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いい加減googleは多田野数人を許してやるべきだ

「諒さん、西條八十さんが書いた『トミノの地獄』って知ってます?」


 放課後。もうすっかり習慣になってしまっており、当たり前のように部室へと

向かった俺に、鈴風が問うてくる。

「知らん。なにかの怪談話か?」

「まあそんなところですね。西條八十という文学者が1918年に発表した詩で、トミノという名前の少年が地獄を旅する様子を描いたものなんですが、なんでも、音読すると呪われるらしいんです」

「は?たかが詩を朗読しただけで呪われる?そんなわけないだろ」

「言葉の力をバカにしちゃダメだよ。唱えただけで呪われるっていう言葉はふ

つうにあるもん。まあこのトミノの地獄に関しては、何の力も感じないし、ネットで広まったデマだと思うけど」


 俺と一緒に、鈴風が持つトミノの地獄とかいう詩が印刷された紙を覗き込む嵯峨根が言ってくる。相も変わらずこいつは、俺の考えとは全く別のベクトルから俺の意見を擁護してくるな。


「これもダメですか。うーん。残念です。では。『生き人形』っていうお話は聞いたことありますか」

「なんか卑猥な名前だな。エロ同人にありそうなタイトルだ」

「そういう意味じゃありません!生きてる人形ってことです!」


 おっと。それは失礼した。それにしても、なぜ鈴風は瞬時に俺がどういう勘違いをしたかに気づいたんだろう。まあ鈴風がムッツリなのはわかりきったことなのだが。


「なんでも、古い日本人形には、髪が伸びるものがあるそうです。まるで生きている人の髪と同じように。肩までしかなかった髪が胸のあたりまでのびていたり」

「ああ、それはにかわが古くなったり、接着が杜撰だったりするのが理由で、内側にしまわれていた部分が、くしで梳かれたことなんかが原因で外に出てきただけだぞ」

「諒さんなら絶対これくらいは知ってて、そう反論してくると思ってました!だから私はそれを否定する根拠を調べてきたのです!」


 おお。どうやら今日の鈴風は一味違うらしい。


「実はある人形を調べたところ、その人形は諒さんが今言ったような頭の中に毛を収納する構造ではなく、人間の頭と同じように小さな穴をあけてそこに先っちょだけ毛を植えて作られた高級な人形だったそうです。この人形は、一切人に触られていないにも関わらず、毛が数か月間で数ミリ伸びたそうなのです!」

 そう言って、無い胸を張る鈴風。俺は若干の申し訳なさを感じながらも、残酷な事実を教えてやることにした。


「鈴風。それってもしかして、人間の髪で作られた髪じゃないよな?」

「そうですね。高級な人形なので、髪の綺麗な人の髪の毛を、人形師さんが買い取って作

ったそうです」

「あのさ、鈴風。人間の髪って、切った後もしばらくはゆっくりだが伸びるってこと、知らないのか?」

「え!?そうなんですか!?」

「さすがに頭から腰までなんてことはないだろうが、数ミリ程度なら普通にありうるぞ」


 鈴風は「うううー。あんまりです」と言いながら、家のプリンターで印刷してきたと思われる紙を破り捨てた。

 そして今度はなにやら写真が印刷された紙を取り出してくる。


「そうそう。これはむしろ積極的に否定してほしい内容なんですが、『アステカの祭壇』ってご存知ですか?」

「なんだそれは。どっかの部族の祭壇か?」

「その通りです。13世紀から15世紀に、今でいうところの中南米で栄えたアステカ文明。ここでは定期的に生贄を捧げなければ、太陽が消滅してしまうと信じられていました。そのとき使われた、生贄を縛った台や、その生き血を入れた壺なんかが、今でもランダムに写真に写りこんでしまうのだそうです。しかも真っ赤な血の色で。アステカの祭壇が写った写真を見ると、とんでもない不幸が起こるらしいのです」

「へえ。で、なんでそれを否定してほしいんだ?」

「実は……。見ちゃったんです!グーグル先生で調べた瞬間、画像サジェストで出てきてしまって!」


 ああ、よくある話だ。少し前まで、某野球選手の名前で調べると、トップにその選手がゲイポルノに出てた時の画像が出てきていたのも、有名な話だろう。

 ちなみに、「三回見たら死ぬ絵」で調べると、三回見たら死ぬとされる絵が三枚表示される。

 俺は鈴風から携帯の画面を見せてもらい、その写真を確認する。


「まずくないですか? 私たち呪われちゃうんでしょうか」

「いや、これはただの撮影時か現像時のミスだな」

「え?」

「カメラの中にある、フィルムを押さえつける部品の形だろこれは。色は典型的な感光したときの色だ。その部品で抑えられていない部分が部分が感光してオレンジがかったんだろうと思う」

「渡辺くんの意見であってると思うよ。なんの力も感じないし。そもそも写真を見ただけで呪われるのは、ほんとに強すぎる霊の時だけだから。そのくらいの強さになると、もう写真見る前から霊感ない人すら悪寒を感じるレベルだし、ネットに普通にあげられている程度の心霊写真ならまったく大丈夫」


 俺たちの言葉を聞いて、鈴風はほっと胸をなでおろす。


「いやあ。やはり二人が別のベクトルからそれは違うと言ってくれると、ほんと安心感ありますね」


 鈴風はプリントアウトしてきたアステカの祭壇の写真を、ぽいとゴミ箱に放り込んだ。


「そういえば諒さん。今朝のICレコーダー代、返してください」

「はぁ!?」


 なんで今更そんなことを。


「ICレコーダー? どういうこと?」

 

 嵯峨根が聞いてくる。


「ひどいんですよ。諒さん。私が枕元に置いておいたレコーダー壊しちゃって」

「枕元に!?」

「いえ、今朝お義母さん、諒さんのお母さんにあげてもらって」

「お義母さん!?」 


 なぜそこまで驚くんだ。驚くのはわからなくもないが、そんなにオーバーリアクションとることもないだろう。


「なにか、問題でもありますか」

「う、ううん。問題はないんだけど。無いんだけど……」


 口ごもる嵯峨根。


「みなさん。ところでですね、今日は比叡山のほうでやってる霊媒師さんに会いに行こうと思うのですが」

「霊媒師? あの死者の霊を呼び出すっていうあれか?」

「その通りです、比叡山付近では何人か霊媒師さんがいるのですが、今日予約しておいたところはその中でも飛びぬけて評判がよく、日本中からお客さんがやってくるのだそうです」

「ああ……。そりゃあ大層他人につけ込むのがうまいんだろうなあ」

「もう、最初からそんな風に斜に構えないでくださいよ」


 死んだ人間の魂を呼び出すなんて無理に決まってるだろう。そもそも人間の意識とはなんなのか、魂とやらが存在しているのかすら、まだ全く分かっていないというのに。


「というか、斜に構えないでくださいとは言うが、お前は俺にオカルトを否定してほしくて部活に誘ったって、そう昨日お前言ってたよな」

「それとこれとはまた別問題なんです!」


 意味が分からない。


「とにかく! もう予約はとってあります。諒さんに絶対指摘されると思うので先に言っておきますけど、ホットリーディング対策のために予約の際は偽名を使いましたから」


 鈴風もかなり自衛策をとるようになってきたんだな。感心だ。

 ホットリーディングとは、あらかじめ相手のことを調べておいて、あなたから見えた情報と騙るインチキ占い師の手法だ。持田祖母がひっかかりを感じたのは、これの失敗故だったな。


「それでは、みなさん。行きましょう」

「はいはい」


 俺が出発のために荷物をまとめていると、隣で嵯峨根がぼそりと「あっ……」と呟いた。


「どうした」

「ごめん……、二人とも。ちょっと、帰ってやらないといけない用事ができたの」

「えー。そうなんですか。嵯峨根さんのセンサー便利なのに」


 お前は嵯峨根を便利な探知機か何かと勘違いしてないか?

 嵯峨根は「ほんとに、ごめんね」と言い残して、なんだか逃げるかのようにそそくさと部室を出て行った。

 一体どうしたんだろうか。いつもなら喜んでついてくると思うのだが。

 結局その嵯峨根が豹変した理由はわからず、俺はモヤモヤしたものを抱えたまま、鈴風と一緒に学校を後にした。

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