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占い師との面会

中は落ち着いた雰囲気で、木でできたベンチに座布団が敷かれている簡素なものだ。十人くらいの老人がいた。


「いらっしゃいませ。占い処究命館へようこそ。当店のご利用は初めてでしょうか」


 受付らしき場所で若い女に問われ、俺たちは「はい」と答える。

 置かれている料金表を見る。本格的な占いなら要予約で、一万円から五万円くらいするようだ。

 払えるわけがないので、俺は一番上の「初回限定おためしコース」という予約不要の千円コースを選択する。


「領収書、お願いします」

「宛名はいかがいたしましょう」

「中大路鈴風で」


 後ろで鈴風が、「ヴぇっ!?」と踏み潰された蛙ような声で鳴く。

 

「ちょっと。諒さんなに勝手にやってるんですか?」


 小声で文句を言ってきた。


「当たり前だろ。部活での捜査なんだから」

「けど諒さんは持田さんから報酬受け取るじゃないですか」

「あれは個人的な約束だ。部は関係ない」

「都合よすぎませんか?」


 そんなことない。

 俺たちは店内で数分待つ。その間にスマホでボイスレコーダーを起動しておく。

 そして受付の人に呼び出され、受付の隣にある廊下を歩いていこうとした。


「もうしわけございません。中に入れるのはお一人様のみとなっております」


 受付の女が言う。俺たちは顔を付き合わせ、小声で会話する。


「じゃあ、俺が行ってくる」

「えー。部の経費で払うんだから私がいきたいです」

「その人の力が本物なのか見極められるのは、幼い頃から修行してる私だけだと思うけど」


 ゴタゴタと小さな争いを続ける。

 持田が「あのさ」と割り込んできた。


「オレは誰でもいいけど、個人的に言えば渡辺にいってほしい」

「そんな! 代表は私なのに」

「いや……、だって、これまでの事件も、君じゃなくて渡辺が解決したんだろ?」


 持田の発言に、鈴風の口はあんぐり開く。


「ひどい! 持田さんまでそんなこと言うなんて」

「そういうことだから、悪いな」


 俺は輪を抜け出し、受付嬢に「俺が行きます。他の三人には店の外で待っててもらいます」と告げた。


 廊下を歩き、濃い紫のカーテンをめくると、そこには三十歳くらいの女がテーブルについていた。テーブルには大きな紫のクロスがかけてあり、部屋の中ではいくつかのキャンドルが炊かれている。


「そちらにおかけください」


 俺はその女の向かいに座る。女は「どうぞ」と名刺

を差し出してきた。

 『占い処 究命館四条 佐藤加奈子』と書かれたラメのあしらわれた名刺。俺はそれをポケットにしまった。


「さて、まずはお名前を教えていただけますか」


佐藤は落ち着いた声で話し出す。


「渡辺諒です」


 その後、生年月日や出身地、家族構成などの質問に答えていく。


「わかりました。それではまずお聞きします。先ほどから気になっていましたが、あなたの後ろに、うっすらと黒い影が見えます。おそらく、病気の影、親でしょうか。親御さんに病気の兆候があったりしませんか」


 俺はわざと目を見開いて、面食らった風に言う。


「そ、そうなんです。俺の母親、最近ガンが見つかって。もうすぐ入院なんです」


 俺はなるべく棒読みにならないよう、演技力をフルに使う。ごめん母さん。至って健康なのに。


「やっぱり……。お母さんなのね。渡辺さんは、過去にお母さんと大きな喧嘩をし続けたことはありませんか」

「そうですね……。よく喧嘩はします」

「お父さんとお母さんの喧嘩はどうですか?」

「ああ、それはほんとにひどいです。父親のDV状態に近いですね」


 実際にはうちの親はけっこう仲がいい。喧嘩なんてほとんど見ないし、あってもすぐ終わる。俺は勝手にDV男に仕立て上げられてしまった父親にも、内心謝罪をした。


「このままじゃ……、お母さんは死んでしまうかもしれません」

「え!?」

「たぶん病状はそんなに重くありません。けど、後々再発して大変なことになるかも。やっぱり身近な大切な人にきつい言葉を投げかけられたのが原因で、お母さんは生きる力が弱っているのがはっきりと見えるわ」

「そうなんですか……。俺たちのせいで……。いったい、どうすればいいんですか」


 佐藤は目を閉じてゆっくりと首を振る。


「今回は簡単にあなたの影を見ただけだから、そこまではわからない。お母さんにやさしくしてあげると、少しはましになると思うけど……」


 もっと詳しい話を聞きたければ、高いコースを使えということだろう。

 その後、簡単にこれからやるべきことを聞いて、占い鑑定は終了となった。

 俺は「ありがとうございました」と頭を下げ、占いの部屋を後にする。会員証を受け取り、佐藤に見送られながら外にいる鈴風たちと合流した。


「で、どうだったんですか、占いは」

「お話にならない。ただのコールドリーディングだ」

 

 俺は録音しておいた会話を、二人に聞かせる。


「誰ですかこの素直そうで、諒さんに声が似てるけど性格がまるで別人な、謎の青年は」

「俺だよ!」

「嘘でしょう!? だって渡辺さんってもっとひねくれた人じゃないですか!こんな純朴そうな話し方ができるはずがありません!」

「お前いくらなんでも失礼すぎるだろ!?」


 再び口論が始まりそうになったところで、嵯峨根が「まあまあ」と仲裁してくる。


「まあまあ二人とも。それより、この渡辺君が話した内容は本当なの?」

「全部嘘だ」

「ひねくれすぎではありませんか。諒さん」


 うるせぇ。


「で、嘘を暴いて、それで持田さんからの依頼は解決でしょうか」

「わからん。俺としても、それで終わってくれるのが一番楽でいいのだが」


 実際、その程度の論理的な説得でどうにかなるなら、この世にカルトは蔓延らない。この手のオカルトにはまる人間は、論理が通用しないから厄介なのだ。

 そう、厄介。こんな風に放課後や休日も駆り出されたりな。


「持田の祖母に会って、どういうハマり方をしているのか、何がその人の心を絡め取っているのかを知らないことには、なにも言えないな」


 俺は持田に頼んで、祖母に会わせてくれと持ちかける。


「わかった。今から電話する。……もしもし? 婆ちゃん? オレオレ、オレだよ」


 旧式の詐欺だろうか。

 少し話し込んだ後、持田は電話を切った。

 

「婆ちゃん来てくれるってさ。そこの鴨川の橋で待ち合わせ」


 さて、ここからが本番だ。

 変な占い師にハマった人を、一体どうすればその道から引きずり出せるのか。まずそれを観察から導かないことには、話にならない。




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