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4という数字

「諒さん。忌み数って知ってますか?」


 放課後、部室へと赴いた俺に、鈴風が問うてくる。


「あれだろ? 4とか9とか」

「その通りです。死と苦を連想させるからですね」


 下らないことを考えすぎだ。俺はそう思う。

 そんなもののために、駐車場やホテルの部屋番号に欠番を作るなんて、愚かしいにも程があるだろう。


「そもそも、言語圏によって忌み数は違うんだ。1や5を嫌う文化圏もある。キリスト教だと666だ」

「あとは114514とか334とかを嫌う文化もありますよね。特に後者は某球団ファンに言うと泣き始めます」


 それは例外的すぎるが。

 ちなみに、忌み数による階数や部屋番号を飛ばすことは、国と地域によっては禁止されている。災害時の救助活動なんかで問題が起きる可能性があるからだ。


「でもでも! やっぱりその最たるものは、日本特有の4だと思うのです。直球の『死』は、他の忌み数にはありませんから」

「何いってんだ。馬鹿馬鹿しい」


 そんなこと言い出したら、「shi」から始まる単語すべて拒絶できてしまう。

 他の数字だって、やろうと思えば際限なくこじつけ可能だ。


「そもそも数学的には、4なんてただの1+1+1+1に過ぎない。そこにそれ以上の意味を見いだされたら、ペアノさんだって困惑するだろ」

「そこで、です。むしろ積極的に忌み数を増やしまくって、緩衝を狙うというのはどうでしょう」

「お、お前にしては珍しくまともなことを言うな」


 その後俺たちは1から順に無理やりこじつけて、忌み数というものを増やしていった。


「あー。飽きました。考えるの疲れました。今日はここまでにしましょう」

「飽きるの早いなお前」


 まだ10にもなってないのだが。

 そういえば、忌み数とやらはなぜすべて自然数なのだろう。無理数や超越数にも忌み数を導入してみても面白いかもしれない。


「縁起なんてものは存在しないが、それが人の心や体に影響をおよぼすことはある」


 草壁の狙いはそこだったな。親友を死に追いやった三人を、自分は呪われてると思わせることで、病院送りにすることに成功した。


「忌み数にしても、不吉な数字だからってわざわざ恐れて避けるのは、ほんとに逆効果なんだ」


 避ける、という行動には、それを意識し恐れるという工程が必ず入る。そうなると、恐れというものは強化され続けることになる。


「っていうか、諒さんってほんといろいろと詳しいですよね。何か宗教でも始めればいいのでは」

「知識だけで宗教興して成功できるなら、今頃心理学の研究者はみんな教祖サマだろうが」

「それもそうですね。諒さんは人望なさそうですし」


 失礼すぎるだろお前。


「そういえば、数学の先生、片方の先生は0を自然数に含めるのに、もう片方の先生は含めないんですよね。どちらが正しいのか聞いても、自分の方が正しいと熱く言うだけで」

「それは……。宗教戦争だ。関わらないことを薦める」


 その辺は、やってる数学の分野にもよると聞いたことがある。要するに数学者の間ですら意見が別れる問題だ。


「そういえば、嵯峨根さん遅いですね」

「あいつは掃除当番だ。なんか用でもあったのか?」

「はい。五寸釘の呪いについて、聞きたくて」

「またお前はくだらないことを……」

「む!? くだらなくなんてないですよ! その発言の撤回を要求します!」


 そんな会話をしていると、「こんにちはー」と言いながら嵯峨根が入室してきた。


「嵯峨根。鈴風がお前に聞きたいことがあるらしいぞ」


 俺の言葉に、なぜか頬を膨らませ、不機嫌な表情を見せてくる。


「昨日約束したでしょ? 優奈って呼ぶって」


 ああそうだった。すっかり忘れてた。めんどくさいな。

 とはいえそんなことを口に出したら、また面倒な説教が始まるのは目に見えていたので、俺は「そうだったな」と流す。


 鈴風は俺との話をさっさと切り上げ、うれしそうにぴょこんと嵯峨根の前に立つ。


「嵯峨根さん。こんにちは。ちょうどお聞きしたいことがあったんですよ」

「聞きたいこと?なにかな」

「嵯峨根さんの家の神社って、確か森船神社っていう名前でしたよね」

「うん。そうだよ」


 嵯峨根の家の神社は、隣町である京都市内の、全国的にもけっこう有名な大きい神社だったはずだ。縁結びのご利益があると信じられている。


「ちょっと調べてみたんですが、そこの神社って、夜中になると……」

 

 鈴風が嵯峨根になにかを尋ねようとしたその瞬間、部室の扉が勢いよく開かれる。


「お前ら…… 。よかった。ここにいた……」


 転がるようにして部室に現れたのは俺のクラスメイトである持田。なにやら大層焦った様子で、顔を真っ赤にして息を切らせていた。


「どうした。持田。そんなに慌てて」


 嵯峨根が「持田くん。これ要る?」と、汗を流す持田にタオルを渡す。持田は「ありがとう」と言いながら、思い切り顔を強く擦った。

 そして顔を上げて、息を整えながら言う。


「みんな、今すぐ来てくれ! こっくりさんが暴走して、クラスが大変なことになってるんだ!」


 持田のこの言葉が、第4の事件の始まりとなるのだった。

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