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二人で隠れてたらなぜかくんずほぐれつしていた

「戻るんですか? あそこに?」

「ああ。それで、この事件を解決する」

「解決……? やっぱり、今回も人間の仕業だというのですか?」

「そうだ。あの神社の悪徳が、もうすぐ暴かれる。


 この事件はおとなしく警察に任せたほうがいいと思う。自殺した生徒の霊がどうこうという話と違って、俺たちだけでなんとかし切れる問題ではない。

 しかし、こういう犯罪はちゃんとした証拠か内部告発がないと、なかなか警察は動かない、という話もよく聞く。ならば、なんとか警察を動かせる程度の証拠を上げなければ。


 そう。証拠。証拠がないんだ。これじゃあどうにもならない。


「嵯峨根の父親が警察に持っていった鑑定次第では、まず高橋さんのところに警察が行き、家宅捜索などを行って、その上で、瑞楽神社に行き着くと思う。だがせっかく協力してくれたあの爺さんに、あまり迷惑はかけたくない」


 あの人は被害者だ。ある程度事情聴取はされるのは仕方ないが、それ以上の迷惑をかけるのは嫌だ。


「ですよね。ジュースとケーキ奢ってくれるいい人ですし」

「お前はあの件について、百回くらい礼を言いに行くべきだと俺は思う」


 そもそも、高橋さんへの迷惑云々以前に、高橋さんからの証拠がすでに消えている可能性は大いにある。

 そして俺は思い出した。あの神主を手伝っていた、田中という男。

 あの男の、不可解な表情の変異を。

 俺たちが儀式に来ると険しい顔をして、俺が皆のグラスを叩き落としたことで、神主から追い返されたときは、なぜかとてもほっとしたような、肩の荷が降りたような表情を見せていた。

 

「そうか……。そういうことか」


 俺はその理由について、ようやく思い至った。


「田中はそんなに悪い人じゃない。俺たちのことを心配してくれてたんだ……」


 おそらく、嫌々ながら、神主の指示で犯罪に手を染めていた。

 であれば、付け入る隙は、ある。その良心を、その罪悪感を利用すればいい。

 なにより、俺たち身を案じてくれた田中には、減刑を望みたい。主犯はあの神主だろう。

 証拠がなくても、田中だけ、一人だけを陥落させることができればいいんだ。あの男に全部自白させて自首に追い込めば、内部告発となり確実に警察の捜査は行われる。


「渡辺さん。瑞楽神社に行くと言ったって、すでに間違いなく無期限の出入り禁止ですよ私たち。神域に入れるもらえるわけがありません。行ってもすぐに門前払いされるだけなんじゃ……」


 まああんなことをしでかしたわけだからな。当然だ。

 

「大丈夫。なにも本堂に入ろうってわけじゃない。田中に会いたいだけだ。見たところ、あの男は神主の使いっぱしり。外出の機会は多いはず。どうにか話せるチャンスはある」


 そして俺たちは、瑞楽神社に戻る。その道中で、中大路と嵯峨根にすべてを話した。

 やはり、嵯峨根は俺の言動から概ね気づいていたものの、中大路は全く予想もしていなかったらしく。


「私たち、そんな目に遭うところだったんですか!?」

「ああ、まず間違いない」

「じゃあ私たち、渡辺さんに助けられたんですね?」

「そういうことになる」

「……ありがとう、ございます。怒ってすみませんでした」


 しゅんとした様子で中大路が謝罪してくる。こいついつもこんな感じならかわいいのな、と俺は少し残念に思った。


 俺たちは瑞楽神社に到着。参拝客に怪しまれるのも気にせず、本堂へと上がる石段の途中、別れて物陰に身を隠す。


「…………………………」

「……………………………………中大路?」

「はい。なんでしょう」


 なぜか俺の隣に隠れる中大路は答える


「お前、なんで俺について来たんだ?」

「決まってるじゃないですか。相手犯罪者なんでしょう? 一人で身を隠すなんて怖すぎます」

「こんなときだけまともになるな」


 距離が近い。狭い物陰だから、中大路の背中が俺の胸をぐいぐい押してくる。


「渡辺さん。もう少し奥いってください」

「無理だ。これ以上動いたら田中に見つかる」


 顔の近くに押し付けられた中大路の頭から、なにやらいい匂いが漂ってきて、俺を惑わす。

 これがいわゆる女の子の匂い、というやつだろうか。いや、トリートメントの匂いだろう。

 俺はそう思うことでなんとか冷静さを取り戻す。ここで変な気分になっている場合ではない。


「田中さん、来ないですね」


 そんな俺の懊悩を知って知らずか、中大路が言う。


「まさか帰ったんじゃ」

「それはない、と思いたい」


『普通、弟子はその神社に寝泊りするし、そうじゃない人でもさすがにこんなに早く帰ることはない、と思う。たぶん』


 道中で嵯峨根が言った台詞だ。『たぶん』という部分に不安を感じるが、そんなことはないと思いたい。

 心配は杞憂だったようで、しばらくそのまま待っていると、本堂からなにやらモップやバケツや洗剤といった掃除用具を持った田中が、石段のほうにむかって歩いてきていた。


「来ました。声をかけますか」

「いや、もう少し待とう。逃げ帰られても困る」


 田中が石段を一段ずつ降り始め、俺たちが隠れている場所を通り過ぎたあたりで、俺たちは一斉に茂みの陰を飛び出す。三人で田中を取り囲んだ。


「な、なんですか。嵯峨根さん、たち……?」


 俺たちの姿を見て、田中は面食らった様子を見せる。そんな田中に、俺は告げた。



「お話を聞かせてください。あなた方が、神を見せる儀式と称して、違法薬物を客に飲ませていた件について」




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