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優奈の頼み

「ちょ、ちょっと待って。どういうこと? 鈴風ちゃんのお母さんの心臓が、諒くんにあるって」

「ああ、そうか。その件についても、まだ優奈には解説していなかったな」


 俺は昨日のこと、昨日中大路家に行って、自分の心臓移植の真相を知ったことを話す。


「そう……、なんだ。諒くんに、そんなことが……」


 そして優奈は何かを考える様子を見せる。一体どうしたんだろうか。

 意気消沈の優奈とは対称的に、鈴風は興奮した様子で立ち上がった。


「諒さんすごいです! 確かにそれは大きな手がかりになると思います! なにかそれに関する方法がないか、さっそく調べましょう!」

「そうだな。役割分担するか。俺は記憶転移の医学的な検証について調べるから、お前らはオカルト路線から調べてみてくれ。特に優奈はそっち方面の知識が豊富だからな」

「いいですね! そうと決まれば、じっとしていられません。ちょっと、さっそくネットをできるだけ漁ってみます!」


 鈴風は部室のパソコンの前に座り、ひたすらいろんな単語で検索をかけ始めた。

 その間、俺はスマホを使って自らの役割をこなしながらも、優奈の様子が気になっていた。

 なぜか、本腰が入らないようだった。

 単純に鈴風が気に入らなくて、それが理由で本気になるのを避けているようには見えない。

 まるで、なにかを知っているかのような。

 まるで、うまくいかないことが分かっているような。

 俺たちの探索は、下校時刻まで続いた。


「私は帰ってからも調べものを続けてみます! あ、市立図書館よるのもいいですね。とにかく、明日からもよろしくお願いします!」


 そして鈴風は俺たちを部室から出して、部屋に鍵をかけ、「ではみなさんまた明日!」と叫び勢いよく部室棟を飛び出していった。


「どうする。諒くん。私たちも帰る?」

「待ってくれ。優奈。お前に聞きたいことがある」

「……なにかな」


 優奈は少しだけ俺に視線を向けて言う。


「お前、ひょっとして何か知ってるんじゃないか?」

「なにが?」

「何か、持っているんじゃないか。嵯峨根家の技術か何かで、死者を呼び寄せる力、適当に客を騙してこすい商売をやってるイタコババアと違って、本物を、さ」


 優奈の家はかなり有名な歴史ある神社を経営している、代々受け継がれてきた名家だ。

 ならば、死者を一人呼び出す力くらい、あってもおかしくはないんじゃないか。


「どうしちゃったの。諒くん。まさか諒くんのほうから、そんなことを言い出すなんて」


 そうだな。顛末を知らない優奈は、きっとそう思うだろうな。あまりにも、これまでの俺らしくない言動だ。

 けど、俺はもうそんな信念なんかどうでもいい。鈴風のために、俺はなんだってすると決めたんだ。


「どうなんだ。優奈」

「結論から言うと、あるよ。本当は存在すら喋っちゃいけないような、秘術中の秘術だけど。その人の心臓なんてものを憑代に使うのであれば、間違いなく成功すると思う」

「じゃあ……っ!」


 その秘術とやらを、使ってくれよ!

 と言おうとした俺の口に、優奈は一本指を当てて制す。


「だめ。言ったよね。これは嵯峨根家に伝わる、木船神社の秘術中の秘術。そんな個人的な理由でできることじゃないし、勝手にやったら私がお父さんに破門されるかもしれない」


 俺は何も言えず、ただ押し黙る。

 無理やりそんなリスクを、優奈に犯させていいのか。いくら鈴風のためとはいえ。

 なにより、優奈がそんなことしてくれないだろう。優奈を振って鈴風と付き合うことになった、俺なんかのために。


「けど、条件を一つだけ飲んでくれれば、やってあげないこともないよ」

「え……?」 


 条件、だと?

 一体、なんなんだそれは。

 優奈は俺の顔に向かってぐいと顔を寄せる。


「キスして。そしたら、私は実家の神社から破門される危険を冒してでも、鈴風ちゃんのために秘術を使ってあげる」


 そう、言い放った。


「な、何を言ってるんだよ、優奈。俺はもう鈴風と付き合って……」

「私に家を裏切らせようって言うんでしょ? だったら、諒くんも少しくらい鈴風ちゃんを裏切って。少しくらい、私のほうを向いて」


 どうする。

 どうすればいい。

 今、俺と優奈の唇の距離は数センチ。ほんの少し顔を動かせば、キスできてしまう。

 こんな流れで初めてのキスをしてしまうことへの抵抗がもちろんないわけではない。しかしそれ以上に、これが鈴風への裏切りになるのではないか、そんな不安で一杯だった。


 できるのか?俺は。

 鈴風のために、鈴風を裏切ることが。

 優奈はすでに目を閉じている。俺は、どうすればいいのかわからず、ただただうろたえてしまう。


「あ!お前ら、ここにいた!」


 その時、ちょうど優奈の頭の向こう側、部室棟の入り口のほうから、持田が慌てた様子で走ってきた。


「どうしたの。持田くん」


 優奈もキスをする体制をやめて、持田のほうに向きなおる。


「お前ら、大変だ…… 」


 息を切らせる持田。そして俺たちに向かって、とんでもない言葉を叫ぶ。




「中大路が、事故に遭った…… 。トラックに轢かれたんだ!」


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