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痛恨のミス

第一章完結

次回、第二章「神様に会える神社」

 あのあと三人で、排水溝に捨てられていた、草壁が使った烏や猪、そして狸の死体を回収してきた。そして思った通り、、草壁家の家の中にあるゴミ袋にも、狸だか猪だかの死体があった。

 草壁家のシャベルを使って、三人で庭に穴を掘る。

 草壁家は両親共働きで、朝早く家を出て夜遅く帰ってくる。さらに兄は昨年家を出て。ほとんどの家事を草壁がやっていたそうだ。


「けど、寂しくはありませんでした。麻衣が、死んだあの子が、いてくれたから」


 再び咳き込み涙を流す。


「私は、復讐のためにひどいことをしました。これじゃ、あの三人と同じです。これじゃあ、麻衣にも顔向けできません」

「まあ。死んだ野生生物の死体損壊は誉められた行為ではないと思いますが。そこまで気を病む必要もないのでは? 命をとったわけでもないですし」

「「え?」」


 中大路と草壁の台詞が重なる。

 草壁は目を見開いて俺を見た。

 中大路は相も変わらず「え……? え……?」と呟き続けた。


「ど、どういうことなんですか? あの子たちは、草壁さんが殺したんじゃ」

「違う。この人は、すでに死んでいた動物の血を使ったんだ」


 写真を見ていたときは、まだ「その可能性がある」という程度の、弱く脆い仮説の段階だった。

 だがこうして、三バカの家を巡り、再び実物を見て、俺は確信したんだ。

 動物の死体の傷は、どれも草壁による刺し傷で死んだのではない。

 小さくとも野生の獣はしぶとく強い。一撃で仕留めなければ、よくて逃げられ、悪けりゃ自分が殺される。

 刺し傷からして凶器は家庭用のナイフか包丁。確実に強い殺意を込めた強い一撃でなければ、殺すことは不可能だ。

 だが、このどれもそんな傷はない。

 むしろ、申し訳なさそうに、少しずつ傷をつけていった。俺にはそう見えてならない。


「そうでしょう? 草壁さん」

「どう、でしょうね?」


 草壁は少し悲しそうに、微笑んだ。

 

 穴を掘り終え、死体を入れて、また埋める。小さな石の墓標を立てて、俺たちは手を合わせた。

 部室でもいった通り。草壁はそうする必要があって、こいつらを排水溝に捨てた。だが、さすがにあのままというのは、可哀想だと俺は思い、そして提案した。


『血液を使われた動物たちを、埋葬しませんか』


 思ったより作業に時間がかかり、あたりはもうすっかり暗くなりつつある。


「いやーこれにて一件落着ですね。」


 草壁の家を出た中大路が言う。ブラウスの袖が捲られた土汚れた腕で、額の汗をぬぐう。

 そのまま夕焼けに染まる住宅街を、二人で歩いた。


「それにしても、意外ですねぇ」

 

 こん、と。石ころを一つ。蹴って跳ばして転がして、中大路が言う。


「なにがだ?」


 どうせ下らないことだろうと思いつつも一応訊いてやることにした。


「渡辺さんにも『供養』という概念があったこと、ですよ。まさかあの子たちを弔ってあげようと言い出すなんて」

「…………」


 俺は中大路の発言に、少し不穏な気配を感じた。


「それは超常現象を信じることにはならないんですか?」


 なかなか痛いところをついてきた。

 アホそうに見えて、案外こいつは頭が回るのかもしれない。


「いやあくまでこれはかわいそうだと悼むだけであって。別に霊的な何かを信じて言ってるわけじゃない」


 別に死後の云々を信じるわけではないが、死んだあとの体をただの肉塊、燃えるごみと考えるのは少しばかり気が引けるのだ。


「懐かしみ、みたいなもんだ。例えば何年も住んでいた家を去るとき、空になった家に寂しさを感じたりするだろ? あれと同じだ。死後にちゃんと悼んでやらないのは、生きていた時間に対しての侮辱になる気がするんだ」

「うーん?」


 中大路は納得いかなさそうな様子で首を捻る。


「あとはやっぱり、葬儀ってやつの一番の目的は、生きてる者がそいつの死をはっきりと認識して、今後どう生きていくか考えるためのものだと思う」

「ふうん。よくわかんないけどまあいいです」


 よかった。どうやら納得してくれたらしい。


「ところで、これで勝負は俺の勝ちでいいよな。俺は無事お前の勧誘から解放されるんだよな?」

「そんなわけないじゃないですか」


 あっけからんと中大路は言った。


「今回は私の気質を利用されて、でっち上げのオカルトをつかまされたたわけですから、渡辺さんの一勝とも認めません」


 だよな。そう簡単に終わるわけがないってわかってたよ。

 一度やると決めたんだ。中大路が諦めるまで、俺は何度でも何度でも、お前の掲げる超常現象を否定してやろう。

 これでこの事件は一件落着、ということで、俺はポケットから薬局の領収書を出して手渡した。


「なんですかこれ? 私宛のラブレター?」

「そんなわけあるか」


 中大路は領収書を開いて手をわななかせる。


「な、なんですか。これは。上に中大路鈴風様宛と書いてますが」

「捜査の経費だ。払え」

「えぇー! 聞いてませんよ!」


 言ってないからな。


「あーもうわーかーりーまーしーたー。払えばいいんでしょ。払えば。けど今回だけですからね。次からは部長である私に相談するように」


 まるで俺が部員であるような物言いが気に入らないが、まあいいだろう。


「こんなこと続けられたら、そのうち繁華街で豪遊する金も請求されそうです。うちの部費で高級ワインあけたりしそうです」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ」


 そもそも未成年だ。


「とにかく、このままだと部費余らせて横領する計画が破綻しちゃいます!」

「お前そんなことしようとしてたのか!?」


 どうしようか。学校にチクるべきか。

 俺がそんなことを考えているうちに、交差点で中大路は「私、こっちなので」と告げてくる。


「じゃあ俺はここで」

「はい。わかりました。今日はありがとうございました。ではまた明日」

「ああ、また明日」


 その後しばらく歩いて、立ち止まる。

 なにか、違和感が。


「ん…………………?」


 待てよ。そういえば、


「なんで俺普通に『また明日』って言ったんだ?」


 別に毎日部室にいく約束なんてしていないのだが。


「まずい……」


 このままじゃ、この発言ダシにまた明日も呼び出されかねない!


「中大路!」


 三叉路のところまで戻って、中大路が歩いて行ったほうに向かって叫ぶも、彼女はとうにはるか向こうまで歩いて行ってしまい、俺の声は届かなかった。


 どうやら、明日もまた中大路が振り撒く騒音に悩まされることが確定してしまったようだ。

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