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こっくりさんの声の正体

 俺はこっくりさんを行った三人を注意深く観察し続けることに決めた。


「諒さん! どうして部室に来てくれないんですか!?」


 昼休み。教室に鈴風が大声でかちこんできた。無視してやろうかと思ったが、このまま俺の名前を叫ばれ続けるのも嫌なので、嵯峨根に三人の監視を頼んだうえで、俺は廊下にいる鈴風のもとへと向かった。


「遅いですよ諒さん。……なんだか、このクラスいつもより元気ないですね」


 空気読めないことに関しては学校一の鈴風ですら気づくほどの異常事態。俺はこいつに、教室で午前中起こったことを説明した。まあ反応は概ね予想がつくが、解決のためにはこいつに動いてもらう必要も出てくるかもしれないから、黙ってるわけにもいかないだろう。


「え!?こっくりさんがまた現れたのですか!?私もぜひ一度お会いしたいですね!」


 ほら来たよ。予想通りの反応だ。


「やめとけ。今うちのクラスはかなりデリケートになってるんだ」

「はいはい。わかってますよ。いくら私でもこの状況で興味津々に突っ込んで行ったりなんてしません」


 お、少しは成長したようだな。


「あと、今日の放課後は部室に行くの遅れるから。くれぐれも教室に押しかけて来たりするなよ」

「まじですかー?いいですけどジュースおごってくださいよ」


 何言ってんだこいつ。


 鈴風を追い返した俺は教室に戻り、嵯峨根に「あの三人に変わったところはなかったか?」と問う。

 どうやら三人とも一歩も自分の席から動いておらず、何も怪しい行動はとっていないらしい。

 俺は嵯峨根に次の頼みごとをして、教室の後ろのほうを徘徊し、時折ロッカーの上や掃除用具入れの上を覗こうとする演技をする。


「どうだった?」


 嵯峨根に問う。俺は嵯峨根に、あるものをチェックしてほしいと頼んでおいたんだ。


「それは……、左右田くんだった」


 嵯峨根の返答は、俺の予想通りのものだった。


「なるほどな」


 あいつが犯人である確率はかなり高そうだ。もちろんまだまだ偶然の可能性もあるから、注意深く証拠を固めていく必要がある。


 放課後。俺は本を読みながら、教室に誰もいなくなるのを待つ。

 俺が疑っている左右田は、しきりに俺のほうを気にしながら、まるで早く帰れと言わんばかりの表情を見せていたが、俺は当然無視した。


 そしてようやく一人になった教室で、俺はまずゴム手袋をはめて、椅子を使いながらロッカーや掃除用具入れの上を覗く。


 上にはいくつかカバンが置かれていたので、それを押しのけていくと、予想通りの物体がそこにはあった。


 十センチ四方のキューブ型の物体。明らかにそれはスピーカーに見えた。

 この教室にはもう一個あるはずだが、あいにくそれの在り処にはヒントがない。「教室の前の方にある可能性が高い」ってだけじゃ、見つけるのは大変だ。


 それに、犯人当てにはこれ一個だけあれば十分だ。俺はゴム手袋でスピーカーをつかんだまま、部室に向かう。


「渡辺さん。遅いですよ。なにやってたんですか。せっかく持田さんもいるのに。約束通りコーラ奢ってくださいね」


 俺は中大路の妄言を無視して、持田の向かいの席に座る。

 あらかじめ連絡して、部室で待っているように言っておいた。もし俺が放課後の教室でスピーカーを見つけられたら、確実に持田の証言が重要になる。

 俺は教室で見つけたスピーカーを机の上に置いて手袋を外す。鈴風が「なんですか? これ」と手に取りそうになったので、あわてて俺は止める。絶対にこれに触れることを許するわけにはいかないんだ。別に指紋を切り札にしていく気はないが、追い詰めるにあたってかなり有効なカードになるから、鈴風が触ったところを持田や嵯峨根にみられるのは非常にまずい。


「教室の後ろに隠されていたスピーカーだ。今から型番を調べるから、パソコン使わせてくれ」


 部室のパソコンを使って、俺はスピーカーの型番を調べる。どうやら無名な企業が作った、小型スピーカーのようだ。普通の家電量販店にはほぼ売っておらず、大阪の電気街の一部でわずかに取り扱われている程度だ。


 そして、特筆すべき特徴として、俺の予想通りの機能が書かれていた。

 それは、リモコンによる遠隔再生。録音しておいた音を、スイッチ一つで再生できるらしい。

 出る音に関してだが、けっこう質は高いようで、人間の可聴域全般を発することができるらしい。

 間違いない。俺の思っていたトリックに必要な機能は、すべて揃っている。


「どういうことなんですか。諒さん。これがこっくりさん事件と関係あるんですか?」

「ああ、大いにある。とりあえず、こっくりさんの声に関する謎は解けた」


 俺はこの商品解説画面を印刷して配り、三人に向けて解説を始める。


「間違いない。今日の二限に聞こえたこっくりさんの叫び声。それはこのスピーカーから出された音だ」


 授業中とはいえ、誰にも気づかれずにリモコンのスイッチを押すくらい造作もないだろう。机の中にでも隠しておけば簡単だ。


「確かにこれを使えば声を再生できそうですけど……。じゃあ、先生に聞こえなかったことはどう説明するんですか?」

「あの爺さんには聞こえないんだ。絶対に」


 そう。俺たちに聞こえて、あの爺さん教師には聞こえない音。そういったものが存在するんだ。


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