第7話「弱点を見付けよう」
ダンジョン探索5日目。
なんてことだ…。せっかく銅のナイフから鉄のナイフに装備を一新したのに、植物系モンスターのウッドソンとの戦闘時間に変化がない。
攻撃力が若干上がっているはずなので、微妙に時間が短縮したのかもしれないが、1体倒すのに20分程度かかっていたのが、15分くらいになった程度だ。
ずっとボス戦をしているような感覚だ。
「ウッドソンの樹皮を剥がすのに、銅のナイフも鉄のナイフも違いがないわね」
アナトの指摘にイリビが納得する。
俺も同じ意見だ。
「このフロアで戦うよりも、2Fへ降りるか、無理をして4Fの進む方が良さそうだね」
ちょっと思い切った提案をしてみた。
「うーん。でもまだウッドソンと戦いなれてないから、進むのは難しいんじゃない?」
アナトは否定派か。
「そーねー。ザコの樹皮にも苦労しているのに、ボスの樹皮が剥がせるか疑問ね~。樹皮が剥けなかったら詰むわよ?」
イリビも否定派か。
「そうだね。じゃあ、ウッドソンと戦い慣れるまではこの階層にとどまった方が良さそうだね」
二人のおっしゃる通りだね。
ダンジョン探索5日目はウッドソンに悩まされて終わった。
ところで、こちら側もモンスター側も最大パーティメンバーは6人らしい。
ダンジョン1Fだとモンスター側の最大パーティメンバーは1匹、2Fだと2匹…と増えていき、6F以上でも6匹が最大数らしい。
次の階層4Fに進んだら、困ったことに誰かが1人でモンスター2匹を相手にしなければならない。
それも俺たち【ちんちくりん同盟団】が次の階層に進めない理由である。
ダンジョン探索を終え、まずは、鍛冶師のお店へ向かい、魔石の換金を行った。
「ついでに、この矢も1本もらえますか?」
「矢だけ?弓は?」
「あ。矢だけでいいです。これって燃えます?」
「あー。燃やして使うアーチャーとかいるみたいだし。燃えるんじゃないか?」
「あ。じゃあ、矢を20本と、松明も買います!」
「はいよっ。合計210シュね」
「はい」
明日はダメ元でウッドソンを燃やしてみよう。
鍛冶師のお店に寄った後は実家からクズ野菜を購入し、冒険者養成所に戻って晩飯だ。
これで冒険者5日目が終了。
冒険者6日目。
今日もダンジョン3Fでウッドソン狩りだ。
「さてと、松明に火をつけて…」
「松明いる?」イリビに不審がられる。
「いやぁ、ウッドソンが燃えないかと思ってね。火矢を作る種火用だよ」
「あー、そう。弓は?」
「弓って使ったことがないから、手で刺そうと思って…」
「あー…そうなっちゃうよね」
「うん」
理解は得られたようだ。
さっそく、ウッドソン2匹が現れた。
アナトとイリビが対処しているスキに火矢を突き刺した。
乾いた樹皮は良く燃える。
特にウッドソンの樹皮は硬く繊維質だったため、燃えるんじゃないかなと思ったが、予想はバッチリ当たっていたらしく、2匹とも消し炭…とはならず魔石を残して消えた。
「うわぉ!凄い!」
「こんな裏技が!ヒコやるわねー」
「ふゅー。予想が当たったね。まあ今回たまたまラッキーだっただけだけど。じゃ、ボス部屋行こうぜ!」
この勢いのまま、ボス部屋に行こう。弱点はわかったのだし、さっさとこのフロアから離れたい。
「行きましょうか!」
「その予定だったしね!」
勢いって重要!
ダンジョン3Fボスは、リンゴの木のようなモンスターだ。
ウッドソンと攻撃パターンは同じで触手のような枝をびゅんびゅん振り回してくる。
サイズが少し大きいくらいで、ウッドソンと変わりはない。
まぁ、ウッドソンとは違って、リンゴのような赤い実を付けているのが特徴的だが。
あれって食べられるのか?やっぱり毒でもあるのだろうか…
いつも通り、アナトが敵の攻撃をいなして躱してスキを作る。
イリビがアナトが作ったスキを突く。
かわいい6歳児コンビだ。
二人の攻撃にイライラしたモンスターが大振りになったところで、俺の登場だ。
こっそり後ろから、火矢を突き立てればいい。
左手はそえるだけ、という風に丁寧に樹皮に火矢を突き刺す。
階層のザコモンスターとボスモンスターの行動パターンは同じ。おそらく弱点も同じ。
予定通り、ボスモンスターの弱点も火だった。
でっかい火柱が上がり、ボスは焼け死んだ。
「やっぱり火が弱点だったのね」
「まあ、火に強い生物っていないもんね」
「たしかに…」
モンスターが生物かどうかは置いとくとして。
おお。レベルが上がった。
俺のレベルが二人を逆転したということは、転生得点の経験値上昇が効いている証拠だ。
あと、鉄のナイフではなく、ナイフなのか。
ナイフは鉄なのが常識、ということなのかな?
ヒコ 男 5歳
見習いLv4
装備 ナイフ
アナト 女 6歳
見習いLv3
装備 ナイフ
イリビ 女 6歳
見習いLv3
装備 ナイフ
休憩を挟んで、ダンジョン4Fへ進んだ。
「ルキたち【グラディエーターズ】に会ったりして」とイリビ。
「ルキ達って4Fを探索しているの?」
「そうみたいよ~」
へー。追いついたのか。
まあ競争をしているわけでもないし、他のパーティのことは関係ない。
ダンジョン4Fのモンスターはガーゴイルだ。
翼を持った悪魔系モンスターで、剣や槍を持った者もいる。
しかも4匹出てくる場合もあるので、3人しかいない俺たちは少し不利だ…と思っていた時期もありました。
ガーゴイルは知性が高くないらしく、行動パターンがゴブリンと似ている。
行動パターンがゴブリンと似ていて大人サイズ…そう思うと、ガーゴイルなんてただのホブゴブリンだ。
1年間もゴブリン狩りをしてきたアナトとイリビはガーゴイルの攻撃を目をつぶってても躱せるのではないだろうか。実際、鼻歌まじりでガーゴイルの攻撃を躱している。
このフロアは効率が良い。
数日留まってもいいくらいだ。
「イリビ、ヒコ。ちょっと早いけど、ボス部屋を見付けたら入っちゃわない?」
アナトが攻めたことを言っている。
「私は賛成ー。これならボスにも勝てると思う~」
イリビもか。
「じゃあ、賛成。ボス部屋を見つけたら行っちゃおう」
これだけ攻撃を受けなかったら反対する理由がない。
とはいえ、本日はボス部屋が見つからなかった。
6日目のダンジョン探索は終了。
カジさんのお店へ行き魔石を換金。
「今日は、また沢山あるねー。ほらっ。2000シュだ。この調子で頑張りなよ!」
「「「はい!」」」
「あ。ところで、僕たちに合うサイズの盾ってあります?」
「あーこれなんてどうだい?革の小盾」
「大きさもちょうどいいですね。いくらですか?」
「1つ1000シュだね」
ギリギリ買えない。
「アナトは買った方がいいんじゃない?躱すしたり、いなしたり出来なかった時に、受けが出来るよ」
「そうね~。いつかは買おうと思ってたけど、買い時かもね。じゃあカジさん1つ」
「私も買う~」
「おうっ。じゃあ2つだね。ヒコは?」
「いやあ、僕はお金が足りないし、あんまり必要がないからいいです」
「了解。じゃあ、2つで2000シュだね。まいどっ」
その後は、お決まりの実家から野菜を購入し養成所に戻り、晩ご飯を食べて冒険者生活6日目が終了。