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草壁からの聞き取り調査

 部室では、すでに草壁が椅子に座っており、中大路がその向かいで嬉々とした様子で俺に隣に座るよう促す。俺は食べかけの弁当を手に持ったまま、しぶしぶ席に着いた。

 中大路はやれやれ、苦労させられます。と呟く。こっちの台詞だ。

 だが俺の文句など気にも留めず、中大路は草壁に向かって話しかける。


「すでに言いましたが、今日来ていただいたのは、伊藤さんのいじめに関してなんです。おつらい記憶ではあると思いますが、どうか話せる範囲だけでも私たちに話してもらえませんか」

「はい……。わかりました」


 そして草壁は語りだした。死んだ生徒との思い出を。

 草壁と伊藤は、高校入学当初から仲のいい親友だった。伊藤は元気で快活な少女だったそうだ。

 しかし、伊藤は徐々に以前持っていた覇気を失っていった。草壁が理由を聞くと、クラスの三人の女子からいじめを受けているのだという。

 きっかけはほんのささいなことだったそうだ。ピアスの穴をあけたとか、髪を少し染めただとか。

 草壁はいじめを知っていながらも、なにもしてやれなかった。そしてある日、渡り廊下から飛び降りるという形で、伊藤は自殺した。


「きっと、麻衣はわたしのことを恨んでるんです。いじめを知っていながら、何もしてあげられなかったわたしを」

「そんなことないですよ。きっと何かの間違いです。伊藤さんはきっとあなたのことを恨んでなんかいない、そう思います」


 何の根拠があって言ってるんだろう、と思ったが、さすがにそれを口に出すのは野暮だと思ったので黙っておくことにした。

 草壁は、しばらくためらう様子を見せたのち、口を開く。


「……んです」

「え?」

「来たんです! 昨夜わたしたちの家に、麻衣の霊が!」


 取り乱す草壁を、中大路がなだめながら話を聞くと、どうやら昨夜遅くに、家の玄関の扉が激しくノックされ、扉を開けたが誰もいない。そして家の門には血文字で「許さない」と書かれていたのだそうだ。

 それも昨夜は草壁だけではなく、伊藤をいじめていた三人を加えた四人の家で、同様の現象が起きていたらしい。


「麻衣は、わたしのことも恨んでいるんです。だから、こんな……」


 泣き崩れる草壁。

 中大路はどうしていいのかわからず、おろおろとしていた。


「草壁さん。その扉をノックされた時刻というのを、教えてもらってもいいですか」

「……確か、午後十一時過ぎだったと思います」

「中大路。この町とその周辺が書かれた地図って持ってないか」

「あ、ありますよ。ちょっと待ってください」


 中大路は棚から大きな地図を取り出してきて、テーブルの上に広げる。


「あなたの家はどこですか」

「……このあたりです」


 俺は赤いボールペンを取出し、草壁が指差したあたりに丸を付け、"PM11:00"と書き込んだ。


「あ、渡辺さん。なにやってるんですか。勝手に書き込むなんて」


 中大路が何か言ってるが気にしない。


「あ、あと、コンビニから10:30頃に帰ってきたときはなにも書いてませんでした」


 ふむ。それは重要な証言だ。


「他の三人の家ってわかりますか」


 横に首をふる草壁。まあ知らないなら仕方ない。


「その三人の証言も聞きたいんですが、お話することってできますかね」

「この部活を紹介しておきました。放課後には来ると思います」


 それは好都合だ。本人たちから話を聞けるならやりやすい。

 その時、俺は見逃さなかった。

 草壁の顔に、なにか黒いものが宿っていたことを。

 悲嘆とも違う。絶望とも違う。何かの決意を秘めた顔。

 草壁は、なにかを隠している。

 俺はその直感から、ある仮説を組み立てる。

 ともかく、この放課後が勝負だ。俺はそう思った。

 





 クラスメイトに奇異な目で見られながらの午後の授業を耐え忍んだ俺は、放課後すぐに超常現象研究会の部室に向かう。


「お。渡辺さん。すぐに部室にくるとはやりますねえ! 少しは部員としての自覚ができたんですか?」

「なわけあるか。俺はただ自殺した生徒の霊なんていうのを否定したいだけだ」

「またまたー。いじわる言っちゃってー。ツンデレですね」


 中大路の妄言は無視することにした。

 しばらく待っていると、三人の女子生徒が部室に入ってきた。


「ここが超常現象研究会ってやつ?」

「その通りです! 草壁さんのご紹介ですね。どうぞどうぞお座りください」


 ちゃらい雰囲気の女三人は、椅子に座ってそれぞれ名乗り始める。名を平野歩、徳田愛華、鈴木聖奈というらしいが、覚えるのが面倒なので目立つ特徴を元ネタに、それぞれぱっつん、ミニスカ、デブと呼ぶことにしよう。


「さっそくですが、お話を聞かせてください」


 中大路は、ミニスカ、デブ、ぱっつんの順で昨夜の話を聞いていく。

 概ね草壁の言っていた話と同じ。夜遅くに部屋の扉が激しくノックされ、外に出てみるがそこには誰もおらず、血文字で恨み言が書かれているのだそうだ。


「じゃあみなさんの家の位置と、その扉を叩かれた大体の時間を教えてもらっていいですか」


 俺は三人から帰ってきた答えを、昨日と同様に地図に書き込む。

 三人の家は学校から車で飛ばして40分ほどのところ。草壁の家の位置とは学校を中心にちょうど対称のところにあるようだ。三人はお互いに近いところに住んでいるらしい。

 時間は、ミニスカが午後十時半過ぎ、ぱっつんが午後十一時半前、デブが午後十一時前。

 やっぱりそうだ。俺の考えていた通りの配置だ。

 あと、ぱっつんが午後十時くらいに夕刊を取りに家から出たらしく、その時はそんな血文字はなかったと証言している。


「どう思う? やっぱ伊藤の怨霊とか?」

「はい……。残念ながら、憑かれてるのだと思います」


 中大路が何か言う前に、遮るようにして俺は言う。中大路は、目を見開いて俺のほうを見た。

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