とうとう追い詰めたこっくりさん
「倉橋!? 君は帰ったんじゃ……」
「ねえ。左右田君。やっぱりあなたがあたしのために、こっくりさんの呪いを自分でやったの!?」
教室に足を踏み入れ、左右田に詰め寄る倉橋。左右田は狼狽する。
「ち、違う。こいつらが勝手にそう言ってるだけだ!僕はそんなこと、決してやってない!」
「いいや、こっくりさんの呪いをでっち上げた犯人はお前だ。明白なんだよ。どう考えても」
「渡辺。まだお前はそんなことを言い出すのか!まさかまだそのスピーカーが証拠になるだなんて言い出すんじゃないだろうね!?」
「もちろんだ。お前が犯人だという証拠。それはもう一つある。俺は今朝八時十五分に教室に来た。その段階で、すでに教室にはこっくりさんの匂いが充満しており、かつ部屋はやや肌寒い程度で、そこまで寒くもなかった。このことに関して、みんな異論はないと思う」
嵯峨根と持田、そして倉橋と左右田から否定する言葉がでないのを確認して、俺は続きを語る。
「校舎に生徒が入れるようになるのも、エアコンが使えるようになるもの朝の八時。たった十五分じゃ、どう考えてもこの状況を作り出すのは無理がある。そして夜、教室のエアコンは二十時で止まるということを利用して、犯人はエアコンをつけて、そのまま家に帰ったんだ。そして朝一番に教室に来て、匂いに対する換気と称して窓を開ける」
本当は暖房を併用することで気温をごまかしたかっただろうが、さすがにスイッチを何度も入れ替えていたら教師に怪しまれるリスクが高まる。犯人としても、次の朝気温がちゃんと外と均一になっていることを願っていたのだろうが、残念ながらわずかとはいえ教室に冷気は残っており、それによって俺たちにエアコンを使って匂いを振りまいたとばれることになる。
「あるんだよ。職員室で、あのあとお前を見たっていう目撃証言がな。どういうことだ。お前、あの後まっすぐ家に帰ったって言ってたよな」
面食らった様子を見せる左右田。よし、もうひと押しだ。
「しかもお前はエアコンのスイッチを触っていたらしいな。これがお前が犯人でない証拠でなくてなんなんだ。どうせまだエアコンは掃除できてないだろう。エアコンの中から匂いの元になるものを見つければ、お前が犯人であることは確定になる」
今度は完全なハッタリではなく、ある程度真実も混ぜて話すことにした。おそらく左右田の顔を見れば、あの一年生の歴史の授業を担当している婆さん教師は、「一昨日エアコンのスイッチを触りに来たのはこの子だった」と言ってくれるだろう。
しかし、確証がない。顔をはっきり見てなかったりだとか、見ていても忘れたりしている可能性が否定できない。だから俺は、いきなりあの人のところにこいつを連れていくのではなく、いったんそのカードをちらつかせて様子を見ることにしたのだ。
「い、いや。それだって怪しい。僕は間違いなく家にまっすぐ帰った。僕と顔が似ている男子生徒なんて、一人くらいいたっておかしくないだろう。それに、その手の人間の記憶ほどあてにならないものはない。もう年なんだし、見間違いという可能性もあるじゃないか!そんなあてにならない記憶で、犯人扱いされちゃ困る!」
勝った。俺は思わず笑みを浮かべる。
「やりましたね。諒さん」
鈴風が嬉々とした表情で俺にそう言ってきた。
「ああ、そうだな」
どうやら、俺以外に気付いたのはこいつだけらしい。
今、左右田は自白した。
自分が犯人であることを。
それにしても、嵯峨根や持田を差し置いて、鈴風が一番に気付くとは意外だ。俺との活動を通じてこいつも成長してきたんだろうか。
「自白、ありがとうな。左右田」
「な、何を言ってるんだ。僕は自分が犯人だと認めたことなんて一度も……。あ……っ!」
瞬間、顔面蒼白になる左右田。
どうやら気付いたらしい。自分のしでかした致命的なミスに。これまでの全ての偽装工作が意味を為さなくなるほどの大失態に。
こいつはなかなか頭のいい奴だ。これまでの相手よりよほど頭が回る。倉橋に詰め寄られて冷静さを失っている状況でなければ、きっと先ほどのミスもしでかさなかったに違いない。
そしてその頭の回転の速さゆえに、先ほどの自らの手落ちにもすぐに気付いたようだ。
「どういうことなんだ。左右田が自白したって」
未だに事態が呑み込めていない様子の持田、嵯峨根、倉橋のために、俺はあえてその事実を突き付けてやることにした。
「俺はお前を目撃した教師に関する情報を一切喋っていない。なのになぜ、お前はその目撃者に対して『もう年』と言ったんだ?お前を目撃した教師が年寄りであることを、なんでお前は知っていたんだ?」
押し黙る左右田。俺は続けて言う。
「お前が自分で言わないから俺が言ってやる。それは、お前が犯人だからだ。実際にエアコンのスイッチを入れ、教室にこっくりさんの匂いをばらまいた犯人。だから、自分を目撃した教師の年齢層を知ってたんだ! それ以外には考えられない!」