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犯人特定

「エアコンだ。犯人はエアコンを使って、教室にあの匂いを充満させたんだ」

 エアコンの口にその匂い源を付着させておけば、こっくりさんの匂いが教室中に広まる。エアコンの口は起動していないときは閉じているのだから、俺が教室を見て回っても見つ

からないはずだ。


 そして、俺は三人からこの学校のエアコンについて聞きながら考察する。


 この学校は夜になると施錠されてエアコンも止まる。生徒が校舎に入れるのも、教室のエアコンのスイッチが入れられるようになるのも朝の八時。そこから俺が教室に入るまでのわずか十五分では絶対にあの状況を作ることはできない。

 だから、確実に犯人は昨日の夕方の時点でエアコンのスイッチを触りに来たはずなんだ。

 これなら、直ちに匂いの元を回収する必要はない。エアコン口から漏れる匂いが残っても、こっくりさんの呪いが残ってるからと言えるし、今の季節はエアコンをつけないのだから、エアコンを使ったトリックだとばれる心配はない。一か月以内に回収と掃除をすればいいのであれば、いくらでもチャンスはある。

 エアコンのスイッチは職員室だ。生徒が自由に触ることはできるが、教師に一切知られずに触れることは困難。となると、確実にそこで足がつくはずだ。

 この季節、生徒がエアコンのスイッチを触るのはありふれた行為ではない。印象に残っている教師がいても、おかしくはない。


「職員室に行こう。昨日エアコンのスイッチを触った生徒がいないか、確かめるんだ」


 俺たちは職員室に行き、昨日エアコンのスイッチをいじった生徒がいないか、聞いて回った。

そして、一人見つけた。二年生とは関わりがないが、鈴風の隣のクラスの担任で、一年生の日本史と世界史を担当している婆さん教師だ。この人の席がある、社会科教師ブースの斜め後ろの壁に、エアコンのリモコンがある。


「確か、あれは夕方の五時くらいだったでしょうか。一人の男の子が、エアコンのスイッチを入れに来ました」


 婆さんは語る。その時は、「どうせ教室で遊んでて暑くなったのだろう」程度にしか思わず、気にも留めなかったらしい。


「それが、どこの教室かわかりますか?このスイッチのうち、どれを触っていたのか」

「ごめんなさい。そこまではわからないわ。けど、たぶん二年生の教室だったと思う」


 俺たちは婆さんに礼を言い、職員室をあとにした。


「間違いない。エアコンのスイッチを入れに来たのは男だという証言。犯人は左右田と考えていいだろう」


 部室までの帰り道で俺は言う。

 本当はまたアイシャドウを使って指紋が付いているのはクラスのエアコンのスイッチだけであることを確かめたかった。(毎週のようにスイッチも掃除されているようだし、おそらく他クラスのエアコンの電源には指紋はついてないだろう)

 しかし、さすがにそれは教師陣から大目玉喰らうのでやれそうになかった。真面目な嵯峨根がそんな目的に使うアイシャドウを貸してくれるとは思えなかったというのもある。

 とりあえず、こっくりさんの声と匂いを発生させた犯人は、左右田と考えて間違いない。

 残る問題は、共犯者がいるのかどうかと、なによりなぜ奴がそんなことをしたのか。


「俺は左右田っていう人間の人柄をまだよく知らない。持田。どうなんだ?」

「なんというか、全体的に冷めたやつだな。こっくりさんにも乗り気じゃなかったし。けど、こんな悪ふざけをするようなやつにも見えない。今となっても、オレは信じられないよ。あいつがこんなことをしたなんて」


 おおむね俺の思っていたのと変わらない。やっぱりそうだよな。単なる悪ふざけでこっくりさんの呪いを演出しようとするタイプには思えない。


 じゃあ、いったいどんな目的で。


「あ、それわかるかもしれません」

「なんでだろうな。嵯峨根はどう思う?」

「ちょっと諒さん!無視しないで下さいよ!もしかしたら私の考えてる理由が正しいかもしれないじゃないですか!」

「わかったよ。かなり不本意だが、聞くだけ聞いてやる」

「なんか気になりますが、いいでしょう。私の考えた理由、それは――」


 意外なことに、鈴風の想定した動機は、突っ込みどころこそあるものの、確かにそう考えればかなりきっちりと辻褄があうものだった。

 確かに、そうかもしれない。俺が想像もしていなかったものだ。


「どうですか?これで少しは見直しましたか?」


 どや顔で語る鈴風が鬱陶しいが、認めざるを得ない。

 なぜ俺を差し置いてこいつがそんなところに思い至ったのか。考えたが、わからなかった。

 分かりたくなかった。

 なぜだかは分からない。とりあえず、こいつのこれまでの孤独な活動故であることは疑いようもないが、その裏にある鈴風の何かを見てしまう気がした。

 見てはいけないものを、見てしまう気がした。


「諒さん? どうしたんですか?」

「なんでもない。それより、謎はおおむね解けた」


 俺はこの謎の懊悩を振り払った。

 ともかく、これで事件は一気に片付きそうだ。


「明日、もう一度こっくりさんをやる。そこでこの事件を解決してしまおう」

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