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鈴風がいない喪失感

 その後、俺はすぐに次の駅で降りて鈴風が降りた駅まで引き返し、駅の構内はもちろん駅周辺も探し回ったが、もちろん鈴風の姿が見つかることはなかった。

 あとから思えば、次の駅で降りて次の電車を探すのが一番よかったのかもしれないが、生憎その時の俺は冷静さを失っており、そこまで頭が回らなかったんだ。


「諒、どうした。今日は元気ないなあ」


 次の朝、土曜だというのに部室に赴こうとして、校門を潜る寸前の俺に、持田が問うてくる。

 俺は次の日になっても気分が沈んだままで、今朝はとにかく暗い表情になってしまっていた。


「いろいろあったんだよ……」


 あれからずっと考えていたが、やはり鈴風は母親と再開するため手当り次第にオカルトを求めていったが、徐々に疲弊してきており、昨日の件で限界を感じてああなったと、そう理解するのが妥当なところだろうか。


 鈴風は母親に会うために超常現象を追い求めていた。それに対して希望を持てなくなったら、部をたたむと言い出すのは当然のことかもしれない。


「中大路と何かあったのか」


 鋭い。


「まあ、そんなところだ。実は昨日いろいろあってな」


 俺は鈴風のオカルトを追い求める目的などの、おそらく鈴風が語られたくないであろう内容についてはぼかしながら、昨日あった出来事を持田に話す。


「それで、鈴風のやつ泣きながら廃部にするって言ったんだよ」

「そうかあ。中大路にはかわいそうだけど、お前はそれでよかったんじゃね?あの子から解放されたいって言い続けてたじゃんか」


 まあ、そうなんだが。

 釈然としないものを感じるのも事実だ。

 確かに俺は、そもそもあいつの勧誘から逃れるために、超常現象を推理や知識で否定し続けてきた。鈴風は自分の負けを認め、部を潰すと言った。

 これで、俺は先週から悩まされていた鈴風の呪縛から解放されるのだ。

 よかった、じゃないか。

 そう。よかったんだ。これで。

 かねてより目指していた、俺の目標は達成された。

 しかし。


「………………」


 なんとも言えない喪失感と焦燥感。夏休みの宿題をやらずに遊んでいる時のそれとよく似ていた。


「諒、なんか浮かない顔してるな」

「俺さ、今さらになって疑問に思うんだ。これでいいのかって。このまま鈴風との部活を終わらせても、いいのかって」

「お?まさかお前中大路に惚れたのか」

「なわけあるか」

 いつも通りの条件反射で否定してしまったが、この言葉の真偽に関して、実際のところは俺にもよくわからなかった。


 ただ、今になって、一つだけ言えることがある。


 鈴風といる時間は、なんだかんだ言って楽しかった。


 鈴風が、俺の持つ知識を、とても重要なものとして評価してくれていた。それがいい感情だったかは別にしても、真面目に取り合ってくれる人がいるというのは、やっぱり嬉しかった。


 それに、明るくて元気な鈴風と一緒にいろんなところを回るのも、今思えば楽しい思い出だった。

 鈴風はそのパワーで、俺たち周りの人間にまで元気をくれるんだ。そりゃあ時にはうるさくて煩わしいと思うこともあるが、差し引きで見れば大幅なプラスだ。

 なんとまあ俺らしくないセンチメンタルな思考だ。どうやら鈴風と一緒にいるうちに俺もいろいろと変わってしまったのかもしれないな。

 そう。鈴風が、自力でインチキ霊媒師のトリックを見抜けるほど成長したように、俺も、なにかが変わった。

 そんな気がした。


 学校にたどり着いた俺は、鈴風が学校に来ているのか調べようと、一年の下駄箱へ向かった。


 そして俺は鈴風のクラスすら知らなかったことに気が付いた。


 俺は適当な一年を捕まえて、「中大路鈴風を知らないか」と尋ねる。偶然話しかけた相手が鈴風のクラスメイトだったらしく、俺はそいつに言われた下駄箱を開く。

 上履きが入っていた。


「どうかされましたか」


 一人の女子生徒が俺に声をかけてくる。しまった。さすがに知らない生徒が下駄箱を覗き込んでいたら不審に思うよな。


「鈴風……、中大路を知らないか?」

「中大路さんなら、なんでも著しい体調不良だそうですよ。SNSで書いてました」


 体調不良。

 違う。

 俺はそう確信した。

 鈴風は、間違いなく精神的なショックで部活を休んだんだ。

 病は気から、という言葉にある通り、精神がガタガタになれば、体にも異常が出ることは大いにあり得る。とはいえ根本的の原因といえるのは、きっと昨日の出来事に違いない。


 俺はなんとなく部室に足を運ぶ。

 そこに行けば、また笑顔の鈴風が見れるような気がして。

 そんなはずはないのに。

 鈴風は今泣いているのに。

 なのに俺は、どうすることもできず、ただただあの日々を懐かしむ。

 部室の扉を開いたが、当然そこに鈴風はいない。

 俺はなにもすることがなく、椅子に座り、ただ茫然と部屋の中を眺めていた。


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