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鈴風はなぜオカルトを信じるようになったのか

 オカルト大好きな変人として有名になっている鈴風が、かつては今の俺と同じようにオカルトを全否定していたなどと言われたら、驚かないほうがどうかしてる。

 俺は少し考えたのち、鈴風が考え変えたを理由を察する。


「やっぱり、母親に会うために、お前は変わったのか?」

「それもあると思います。しかし、私は母親が死ぬ前の段階で起こったある現象により、超常現象を信じるようになったんです。諒さんは、死相と臨死体験のお話をご存知ですか」

「死相って、確かもうすぐ死ぬ人間の顔に現れる模様だったか。臨死体験は、死にかけた人が病床で見たものだったよな」


 もうすぐ病気なんかで死ぬ人間なら、体のシステムが潰れかけているわけだから、ひっそりと予兆が顔に表れてもおかしくはないと思うが。


「その通りです。私は死に瀕した時に、幻惑的な世界を見た。まあそれに関しては死の直前に脳が引き起こす作用という説もあります。死相はわりと有名な話ではありますが、それらとは別に『もうすぐ死ぬ人に見えるもの』というのはわかりますか」

「『死ぬ人に見えるもの』……?知らないな。もうすぐ死ぬ人は何か変なものが見えるというのか」

「そうです。死が近い人は、一年くらい前から夢に積極的に懐かしい場所や光景が出てくるようになることがあるんです。ほかには、自分の手を手鏡のようにじっと見るようになったり、自分の部屋の入口に黒い影が見えるようになったりと様々です。お母さんは、それがどんぴしゃで当てはまっていました」


 鈴風は「それからしばらくして、例の事故が起こり、お母さんだけが死にました」と付け加えた。


「病気で死んだならわかります。無意識が自分の死期を感知していて、そういう反応が起こるのだとしても不思議ではありません。しかし、お母さんは怪我で死んだので、こういう理屈では説明がつきません。となると、もうすぐ死ぬ人間に見えるものという都市伝説は本当なのではないかと考えるようになった。こうして私は、超常現象というものを信じるに至ったのです」


 そうか、と俺は気づく。

 鈴風は、俺と真逆なんだな。

 俺は幼いころは超常現象を信じ、自分の病気が治ることをいろんな方法で願っていたが、その間に限って全く効果が見られず、オカルトを否定するに至った。

 それに対し、鈴風は母親が死ぬ前に起きた現象から、オカルトを信じるようになり、さらには母親にひとこと謝りたいがためにオカルトを追い求めるようになった。

 そんな俺たちがこうして出会ったのは、いったいどんな縁なんだろう、などと柄にもないことを考えてしまう。


「今回の霊媒師さんには期待してるんですよー。なんといっても、ネットでどれだけ調べても悪い噂を聞きませんからね」


 別にそれはただ単に、霊媒師は占い屋などと比べて非常にハードルが高いからぽっと出で行けるわけじゃないし、そういうのを信じる人ばかりが行くから、必然的にクレームが出にくいんじゃないか、と指摘してやろうと思ったが、さすがに母親の話を聞いておいてそれを言うのは野暮だと思い、やめておいた。


 それどころか、俺の中にはその霊媒師が本物であってほしいという願望すら、心の片隅に生まれ始めていた。

 まったくもって俺らしくない思考だ。鈴風の話を聞いて感化されてしまったのだろうか。


「あ、ここですね。諒さん。着きましたよ」


鈴風が指さした先には、古びた一軒の厳かな日本家屋があった。けっこう敷地は広く、周りは漆喰の壁で覆われている。


「ほんとにここであってるのか?普通の昔ながらの日本家奥に見えるが」

「そりゃあ道に『口寄せ専門店』とかいう看板を掲げるわけにもいきませんから。間違いなくここであってます。さあ、入りましょう」


 鈴風がインターホンを鳴らす。しばらくして、中から40くらいの男が出てきた。


「どうも。予約していた中井鈴風です。本日はよろしくお願いします」


 鈴風は用意していたらしき偽名を名乗る。男は「どうぞ」とだけ口に出し、俺たちを中に招き入れた。


「携帯電話の電源などは、今ここでお切りください」


 ただそれだけを告げ、むすっとした態度で無言を貫く男の後をついて、俺たちは砂利道を通って家屋の中に入る。以前逮捕された瑞楽神社の田中と違い、この男はずいぶん愛想のないやつである。


「鈴風。分かってると思うが、いちおう言っておく。その儀式前に、もし食べ物や飲み物を出されても、絶対に口にするんじゃないぞ」

「はい。もちろんです」


 まあ、神に会うなどという、抽象的すぎて後からどうとでも説明がつけられるお話とは違い、明確な誰かの霊に会えるという話であれば、ちょっと薬を投与してどうにかなる問題でもないと思うが。


 なかなか立派な石造りの庭が見える廊下を歩き、その先の階段を上る。どうやら見た目通りかなり古くなっているようで、誰かが一歩踏み出す度にギシギシと音を立てる。

 階段を上ったところで、そこにいた和服を纏った二人の婆さんが頭を下げてくる。太陽の明かりも届かず、薄暗い廊下が続いていた。

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