表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/65

こっくりさんとの対決

 俺の言葉を聞いて、左右田はふっと鼻で笑う。


「一体何を言い出すかと思えば。君たちはそんなくだない妄想を語るために、僕をここに残したのかい?」


 草壁や田中と違って、犯人だと指摘されても左右田は全く動じる様子を見せない。こいつは、これまでの連中ほど簡単にはいかなさそうだ。


「こっくりさんの声。あれはスピーカーでモスキート音を流したものだ。昨日の二限は担当教師が爺さんだったから、若者にしか聞こえないモスキート音が、生徒には聞こえて教師には聞こえなかったんだ。こっくりさんの匂いは、薬品の合成や虫をすりつぶしたりなんかの方法で作った匂い元を、エアコンの吹き出し口付近にセットすることで振りまいた」


 俺はそこから、こっくりさんの呪いを演出した方法についての解説を行った。

 全部暴かれても、左右田はまったく狼狽する様子を見せない。


「……ほう。面白い考察だね。君はあくまで一連の現象はこっくりさんの呪いなどではない、と。そう言いたいわけかな」

「その通りだ。こっくりさんの呪いなんてあり得ない。呪いなんてものは所詮は思い込みで、もし怪奇現象が本当に起きたのだとしたら、それは勘違いか偶然か、それとも何者かによる自作自演でしかありえない」

「まさか超常現象研究会に所属する君がそんなことを言うなんて」


 俺は部員じゃないんだが。まあ今はそんなところを突っ込んでる場合じゃない。

 左右田は「やれやれ」と呆れたように呟く。


「なるほどね。君の言い分はよくわかる。もちろん、呪われてた僕としては、そのほうが嬉しいけど。だけど君の説、こっくりさんの怪奇現象に関する考察を信じたとしても、どうしてそれが僕の自作自演ということになるんだい?」


 予想していた質問だ。ここはいきなりだが、切り札を持ち出させてもらおう。

 俺はゴム手袋をはめたのち、昨日教室で発見したスピーカーを見せる。


「これが教室の後ろから見つかった。付着していた指紋と、お前の指紋を照合すれば、お前が犯人であることは確定になる。お前の指紋を取らせろ」


 佐藤はしばらく自分の人差し指を見つめる。そして、


「別に指紋を取るのは構わないけど、君たちに本当に正確な指紋の照合ができるのかい? 一介の高校生が手に入れられるような設備じゃ、到底それができるとは思えないけど」


 ハッタリが効かない。

 その事実に、俺は一瞬うろたえたが、ここで引き下がるわけにはいかない。


「確かにそうだ。俺たちの設備じゃ、指紋の照合なんてできやしない。だが警察ならどうだ。実際に病院に運ばれた奴もいる。傷害事件として被害届を出せば、捜査は始まるさ。そうなれば、重要な証拠として、このスピーカーに付着した指紋もとられる」

「愚かしいね。こんな不明確な話が刑事事件として立件できると思ってるのかい? 岡村が被害届を出したとしても、警察だって暇じゃないんだ。無理に決まってる」


 まずい。こけおどしはこいつに対して全く通用しないようだ。

 これまでとは比較にならないほどの難敵。今までの攻め方では、到底勝つことはできない。

 こうなるんだったら、もう少し容疑を固めてからやるべきだったと俺は悔いる。

 だが、なんとしても今日止めなければならなかった。そうでないと、またこいつは次の呪いを繰り出してくる可能性があるのだから。


「諒さん……。どうしましょう。まずいですよ」


 鈴風。俺は今必死で頭を働かせてるんだ。黙っててくれ。


「そもそも、僕がどうしてそんなことしなくちゃいけないんだい?自作自演の呪いをでっち上げて、クラスを混乱させ、いったい僕に何の得がある?」

「それは、わかりますよ」


 鈴風が言った。


「なに……?」

「あなたが犯人かどうかは、私からははっきりとは言えません。ですが、あなたが犯人だった場合の動機は、私には察せます」

「なんだい。言ってみなよ」


 俺は鈴風を前に立たせた。

 もともとこのアイデアは鈴風の手柄だ。ならその本人に語らせるべきだろう。


「あなたは、倉橋さんのことが好きなのではありませんか?クラスの人からインチキだといわれてる倉橋さんのために、あなたはこっくりさんの呪いを演出したのではありませんか?」


 その言葉で、これまで薄気味悪い笑みを崩さなかった左右田の顔が、初めてこわばる。


 そう。これが昨日鈴風が説として語った、左右田の動機だ。


 鈴風もオカルトが大好きで、クラスメイトから奇異な目で見られてきたわけだから、何かしら思うところがあるのだろう。

 とにもともかく、俺には想像もつかなかったような動機。俺のいかなる案よりも尤もらしいのは明白だった。


「何を言い出すんだ。君たちは。僕を勝手にこっくりさん事件の犯人だと決めつけて、さらには僕の恋愛感情まででっち上げる気かい? どこまで僕を侮辱するつもりだ!」


 初めて声を荒げる左右田。そのときだった。


「左右田君……?」


 教室の入り口から聞こえる声。俺たちはそちらに視線を向ける。

 そこでは、倉橋が茫然と立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ