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鈴風に似た中年女性が出てくる謎の夢

「その状態で、手の間に風船が入ってるのをイメージするんだ。大きな風船」

「はい」

「その風船は何色だ?」


 これからやることはイメージが重要になるので、色を問うことでしっかりと強く想像させておく。


「えっ。そんなわかりませんよ」

「いいんだ。そのイメージの景色の色を答えてくれ」

「えっと、オレンジですね」

「じゃあ、そのオレンジの風船がふーっと膨らんでいくのをイメージ。どんどん手が押し広げられていく」


 俺がそういうと、鈴風の手が勝手に開いていく。


「お?おおお?」


 九十度近く開いたころ、鈴風は驚きの声を発す。


「今度は風船が一気にしぼんでいくイメージ。すーっとどんどん空気が抜けていく」


 すると鈴風の手は早いスピードで閉じ、パチンと手と手がぶつかる音がする。


「すごいです!諒さんこんな力を持ってたんですね!」


 手を下して目を開き、興奮した様子で言ってくる鈴風。


「今のが観念運動だ。特殊能力じゃない。こっくりさんもこれと同じ原理で動いている」


 それにしても、鈴風の反応の良さはなかなかである。この反応の大きさには個人差があり、中には全く手が動かない人もいる。鈴風の反応の良さを見ていると、少々危なっかしい感じはするが。


「こっくりさんに問いかけをすると、誰かの潜在意識にある答えがこっくりさんの回答として現れるんだ。だから、こっくりさんに参加したメンバーの知っている事実しか答えられない」


 たとえば、A、B、C、Dの四人でこっくりさんをやり、「Eの好きな人は誰ですか」と聞いたとする。そうすると、出てくる答えは「ABCDの誰かが思うE の好きな人」であり、本当にそれがEの好きな相手だとは限らない。


 こっくりさんが有効な場面があるとすれば、たとえばAがCの秘密を知りたい場合なんかが挙げられるだろう。Cの無意識の動きにもよるが、たいていの場合Cの秘密を聞き出せる。


「けどその指が動いてこっくりさんをみなが信じている状態で、もし儀式のルールに違反するとえらいことになる。本気で信じている人間は、さっき言った呪いのメカニズムと同じ理屈で精神に傷を負う。こっくりさんの現象を目の当たりにしてる以上、そのへんのオカルト思考の受け入れが強くなってて、藁人形で呪わ

れるよりもだいぶひどいことになるかもしれない」

「本当はこっくりさんは低級霊の降霊術なんだけど、さっきの教室も含めて何か問題が起きた場面で本当に霊の存在を感じたことはないから、諒くんの言うとおり思い込みによるものだと思う。そもそもこっくりさんなんていう霊の実物を見たことがないし」


 また嵯峨根がフォローになっているのかなっていないのかよくわからない発言をする。


「じゃあ、こっくりさんの叫び声が聞こえたというのは?」

「そこなんだよな。問題は…… 」


 あの場にいた四人全員が同じ証言をしているので、たぶん聞き間違いの類ではないと思う。おそらくそのタイミングで何らかの理由により発生した音を、無理やりこっくりさんと結びつけてしまったのだろう。


「だが偶然聞こえただけだって言ってもあいつらは多分納得しない。だから今回俺は嵯峨根に一任したんだ」


 嵯峨根の除霊の力なんて信じちゃいないが、あの四人が「除霊してもらえた」と思えば呪いの効力は消える。


「じゃあ、あの六人はもう問題ないんでしょうか」

「わからん。しばらく様子見だ。治らないなら、悪化する前にさっさと精神科か心療内科に行ったほうがいい」

 そうしてこうして、この日の部活は解散となった。




 真っ白な空間。光の世界が、どこまでも続いている。

 俺は気づくとここにいて、俺の目の前にひとりの女性が立っていた。

 年は四十前後だろうか。鈴風に少し顔が似ている気がする。


「諒くん。鈴風を助けてくれて、ありがとう」

「え…… ?」


 女性は「こういう状況でしか話ができないから」と呟く。


「何を言ってるんですか。あなた、何者なんですか」


 俺がそう尋ねると、女性は首を横に振った。


「まだ、教えられないの。けど、きっとその時が来たら、わかると思う」

「その時って…… ?」

「それも、きっとわかる。それまで、どうか待ってほしいの。……鈴風を、お願いね」


 俺の視界がぼやけていく。


「わけがわかりません。質問に答えてくださいよ!」


 俺はその自分の声で目を覚ました。

 視界に入るのは自室の天井。目覚まし時計は朝の六時を指示しており、窓からは朝陽が差し込んでいた。


「なんだ夢か…… 」


 俺はむくりと起き上がり、洗面所で顔を洗う。この時間ならまだ母親も起きてないだろうし、朝食はひさしぶりに自分で作ろう。


 食パンをトースターにぶち込んで、滑り落とさないように気を付けなければ、などと考えながらバターを用意する。パンに焦げ目がつくのを待つ間、俺は先ほどの不可解な夢について考えた。

 やけにはっきりとした夢だった。いつも夢といったらもっとぼやけたものなのだが。

 あの女性は何者なのか。顔や言動からすると、鈴風の母親という線が強いと思われるが、俺は生憎、鈴風の母親に会ったことがない。もし何らかの理由で俺が保護者会か何かで学校に来た鈴風の母親と学校ですれ違っており、潜在意識がその人と中大路鈴風を結びつけたと考えるのが妥当だろうか。


 そうなると、後半の会話が全くわけのわからないことになるが、夢なんて所詮そんなものだ。

 まあ一応、念のため夢で見た顔をデッサンしておこう。イメージが変わってしまう前に。夢の記憶というのは時間がたてばたつほど変化してしまいやすいからな。

 これでも俺は絵はわりと得意な方なのだ。部活メンバーには占いの館で披露した記憶がある。


 朝食を食べて、部屋で先ほど見た女性の絵を書く。


「諒!ちょっと洗い物手伝って!」


 一階から聞こえる母親の声。俺は母親の手伝いをしている間にこの絵のことをすっかり忘れてしまい、その絵を持たずに登校するはめになった。

 家を出た直後にそれに気づいたのだが、俺はまあいいや取りに戻るのもめんどくさい、と思い、そのまま学校に向かった。こっくりさんに呪われたと思っている、あの四人がどうなったのかも気になるし、一刻も早く学校に行きたい。


 この時俺は、まさかこの判断が原因で、とある重大な事実に気づくのが遅れるということなど、想像だにしていなかった。


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