第5話「小休止」
「ふぁー。お、おはよう」
「おはよー。」
「おはよう。じゃ、とっとと食べて行くわよー」
我らが【ちんちくりん同盟団】の朝は早い。起きてからダンジョンに入るまでも早い。
「ちょっと、待って」
「何?何してんの?」
「まぁね」
昨日、鍛冶師のカジさんに貰った箱に粟のお粥を詰めているだけです。
また、飲み食い出来ずに夜までダンジョンに籠りっぱなしなんてまっぴらだ。
しかし、今見つかったら、また面倒臭いのでこっそり詰めている。
「さ、行こーぜー」
「は、はぁ。あれ?その袋は昨日の?」
「そうそう。こっちの方が持ちやすいからね」
アナトもイリビも持ち物が極端に少なかった。おそらく、戦闘を意識した装備なのだろう。
それが、ここのやり方なのだろうが効率が悪い。
登山だって、大きなリュックに食べ物も飲み物も詰め込んで山を登る。使うかどうかもわからない替えの服やヘッドライトを入れたりして重くなってしまうが、最終的にはそれに救われたりする。
もし、軽いからと言って手ぶらで山に登ったりすると、死ぬ。
そんな思いもあって、出来る用意はしておいた方が良いのだ。いくら甘ったれと言われようが。
ダンジョン。
今日も【ちんちくりん同盟団】はゴブリンを狩っていく。
「なあ?俺らってゴブリン以外、倒さないの?」
「ダンジョン1Fはゴブリンしか出ないのよ」
「2Fに行けばいいんじゃない?」
「んん…もうそろそろ行けるかも…知れないけど、ボスがいるから」
「各階にボスがいるの?」
「そうよ。ボスを倒したら次の階に進めるの。まだチャレンジは早くない?」
アナトもイリビもレベルは2。俺は1。
パーティは最大で6名なのに、俺たちは3名。危険を冒してまで上に進む必要はあるのか?
「行こう!」
「えっ?行くの?」
「行けそう?」
「行こう!俺たち冒険者だろ?冒険しようぜ!」
「そ、そうね!行きましょう!」
「行きましょう!」
アナトとイリビは1年間もこのダンジョン1Fを巡回していたのだ。
庭の様なもので、ボス部屋の位置も把握している。
少し緊張はしているが、ボス部屋までの足取りは軽い。行きたくて行きたくて仕方なかったのだろう。
「さあ、入るわよ!」
アナトがにっこり笑ってこっちを見た。
「おう!」
うわ。なんか緊張してきた。土壇場に弱いから嫌だな…
1Fのボスは、たぶんホブゴブリン。
これまでのゴブリンは俺たちと同じ大きさで、小学1年生くらいのサイズであるが、このホブゴブリンは成人男性くらいの大きさである。
大人1人 対 子供3人だと思うと、何だか勝てる気がしない。
しかも、こん棒みたいなの持ってるし。
相対的に見たら、ギガンテスだよ。俺らが小さいから。【ちんちくりん同盟団】とはよく言ったものだ。
「ぐわっ。けっこう速い」
ホブゴブリンは足も速いし、素早い動きでこん棒をブンブン振り回す。
けっこう厄介だ。
「フッフッ」
アナトはホブゴブリンのこん棒をギリギリのところで躱し続けている。
しかしリーチの違いからか、反撃は出来ないでいる。
「しゅっしゅっ」
そのスキをイリビが的確に攻撃を食わらせている。流石息の合ったコンビネーションだ。
一年間も一緒に戦ってきた二人なのだ。
しかし、決定打にかける。
浅い攻撃でもダメージは蓄積していき、いつかは倒せるのだろうが、人間披露するとミスをおかすものだ。
「うりゃ!」
ミスをしてアナトがやられないために、俺はホブゴブリンのアナルに銅のナイフをぶっ刺した。
「「あ…」」
アナルが急所だったんだ…ホブゴブリンは一撃で煙となり、ちょっと色の薄い魔石を落とした。
「なんだかなぁ…」
「そのナイフ、洗いなよ」
「うん…」
そして、レベルアップを果たした。
ヒコ 男 5歳
見習いLv2
装備 銅のナイフ
アナト 女 6歳
見習いLv3
装備 銅のナイフ
イリビ 女 6歳
見習いLv3
装備 銅のナイフ
「じゃあ、ちょっと休憩を」
「また甘ったれたことを…」
「いやあ。ほら、水分たっぷりのお粥を持ってきたから、二人とも少しずつ食べて」
「まあ…あるなら」
まんざらでもなさそうだ。
やっぱりこの二人も飲まず食わずで一日戦うなんて苦しかったんだ。
「これからは、モンスターを5匹倒す毎に小休止を挟んでいくことにしてもいい?」
「小休止ってどのくらいよ?」
「今くらい」お粥一口程度だ。
「そのくらいだったら良いわ」
「お!通った!」
「さ、行くわよ」
「あ、はい」
ダンジョン2F
「おおっ!ゴブリン以外のモンスターだ!」
「パンサーよ。爪も牙も強力だから気を付けて!」
「ラジャ!」
「何それ?」
パンサーね。パンサー。
どう見ても地球にいるパンサーと同じだ。
虎もライオンもクマもモンスターだ。その方がしっくりくる。
で、猫は小悪魔だ。
「あれ?2Fに出てくるモンスターって意外と簡単に倒せるものなのね」
「わたしたち、強くなってる?」
なってるなってる。レベルが上がってるからね。
ダンジョン2Fでは、パンサーとゴブリンが出現した。
約束通り、モンスター5匹につき1回休憩を入れたので、昨日よりも冒険が楽になった。
「ダンジョンで食べるお粥も悪くないわね」
「悪く…ないかも」
アナトにもイリビにも、休憩は大切ということがわかったようだ。
いや、一年もダンジョンに籠っていたら、ちょこちょこ休んだ方が効率が良いと気付きそうなものだが…真面目なんだろうな。
何匹目かのパンサーが「パンサーの爪」をドロップした。
「これ、どんなアイテム?」
「傷薬を作るための素材だよ」
げっ!傷薬って素材から作り出すものなんだ。
「パンサーの爪以外に何が必要なの?」
「えーっと、たしか…爪類とキノコ類と、何とかっていう草よ」
「3種類を配合するの?」
「そう、それの配合具合によって回復量が変わるみたいよ。たぶんね」
「なるほど。素材を全て揃えて傷薬を作るのはまだまだ先になりそうだな」
「そうねー。傷薬の素材を全て集められる冒険者なんて、もう一人前レベルよ」
「ふーん」
こりゃ素材を集めるのすら大変そうだな。
と、いうことで、ダンジョン探索2日目は終了。
集めた魔石をカジさんに買い取ってもらい、70シュ手に入れた。
「じゃあ、今日は一人20シュでパーティ用に10シュね」
「はーい」
「へーい。じゃあ、また実家から野菜を買ってくるよ」
「うん。よろしくねー」
また実家へ。意外と乳離れ出来ていないのか?俺。
「ただいまー」
「あら?ヒコ。また野菜?」
「そうそう。ある?」
「あるよー。昨日と同じくらいで。あっ。今日は20シュ払えるよ」
「あらー?何だかこっちが得してるみたいで悪いわね。クズ野菜なのに」
「いやいや。あっちも大人数で助かってるよ。じゃあ、貰ってくね」
「どーぞ-」
ちなみに、俺は14人兄弟の13番目だ。
農家で子沢山な家の子。それが俺だ。
「ただいまー。あっツメさん」
「あら。ヒコ。二日目にして2Fに行ったんだって?最短記録だね。その調子で頑張りなよ」
「はい!」
「それに、ご飯もありがとうね。みんな喜んでるわ~。わたしもね」
「はい!」
「おー。今日も俺らの分まで作ってくれてんのか?お前ら!」
「そうよ。ヒコの家が農家で助かるわ」
「ふふん。ルキ達にも分けてあげるから、待ってなさい」
アナトとイリビが自慢気にしている。農家ってのも悪くないな。
「バカ野郎!先輩の俺らが貰ってばっかってのも悪いだろう。だからこれも使ってくれ!」
【グラディエーターズ】団長のルキがドンっと机の上に置いたのは、鶏肉だった。
七面鳥くらいのサイズで、けっこう大きい。
「うわっ!豪華ね」
「ははっ。うちのルーシラの実家が畜産やってんだよ。で、卵を産めなくなった鶏を1匹絞めさせてもらったのさ」
「処理も完璧ね」
「そりゃ、ルーシラの奴は小さいころからずっとやってっからな。楽勝よ」
「おっと。先を越されちゃったね。実は僕もこれを持ってきたんだ」
お。年長者の【ドクロのガイコツ】リーダーのクィンだ。
「なに?」
「塩と胡椒さ。うちのコーラの実家が商人でね。少々高価だけど、腐るものでもないし、沢山買ったら安くしてくれてね」
「うわあ!最高ですね!」
「だろう?美味しくなるよ!」
食材を持ち寄ることで、食事がいっきにグレードアップした。