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俺がオカルトを嫌う理由

 それから俺たちは、持田祖母が来るまでの暇潰しのため、河原町駅前の商店街で時間を過ごした。


 河原町駅とは、京都市東部にある阪急電車京都線の終着駅だ。全国的な知名度は低いが、この地方で知らない人はまずいないだろう。駅前はショッピングモールが立ち並び、それなりに栄えてる。歩道のほぼ全面がアーケードに覆われてるのが特徴だ。


「わー! 見てください嵯峨根さん。この髪飾り!」


小物点でわっきゃわっきゃ騒いでる鈴風。俺と持田は歩道の柵に座ってその様子を眺める。


「あれから話したんだけど、婆ちゃんさ、今日も例の占い処に行くらしいんだよ」

「あの予約が必要な、何万円もするコースか?」

「そう。四万五千円だったはず。婆ちゃんどうも貯金を切り崩してるらしいんだよ。せっかく何十年かけて貯めた金をさ」


 高額な壺なんかを買わせる霊感商法は、すでに国会でも何度も問題として取り上げられており、政府もそれなりに対策となる法律を整備している。クーリングオフ制度なんかがそれだ。

 しかし、このように高額な占い料金をしょっちゅう取ることに関しては、あまり対策されていないらしい。物ではなくサービスで高い金を巻き上げる手法はかなり厄介なのだ。

 まあ、今回やるべきことはあの占い屋をつぶすことではなく、持田祖母の目を醒まさせることだが。そういう面ではやや楽ではある。


「で、どうだったんだ? 占いは」

「全く持って話にならない。よくあるインチキ占い師の手法を、そのまま使ってるだけだった」


 俺は持田にいくつか手法を解説した。


「そう、か……」


 持田は悲しそうに呟く。

 俺はノートとペンを使って、簡単に占い部屋の様子を描く。こう見えて絵は得意なのだ。

 それを見せながら、それぞれの装飾が与える心理的影響などを持田に教える。持田は真剣に俺の話を聞いてくれた。


「けど、なんでお前そんなに詳しいんだよ。オレそんな話、これまで聞いたことなかったよ。あとその画力はなんだ」

「昔から推理モノを読み漁っていれば、いやでも詳しくなるさ。絵も同じだ」

「すごいな。オレ小説とか絵なんてなんて触れることもないから」

「いや、なにもすごくない」


 俺は暫し迷った。だが、転校してきた俺と一番に仲良くしてくれたこいつになら、話してもいいと思えた。



「実は俺数年前までずっと病院暮らしで暇で、本を読むか絵を描くくらいしか楽しみがなかったんだ。特にミステリーを読むのが好きだった」



 

「なんだそれ。初耳だぞ」

「そりゃあ京都に来てから、人に話したのはこれが初めてだからな……」


 俺は生まれつき心臓に障害を抱えていて、中学時代途中までは病院での暮らししか記憶にない。医者には二十歳まで生きられないといわれていた。

 助かる方法は心臓移植しかないが、ドナーが見つからないことには話にならないのだ。

 もし見つかっても、基本的に免疫がそこそこ一致していれば移植は行われるが、その場合は拒絶反応を抑えるために、免疫を抑制する薬を一生涯飲み続けけなければならない。免疫を抑制するのだから、当然病気にもなりやすくなる。そちらの場合も、先はあまり長くない。


「大変だな……。それで、お前はもう心臓移植したのか?」

「ああ、中学時代に運良く完全一致のドナーが見つかってな。おかげで病院を出てふつうに学校にも行けるようになった」

「じゃあ、お前もその免疫を抑える薬を飲んでるの?」


 そこが核心だ。俺の身に起きた奇跡の話だ。


「いや、俺に移植された心臓は運のいいことに免疫の完全一致、つまり免疫の型が完璧に同じだったんだ。だから拒絶反応も起きない。だから薬を飲む必要もない」

「すげえな、それ。どれだけ低い確率なんだよ」


 兄弟姉妹ですら、免疫が完全に一致する確率は高くない。親子でも相当低い。赤の他人となると、確か日本中に一人いるかいないかってところだったはず。


「で、しかもその相手が都合のいいタイミングで死んで、しかも臓器提供を本人が了承してないとダメなんだろ。どんな奇跡だよ、それ」


 まったくだ。俺はとてつもなく幸運だったと言わざるを得ない。


「そんな幸運なお前が、オカルトを全否定しているっていうのも、変な話だな。普通は今のお前みたいにオカルトを信じてなくても、それをきっかけに信じるようになりそうだけど」

「言われると思った。実はそれにはわけがあるんだ」


 俺は幼少期から、ずっといろんな願掛けを試してきた。

 あらゆるオカルトに頼って、「願いがかなう」と言われる手法は、知りうる限り全部試した。

 しかし病状はよくなるどころか、悪化する一方。ドナーも見つかる気配がない。

 十歳を過ぎる頃には、所詮こんな願掛けなど何の意味もないと気づき、オカルトに頼ろうとするのをきっぱりとやめた。

 その5年後、完全一致のドナーが見つかり手術も成功するという奇跡が起き、俺は無事普通の人生を歩むことができた。


「そして思ったんだ。所詮オカルトなんて何の意味もないんだ、ただの嘘っぱちなんだって。俺が病院で読んできた推理小説に出てくるインチキ野郎と同じで、何の幸運ももたらしてくれないんだって」


 こうして、俺はオカルトを全否定するようになったってわけだ。


「そうなのか。なら、あの子に付きまとわれるのも災難だな」


 まったくだ。

 それにしても、鈴風はなぜオカルト否定派の俺なんかを誘ったんだろう。オカルトを肯定してくれて、一緒に楽しんでくれそうな相手なんて、あれだけふだんから騒ぎまくってなければ、その相手はいくらでも見つかったことだろう。


 自分の好きなオカルトの謎を全部解いてしまう俺は、鈴風にとって自分の楽しみを侵す不愉快な存在在にしかならないはずだ。そんな俺をいつまでも隣に置いておこうとする姿勢も不可解である。


「ひょっとして、あの子お前に一目ぼれしたんじゃね?」


 そんなわけあるか。くだらないことを言うな。

 俺はふうっと息を吐く。アーケードから身を乗り出して、晴れた空を見上げた。

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