰されてまともに動ける生物はいないだろう。
もしかして、モンスターの弱点を考える必要なんてなかった?
「ボス部屋を見付けたけど、どうする?」
「行こ~」
おお。ぼーっとしていた。何も考えていないのは俺だった。
「行こう!」
ダンジョン5Fのボスは…イモリ?
紫の体に藍色の斑点のある大きいイモリだ。
やっぱりこのフロアって爬虫類系モンスターではなく、両生類系モンスターなんじゃないの?
とはいえ、弱点は同じだった。
目を潰されたでっかいイモリは、クネクネクネクネあっちへこっちへ意味のない攻撃を繰り返していた。
しっぽを切ると逃げていくのだろうか。あ、逆か、逃げるために切るのか。
そんなことを考えている間に、アナトがとどめを刺してしまった。
あれ?俺って何もしてない?
「キャーッ!!」
「こここここれっっってーっ!」
ついに二人の見習いレベルが5となった。それは卒業を意味する。
「私は戦士よ!予定通りね」アナトは戦士で。
「私はシーフ~」イリビはシーフ。
二人には何か決め事があったようだ。
「僕はアイテム士~」
こういう時は勢いが重要だ。今がチャンスだ。
ヒコ 男 5歳
アイテム士Lv3
アビリティ アイテム(アイテム使用の効率化)
装備 ナイフ
アナト 女 6歳
戦士Lv1
アビリティ 重装備可能(装備の重さ無視)
装備 ナイフ 革の小盾
イリビ 女 6歳
シーフLv1
アビリティ トラップ回避
装備 ナイフ 革の小盾
「ええ?ヒコもジョブチェンジ可能になったの?」
「うん。そうみたい」
「そーなんだ~。で、何でアイテム士に?」
「魔法職に興味があって」
「でしょうね」
「まあ、アイテム士になるってことはそーゆーことよね~」
たまたまバランスの良いパーティになって良かった。
「じゃあ、【ちんちくりん同盟団】は今日までね!」
「だね!私たちにとっては1年、ヒコにとっては1週間だけど解散ね~」
「ええ?解散なの?」
せっかくバランスのいいパーティになったのに!
「だって、見習いを卒業したらツメさんのところも出ないといけないから」
「ま~、私達はこれからも一緒に冒険者をやっていくけど…」
「「ね~」」
うわおっ。俺ってお邪魔モノだったの?
「俺も一緒じゃダメ?」
「ええ?ヒコも?」
「え~。それはちょっと~」
「「いいよ~」」
いいんかいっ!
「なんだよ~」
小さくても、異世界でも、女子は女子だ。
「どうする。ツメさんに報告する前に、6Fに進んで稼ぐよね?」
「ひとまず宿賃くらいは稼ぐ~」
「もしかして、今日で養成所を追い出される?」
「そうよ。もう見習いじゃないから、出て行かなくちゃならないわ」
「初宿屋、楽しみ~」
「お、おお。楽しみだけど、お金がかかるね」
「さ、行きましょう!」
「行こ~」
「い、いこう」
アナトに話を打ち切られて、6Fに進んだ。
ダンジョン6Fはゾンビのフロアだった。
このフロアはゾンビが最大6匹も出てくる。
が、やはりアナトとイリビは人間型のモンスターには強い。
戦士とシーフにジョブチェンジして、ステータスも上がったんじゃないだろうか。
このフロアは戦闘効率もよく、経験値も良かったのだろう。
何匹目かでさっくりレベルが上がった。ボス以外でもレベルは上がるんだな。
ヒコ 男 5歳
アイテム士Lv4
アビリティ アイテム(アイテム使用の効率化)
装備 ナイフ
アナト 女 6歳
戦士Lv2
アビリティ 重装備可能(装備の重さ無視)
装備 ナイフ 革の小盾
イリビ 女 6歳
シーフLv2
アビリティ トラップ回避
装備 ナイフ 革の小盾
その後は、さらに楽勝だった。
アナトがゾンビをバッタバッタと切り倒して行く。
戦士って強いなぁ。
俺とイリビは見習いの時とほとんど変わっていないのだが、アナトは目に見えて強くなっている。
あーゆー風に自覚できるくらい強くなったら楽しいだろうなぁ。実際、楽しそうだし。
「さあ、帰ろう!」
「うん!」
「おう!」
ダンジョン探索8日目終了。
まずは、カジさんのところで魔石を換金だ。今日は何と5000シュを手に入れた。
これにはカジさんも驚いていた。
そのままアナト用のショートソードを購入した。
なんたって5000シュちょうどだったからだ。
ショートソード言っても6歳の幼女が持つには大きい。全然ショートではない。
アナトはショートソードを背負っている。見た目は某アニメの黒の剣士だ。
このアンバランス感がいい。
ツメさんの養成所に報告へ行く。
何だか緊張するなぁ。
「ツメさん!ついに戦士になりました!」
「私はシーフに~」
「僕はアイテム士になりました!」
ツメさんを見かけていきなり本題に入るアナト。それに釣られるイリビと俺。
まぁストレートでいい…のかな?
「もうかい?ヒコもかい?7年も8年も養成所にいる子もいれば、あんた達みたいに1年で出ていく子もいる。わかんないもんだね~。頑張んなよっ!」
「はい!これまでありがとうございました!」
「ありがとうございました~!」
「ありがとうございました」
「あ。銅のナイフだけ返して貰っていい?」
このババア、けっこうケチだな。
「「「はい」」」
銅のナイフを返した。
そういえば、この世界の装備品は傷つかないらしい。
消耗品だったら、一日で壊れているだろう。
「ふふ。じゃあ、これは選別だ。3人で一枚だよ」
「「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
渡されてのはメモだった。
ジョブチェンジ表だ。これは必要だ!
前言撤回。ケチなババアと思ってすみませんでした。ツメさんはいいおば様だ。
メモの内容はこの通りだった。
見習いLv5
→ 戦士Lv10 → アーチャー
→ 戦士Lv30 → ソルジャー
→ 武道家Lv10 → ハンター
→ 武道家Lv30 → 格闘家
→ シーフLv10 → ハンター
→ シーフLv30 → 忍者
→ アイテム士Lv10 → 黒魔導士 白魔導士
→ アイテム士Lv15 → 鍛冶師 調合士
「まだ続きがあるけど、それは自分たちで見つけるんだよ」
「「「はい!」」」
その後、【ドクロのガイコツ】と【グラディエーターズ】の面々に挨拶を行い、各実家に報告を行った。
宿屋では料理が出来ないので、賃貸が決まるまでは実家のクズ野菜を買うことが出来ない。
冒険者見習いを卒業したことよりも、クズ野菜を買えなくなることを母に伝えたら、母は笑っていた。
「そんなことよりもおめでとう」とのことだった。
何だ。5歳で米俵と交換されたので、嫌われていると思っていた。良い親だったのか。
いつか親孝行するとしよう。
俺たちはそれほど養成所に荷物を置いていない。
それぞれりゅっくに荷物を詰めて、宿屋に向かった。