鈴風の除霊もどき
次の日の放課後。草壁といじめ三人組は、超常現象研究会の部室で中大路による除霊を受けていた。
正座して目を閉じる四人に、中大路はなにやらよくわからない呪文のようなものを唱えつつ、手作りの御幣を振り回す。傍から見たらついにこいつらトチ狂ったかと思うような光景である。百円均一でそろえられたパーツで作ったものを振ったって、相手に載るのは神の加護でもなんでもなく、ただ巻き上げられた埃だけだ。
「さ、終わりましたよ」
中大路の言葉に、四人は目を開けて立ち上がる。
「これでもう大丈夫?」
デブが問う。中大路は「はい」と笑顔で答えた。
「伊藤さんの怨霊に、『この人たちは恨むべき相手ではない』ということを教えてあげました。これで本当に伊藤さんの逆恨みであれば、もう二度とあなたたちを呪ったりしないはずです。ほんとにあなたたちが伊藤さんに悪いことをしていたなら別ですが……」
「そ、そっか。じゃあ大丈夫だ。ありがとう」
ぱっつんが言う。三人の表情には明らかに狼狽が見られた。
「よかったです。大丈夫だとは思いますが、万が一本当にあなたたちが伊藤さんに悪いことをしていたら、この除霊によって余計に伊藤さんの怨念は増し、あなた方への呪いがエスカレートする可能性があります。けど伊藤さんの逆恨みであるなら心配はありません」
この除霊後に中大路が言った台詞ことこそ、俺が指示した言葉だ。あくまで本人たちは伊藤の逆恨みというスタンスを崩せないのだから、この言葉は確実にこいつらに刺さる。
「はあ疲れた。歩、聖奈、カラオケいこ」
「あ、いくいく!」
「りょうかいー」
三人は心に生まれてしまった不安をごまかすように、これから遊びに行く算段をしながら、部室を後にした。
「ありがとうございました。それじゃあわたしはこれで……」
三人が出て行ったあと、草壁は俺たちに頭を下げて部室を出て行こうとした。
「待ってください」
俺は彼女を引き留める。まだ、草壁だけは帰すわけにいかない。
草壁は不思議そうな様子で俺のほうを見る。
「なんでしょう……」
「学校で同じことをしようと考えているなら、やめておいたほうがいいです。今度は本気で警察が介入してきます。そうなると、あなたの犯行だってばれるのは時間の問題です」
「え……?」
草壁はあっけにとられたような様子を見せる。
「わ、渡辺さん。何を言ってるんですか。この件は私の除霊で解決したんじゃ」
「除霊? そんなもの意味ないに決まってるじゃないか」
あれは、理想的な解決を迎えるために適当に話を合わせただけだ。
部室にいるのは俺と中大路と、草壁。
さあ、今からこの事件を、本当の意味で解決しようじゃないか。
俺は4人の家の位置と、伊藤の霊が出現したという時間を書かれた地図を広げる。
「平日のあの時間。毎日この辺りの道路は渋滞を起こしており、4人の家を巡るのは、車や自転車、バイクなどを駆使してどんなに急いでも100分ほどはかかります。なのに、その伊藤さんの亡霊とやらは一時間足らずで全ての家を回った」
「そうですよ。人間には不可能です。だから私も伊藤さんの霊の仕業だって……」
「もちろん、これをやったのが複数人だとしたら可能です。しかし、俺はこれは単独犯の可能性が高いと考えました。その理由についてはあとでお話します」
そして、一人でこれをやるのは不可能だ。
もしも、本当に全員が真実を語っているなら、な。
「決まってる。誰かひとりが嘘をついているんだ」
「嘘をついている……? だって例の件が起きてわたしはすぐに時間を確認したわけではないので、大体の時間ですが、そんなに大きく外れてはいないと思います。他の三人も同じのはず」
「違います。俺が言ってる『嘘』というのは時間のことではありません。『夜中に扉が叩かれて、外に出てみたら血文字で恨み言が書かれていた』という証言そのものが嘘なんです」
そして俺は草壁に向かって告げる。
「嘘をついているのはあなたです。草壁さん」
俺はペンを持って、地図の上をなぞりながら解説する。
誰かひとりを嘘をついているとしても、それがあの三人組の誰かだったとしたら『わずか一時間で草壁を含めた全員の家を回れるわけがない』という問題は一切解決されないのだ。
『その嘘さえつけば不可解な状況を作り上げられる』という条件を満たすのは、草壁しかいない。残りの三人の家はそれなりに近い範囲に揃っているのだから、一時間あれば全部巡ることは可能だ。
「草壁さんが渡り廊下見たという伊藤さんの霊についてはどうなるんですか。それを見た草壁さんがそんな自作自演をし始めたというのは、あまりに無理のある流れではありませんか」
「それも嘘だ。渡り廊下で伊藤さんの霊を見たという証言自体がでっちあげだ」
「そ、それはおかしいですよ。じゃあ草壁さんは、一昨日の時点でなんの心霊現象に合ってもいないのに私のところに相談しに来て、さらにその夜自作自演をしたというのですか。まるで騒ぎを起こしたいがためにやったみたいじゃないですか」
中大路はいきなり核心を突いてきた。
もしかしたら、こいつ、案外悪くない勘をしているかもしれない。
「その通りだ」
俺は言った
「この騒動を起こす。それが目的だ。そのために、草壁さんはお前に相談したんだ」