俺が期待されていた役割
第四章完結です
「ねえ。左右田君。どうなの!?」
倉橋にも詰め寄られ、佐藤は自嘲気味に、はあと息を吐く。
「参った。認めよう。僕の負けだ。こっくりさんのコインを強引に動かし、こっくりさんの匂いを振りまいて、さらにこっくりさんの声を教室に響かせて、こっくりさんの呪いをでっち上げた犯人。それは僕だ」
倉橋が「左右田くん…… 。どうして…… 」と崩れ落ちる。
「動機は、やはり倉橋さんのためですか?」
「そのとおり。僕は倉橋のために。倉橋のオカルトの力が本物であることにするために、僕はこの事件をでっちあげたんだ。誤解されたくないから言っとくけど、この子は何にも関係がない。すべて、僕が一人でやったことだ」
「ああ、それは倉橋の今の反応を見ていれば明らかだし、そもそもそれがなくてもお前の単独犯であることはわかっていた」
元々、スピーカーの位置を気にしていたのは左右田だけだったので、倉橋が犯人の可能性は低いとみていた。決定打となったのは今日のこっくりさんだ。
俺は持田と鈴風には、コインの動きに一切抵抗することなく、ほぼ力も入れるなと言っておいた。そうすることで、残りの二人の心の動きを見たかったんだ。
もしも倉橋が共犯なら。こっくりさんのメッセージがああはならない。間違いなく故意にコインを動かして、呪いを継続させていただろう。
左右田の頬を叩く倉橋。激昂した様子で、
「謝って。クラスのみんなに。特に持田くんと岡村さんに」
左右田は悲しそうな目で倉橋を見つめる。
「けど、僕は君に喜んでもらいたくて……」
「あたしはそんなことされたって嬉しくない!」
倉橋はろぼろと涙を流す。その悲しみに満ちた倉橋を見て、左右田は観念した様子で「わかったよ」と呟き、俺たちに頭を下げる。
「みんな。本当に申し訳なかった。特に本気で怖がらせてしまった人には、どうにも弁解しようがない。明日、クラスのみんなにも謝罪することにするよ」
こうして、わがクラスを阿鼻叫喚のパニックに落とし込んだ、こっくりさん事件は幕を閉じた。
その後、左右田のことは倉橋に任せることにした、嵯峨根と持田はすでに家に帰っており、残った俺と鈴風は二人で部室に向かって歩く。
「あのさ、鈴風。そろそろ教えてもらってもいいか」
「?なんですか?」
「前に、俺をこの部活に入れようとした理由を聞いたとき、お前は言ったよな。『諒さんがオカルトを否定しているから。だから私はあなたを超常現象研究会に誘いました』って」
「言いましたね」
「あれの意味だけ、どんなに考えてもわからないんだ。まるで、お前は俺に超常現象を否定させたいようじゃないか」
「そうですよ?」
鈴風はあっけからんと言い放った。
「じゃ、じゃあ、俺がお前の持ってくるオカルト話を次々と否定しても、夢がないとは言いながらもお前が本気で怒らないのは?」
「そもそもそれが、私が諒さんに期待していたことだからです。あなたはインチキオカルトの手口を知り尽くしているうえ、目の前に現れた現象を解明するのも上手い。私の求めていた理想的な部員そのものです」
何を言ってるんだ。じゃあ鈴風は、俺にオカルト現象を次々否定させることそのものが目的だったというのか。
もっと詳しく話を聞きたかったが、鈴風は「もう疲れましたし、今日の部活は終了ってことで、やっぱり私はこれで帰ります。諒さんまた明日! あでぃおすあでぃおす!」と言い残して、さっさと走り去ってしまった。
部室近くの廊下。俺は一人で取り残される。
俺は、これまで鈴風と一緒に活動し、幾つも謎を解いてきた。
大きな依頼だけで4つ。小さなものも含めればたくさん。
しかし、俺は気づいた。
最大の謎が、ずっと俺の目の前にあったという事実に。
鈴風の謎。
俺はまだこの時、予想などしていなかった。
明日から、俺はとうとうこの謎に挑むことになるということを。