捜査のために来てるはずなのに、ひたすら鈴風が甘味を食す回
「歓迎します!どうぞお話しください!私やうちの優秀な部員が超常現象による悩みを解決します!」
「これまでの依頼はほぼ部員でない俺が解決してるけどな」
「まあまあまあ、諒さん。どうどうどう、諒さん」
せめてなんか意味のある言葉を喋ってくれ。
持田の話はこうだ。
隣町である京都市の、河原町四条の東側、ちょうど「清水の舞台から飛び降りる」で有名な清水寺のあたりで、変な占い屋が出現しているらしい。
なんでも、その占い師は非常によく当たると評判。そして悪い運気が見えたと言って、開運商品を売りつけてくる。
ここまで聞くと普通の悪質な霊感商法なのだが、やり方がまただいぶ巧妙なのだそうだ。
まず、そこまで暴利の開運商品を売らないということ。霊感商法の開運商品というと、何十万何百万の商品を、ローンを使ってでも買わされるというイメージがあるが、ここは数万円程度。
そのため、被害があまり表向きにならず、当人や買わされた人の周囲が警察に行っても、あまり相手にされないらしい。そもそも、被害に遭ったと気づくことが少ないようだ。
次に、客のことをあまりに正確に当ててくるということ。そのため、みんなそれを信じてしまう。
他にも、マルチ商法紛いのことをしているらしく、なかなか胡散臭いところのようだ。
引っかかっているのは主に老人。持田の祖母も被害に遭っているようだ。
「そんなことを俺たちに相談してどうしたいんだ。取られた金をどうにかしたいなら、消費生活センターとか弁護士とかに言うもんだろ。本格的につぶしたいなら警察だ」
俺だって変な団体にはかかわりたくないのだ。瑞楽神社は後ろ楯のない小さな集団だったからいいが、次もそうだという保証はない。千年の歴史がある闇組織とかが絡んでたらどうする。
「いや、それは別にいい。うちの被害は少ないからまだいいんだ。お前らに頼みたいのは、オレのおばあちゃんを止めてほしいっていうことなんだよ」
なるほど。そういうことか。
「それにしても、なんで俺たちなんだ。そんな深刻な悩み、わざわざ高校生の部活に相談に来なくてもいいだろ」
「いやあ。だってお前ら先月自殺した先輩を解決したって聞くし、それに昨日からニュースでやってた、神社と麻薬の事件もお前らが解決したんだろ?」
俺は鈴風を睨みつける。鈴風は委縮した様子で「だって部の実績ですし……。学校のみんなに知ってもらわないと」と、あっさり自白した。いい加減ぶち切れそうだ。
「頼む。オレけっこうおばあちゃん子でさ。このまま放っておけないんだよ。頼むから助けてくれ」
「私は行きたいなあ。近所でそんな変な商売されると、うちの神社としても困るし、本当に力のある人なのか見ておきたい」
「私も気になります!商売としてはこすくても、力自体は本物かもしれませんし!」
四面楚歌とはこのことか。
俺は頭をかきむしったのち、ついに折れた。
「わかったよ!その代わり持田、契約金として駅前のラーメン屋を三回奢れ。成功報酬は追加で俺の指定する文庫本十冊だ」
けっこうふっかけたつもりだったのだが、持田は何のためらいもなく。
「わかった。しっかりやってくれよ」
こうして、俺は第三の事件に巻き込まれることになるのだった。
その後、俺たち四人は学校を出て例の占い屋へと向かった。
バスで京都駅まで向かい、そこから電車で最寄りの祇園四条駅へ。商店街を抜けて、持田から渡された地図を頼りにその占い屋を探す。
「あー!見てください!生八つ橋試食ありますよ!」
鈴風が店の前で立ち止まってなにか叫んでる。観光客ならともかく、地元民がそれでテンションあがってどうするんだ。
しばらくして鈴風はビニール袋にたくさん入った生八ッ橋を持って、俺たちに追い付いてきた。
「どうしたんだ、それ」
「包むのに失敗したやつや、皮の余った部分をくれたんですよ。ありがたいお話です」
涎垂らしながら試食品食いまくってたから、追い返すためにそれを渡したんじゃないだろうか。
「諒さん今すっごく失礼なこと考えたでしょ?」
なぜわかったのだろう。エスパーか?
「あんみつ屋ですよ! じゅるり」
「おっと、これはあの伝説のみたらし団子じゃないですか! 前ネットで評判調べてから気になってました! 買いましょう!」
「あ、ここのイチゴショートすごくいいって聞いてます!」
「諒さん! タピオカ屋ですよ! このエリアにあるのは珍しいですね」
「サーターアンダギーじゃないですか! いいなあ。ほしいなあ」
「お前いい加減にしろよ!?」
俺はとうとう我慢できなくなって叫んだ。
鈴風は、袋に入った大量の沖縄発祥球状ドーナツを頬張りながら、「ふぇ?」と尋ねてくる。
「『ふぇ?』じゃねえよ! お前なにしにここに来たんだ!? 京都スイーツ食べ歩きか!?」
しかも後半に至っては和菓子ですらない。
鈴風はついさっき口に放り込んだサーターアンダギーをごっくりと嚥下して、
「そんなわけないじゃないですか。これも捜査のためですよ」
その食い倒れ紀行がか!?
こうして不安になる出来事を交えつつも、俺たちはとうとうその占い師の店へと到着したのであった。