第4話「正直しんどい」
「おっこれ何?」
ゴブリンは掌よりも小さい大きさの黒っぽいものを落とした。
「あー。魔石よ。拾っといて」
「魔石?魔石って何?」アナトに聞いていみた。
「魔石が何かは知らないわ。でも魔石3個でだいたい1食分の値段で売れるから必要なのよ」
「あ。なるほど。俺たちって財宝を得るために、ダンジョンに入ってるわけじゃなくて、この魔石を得るためにダンジョンに入ってるってこと?」
「どっちもだけど、私達もまだ財宝なんて見たことがないわ。当分は魔石が目当てね」
「へー。けっこう辛いね。朝昼晩ご飯を食べようと思ったら3人で27個も魔石を手に入れないといけないんだ」
「1Fのゴブリンだとそうね。上層階に行けば、モンスターが上等な魔石を落とすから、けっこういい稼ぎになるって聞いてるわ」
「あ…そりゃそうか」
「そうよ。見習いの内はそんなもんよ」
横からイリビにつっこまれた。
「うりゃ」
「ぎゃーっ」
「うりゃ」
「ぎゃーっ」
俺たちはダンジョン1Fでゴブリンを倒し続けた。
アナトもイリビも俺と強さに変わりがない。レベル2なのに。
「うりゃ。んっ?」
何匹目かのゴブリンを倒した後、魔石とは別に、赤茶色の何かをドロップした。
「これ…何?」
「素材ね。これ10個で、今、私達が使っている銅のナイフが1個作れるのよ」
「へー。アナトは物知りだね。そういう鍛冶的なことって誰でも出来るの?」
「たぶん、誰でも出来ると思うけど…誰かに鍛冶スキルを教えてもらって、それを修練すれば誰でも鍛冶は出来るんじゃないかな?詳しくはわからないわ」
「なるほど。ありがとう!」
「ええ!」
「ところで、この村には鍛冶師はカジさんだけしかいないのよ~」
「あ!カジさん!知ってる!そう言えばうちの農具もカジさんが作ってた!」
そりゃそうか。農具も武器も同じか。
「だから、その素材もカジさんに買い取ってもらえるわ!」
「イリビも知ってるねー」
「ふふ~そうでしょ~。でも買い取ってもらうより、素材を集めて武器を作ってもらう方が冒険者っぽいけどね~」
「なるほど!そっちの方がワクワクするね!」
「でしょ~。私もアナトももう10個以上、銅は持ってるわよ~」
「何か武器にしないの?」
「まだ新しい武器は必要がないから、見習いを卒業するまで取ってるのよ」
「おー。その考えもあるね」
「武器があんまり重くても扱い辛いしね」
「たしかに…」
まだまだ俺たちは非力だからね。
さらに、数匹ゴブリンを狩ったの後…
「そろそろお昼休憩にしない?」そう俺が提案すると。
「えっ?夜までぶっ続けでゴブリンを狩るわよ」と、アナトに反論された。
「ええ?それ、逆に効率悪くない?」俺はお腹が空いて集中力が下がっている。
「男の子って甘ったれてるよね?」イリビも反論してきた。
「いやいや。そういうことじゃなくて、水分も取った方がいいよ。もうずいぶんダンジョンに入っているけど、水も飲んでないよね?体にも良くないよ」
既にゴブリンを20体ほど倒している。
ゴブリンを見付けて倒すまで、だいたい10分ちょっとだ。
つまり、俺たちは4時間程度、飲まず食わずで動いていることになる。
「ちょっとヒコ?冒険者ってそんなに甘くないのよ?朝からダンジョンに入って、夜出てくるまで何も口に入れないのは常識なの。あなたも早く慣れなさい」
冷静なアナトに説教される俺。というか6歳児に説教されるおっさんの俺。
「いや、これは効率の問題だから…」
「あー。いやねー。甘ったれのお坊ちゃんわ。ん?ヒコって農民の子だっけ?ぷーくすくす」
腹が立つー。
「ぐぅぅー」腹が減って、喉も乾いて、思考も追いつかない。死にそうだ。
「まぁ良いわ。本当に辛そうだから、今日だけは、少し早く切り上げてあげる」
今すぐ帰るんちゃうんかーいっ!
死ぬ死ぬ。辛すぎる冒険者。
その後、さらに20体程ゴブリンを倒したが、俺は空腹で死にかかっていた。
「ぐすんっ。歩くのも辛い」
「甘ったれ~」イジメ良くない。
「じゃ、カジさんのところで魔石を売って晩御飯にしましょ!」
「はい」空腹でもう声を出すのも辛い。俺は甘ちゃんなのか?
「おー。イワさんところのヒコじゃねーか。そーかい。冒険者に」
「はい…」
「ん?顔色が悪いね。あー、今日が初日だね?モンスターをやるのに罪悪感持っちゃ良い冒険者にはなれないよぅ」
「あ。違うんです。ヒコ…お腹が空いてるだけなんです」アナト…やめて。
「はっはっ。育ち盛りの坊ちゃんにはそっちの方が辛いのかね~」
「あの…そのようです…」
「かっかっ。じゃあ、冒険者になったお祝いだ。何かほしいものはあるか?遠慮は禁止だぜ!」
「ありがとうございます。あの…これ」
「かっかっか。じゃあ、この小さい箱だね。どうぞ! で、お嬢ちゃんたち今日は?」
「この魔石を買い取って頂いてもよろしいですか?」
「おお、今日はいつもより多いね。じゃあ、40シュだ。どうぞ!」
アナトが鉄っぽい硬貨を4枚受け取った。ゴブリン1匹で得られる魔石1個が1シュなのか。
「ありがとうございます!では、また明日!」
「あ~また明日絶対に来いよ!」
心配されてるな~。そりゃこんなガキが冒険してたら心配もするか。
「食べ物を買って帰る前に、お金を分けましょう。各10シュとパーティ用に10シュね」
「おー。そういう風に分けてるんだ」
「そうね。これが一般的って聞いてるわ」
「ふーん」
「じゃ、食べ物を買いに行きましょう」
「あ。野菜だったら、うちに来れば安く手に入るよ」
「さすが農家!行きましょ!」
そういって、俺たちは我が家に寄ることになった。
「ただいま~」
「あら~ヒコ。どうしたの?」母親が出迎えてくれた。
「10シュで買えるだけの、野菜売ってもらっていい?」
「ん~じゃあ、売り物にならないクズ野菜を沢山持って行きないさい。あと、粟も」
げっ。粟。我が家の主食にして、苦手な食べ物。
「母さんありがとう!」
「じゃあ、この袋に詰めていきなさい」
「ははっ。10シュで詰め放題ってことね」
「今日だけよ。じゃ、持って行きなさい」
「はい!」
と、いうことで、母親から食べ物をもっさり貰ってツメさんの家に戻った。
たしか、ツメさんのところは、見習い15人とか言っていた。つまり俺とツメさんを合わせて17名。
けっこうな人数だが、でっかい鍋があるので、実家で毎日食べていた「粟と葉野菜のお鍋」を大量に作っておいた。
「何で他の人のも作んの~?」
「腐りかけの野菜だからね。捨てるくらいならみんなに食べてもらった方がいいよ」
「そんなもんなんかね~?」
ツメさんの家では各パーティがそれぞれ食事をとっているらしい。
何か足音が聞こえる。
「おうっ。お前らショボいのに帰りが早いな!おっ。新入りか?」
小学5年生くらいか?何だかムカつくやつだな。
「あら~本当。目が濁ってる新入りも珍しいわね」
悪かったな。馬面の女に言われてもダメージは少ない。
「紹介しますね。この子は、我らが【ちんちくりん同盟団】の新メンバーのヒコです!」
ええっ!俺らって【ちんちくりん同盟国】って名前だったの?適格過ぎるだろ!その名前。
「ヒコってんだな。まあ名前は覚える気はないが、俺は【グラディエーターズ】団長のルキだ。よろしくな」
「よろしく」
「おっ?飯か?」
「食べて良いわよ~」
「マジか!ヒコ!てめえ!良い奴だな」
「掌ころりんね…」
「かっかっ、まあそう言いなさんなって」
ルキってやつ。態度は悪いけど、悪い人間ではなさそうだ。
「まぁどうぞ」
俺は、【グラディエーターズ】とかいうクソだサイ名前のパーティメンバー達に鍋をよそってあげた。
「美味じゃねえか!」
いや。不味いです。塩が少ないからか味が薄い。でも体には良さそうだ。
「おー旨そうだね~。俺らも貰っていい?」
「あら?良いわよ。この子は、我らが【ちんちくりん同盟団】の新メンバーのヒコです!」
「おお!久しぶりの新入りだね。はじめましてヒコ。僕は【ドクロのガイコツ】のリーダー クィンだ。よろしくね」
おっ。こいつは良い奴そうだ。
「はい。よろしくお願いします。そうだ!お鍋をどうぞ」
「ありがとう!【ちんちくりん同盟団】も3名か、あと3名だね」
ほう。パーティは計6名がデフォなのか。たしかに【グラディエーターズ】も【ドクロのガイコツ】も
6人の構成だ。
というか、クソださいパーティ名だな。【ちんちくりん同盟団】の方がましだわ。
「そうなんです。ヒコは甘ったれ野郎ですけど、初日から戦闘は大丈夫だったのでこれから楽しみです」
「ははっ。いいね。じゃあこれ、頂くね」
「はい!」
ということで、俺の冒険者初日は割と何もなく終わった。