インチキ占い師のやり方
「ちなみにですが。諒さん」
「なんだ」
ファーストフード店で昼食を取る俺たち四人。
鈴風は俺にそう切り出してきた。
「さっきの録音。もう一度聞かせてもらえませんか。占い師の使った手法とやらの解説をお願いします」
「そうだな」
その辺の認識は、町田の祖母に会う前に共有しておいた方がいいだろう。
俺はスマホをテーブルの上に置き、音を流した。
「まったく、何度聞いてもいつもの諒さんとは大違いな純朴青年ですね」
何度でも言ってやる。うるさいと。
「で、親関連の話は嘘なんだよな?」
持田の質問に俺はうなずく。
「親関連の話は全部嘘だ。二人とも至って健康で仲いいんだが、こいつはまったくの的外れな言動をしていた」
「そう、ですか……」
ぼそりと呟く鈴風。なぜだかその目には、悲しい光が宿っていた。
普段の俺なら「どういう意味だコラ」と怒り混じりで問い詰めるところだが、本気で悲しそうな鈴風を見ていて、なぜだかそんな気にはならなかった。
「鈴風? どうしたんだ?」
「あ、いえ。なんでもないです」
どうしたんだろう。いつも明るい鈴風の、あんな表情を見るのは、俺は初めてだった。
「あの人に何の力もないのは本当だと思う。私が見たときも、特にそういう力持ってなさそうな光だったもん」
嵯峨根のセンサーは本当に便利だな。俺は信じちゃいないが、嵯峨根のお墨付きがあると、鈴風を納得させるのが非常に楽になる。
「渡辺さん。さっき言っていたコールドリーディングってなんですか?」
「ああ、コールドリーディングっていうのは、占い師や自称超能力者がよく使う手法なんだが」
そして俺は鈴風と嵯峨根にコールドリーディングについて解説する。
コールドリーディングとは、相手のことを観察して情報を読み取る手法のことだ。
代表的なやり方としては、だれでも当てはまるようなことを言ったり、イエスともノーとも言える言い方をするというものだろう。
例えば「あなたは最近、失ったものがありますね」と問いかける。そもそも占いに行く時点で何か悩みがある可能性が高く、これで自分の心を見透かされたと感じた人は、往々にして自らぺらぺらと情報をしゃべってしまうのだ。
「他には、闇社会の人間に『今、とんでもない額に膨れ上がってるよ』と告げるというのもありそうですね」
「そうだな。裏社会の人間っていうのは、金のトラブルを抱えてる可能性が高そうだし」
先ほどの佐藤の言動で言えば「親の病気の影が見える」「あなたはお母さんと喧嘩している」という言葉がそれに当てはまるだろう。
前者について、高校生の親の年齢なら、少しくらい持病があっても全くおかしくない。加えて親は二人いるわけだから、これも実はかなりの確率で当たるのだ。万が一両親ともに健康だと言われたら、よく見ると祖父母の病気の影だった、などと言ってしまえばいい。
後者に関しては、もう説明するまでもない。男子高校生で母親と一切喧嘩しない者などそうそういない。
イエスともノーとも取れる言い方、これに関しては、今回佐藤は使わなかったが、例えば「あなたのお母さんはなくなっていませんね」と言う言い方がある。
この文章には「あなたのお母さんは- 亡くなっていませんね」と「あなたのお母さんは亡くなって- 居ませんね」という二つの解釈方法があり、要するに母親が健在だろうが死んでいようがこの文章は当たってると強弁できるのだ。
このように曖昧な言い方をして情報を聞き出し、そこにさらに曖昧な言葉をぶつけて、まるで相手に心を読んでいるかのように錯覚させる手法、それがコールドリーディングだ。
「なるほど……。するとやっぱり今回もはずれだったんですね」
「当然だ」
本当は「そもそもお前のいうような当たりなんて存在するはずがない」というつもりだったのだが、それを言うとまた嵯峨根が騒ぎだす可能性が高いので黙っておいた。
「こいつははずれ確定だ。もうお前の期待するようなものはこの店にはない。どうする。ここは俺と持田に任せて、鈴風は手を引かないか」
「そんなことするわけないでしょう!依頼を受けた以上、きっちりとやりきらなければなりません!それに……」
「それに?」
「……いえ、なんでもないです。それより、今回の事件はあっさり解決しそうですね。もうこの段階で、すでに諒さんは向こうの手口を見破っているわけですし」
いったい何を言いかけたのか気になるが、一応それは脇に押しやって俺は中大路の言葉に返答する。
「ところがそうもいかない。確かに、今回は伊藤の霊や瑞楽神社の件と違って、向こうの使った手法を看破するのは容易だった。けど今回はこれまでとは違って、見破ったらあとは犯人を強請って自白させればいいというような簡単な問題じゃない。ここにハマってしまった人を助け出してくれっていう話だ。これは結構めんどくさい」
「? なぜですか?持田さんのお婆ちゃんに会って、向こうの手法を説明してやればいいのでは?」
それで解決しないのが、今回の面倒なところなのだ。