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とうとう休日にまで駆り出された件

 土曜日であるにも関わらず、俺は朝早くに家を出て、集合場所である駅へと向かう。 

 屋根裏からエアガンと催涙スプレーを持ち出してきて、腹巻で体に密着させるという形で隠し持つことにした。なるべくだぼっとしたパーカーを着ることで、外から見て不自然な形になることもない。

 俺が駅に到着すると、すでに中大路と嵯峨根が待っていた。


「あ、渡辺さん! おーい!」


 頼むから周りにそれなりに通行人多いのに叫ばないでくれ。


「おはよう。渡辺くん」

「ああ、おはよう」


 中大路は白いロングソックスとピンクのショートパンツに、オレンジの少し大きめのTシャツを着こんでいる。Tシャツのネックは肩が見えそうなほど広く、黒いインナーが少しばかり顔をのぞかせている。そういうファッションなんだろうか。

 嵯峨根はひらひらがついた白いワンピースを着ていた。ウェストの少し上あたりでキュッと絞られているため、嵯峨根の大き目の胸が強調される形になっている。


 俺は次に中大路のなだらかな丘に視線を向け、はあとため息を吐いた。


「む! 今の渡辺さんの思考失礼すぎませんか!」


 なんでわかったんだ。超能力か?


 俺たちは駅のターミナルからバスに乗って、嵯峨根の言っていた神社へと向かう。


 瑞楽神社は普通の住宅街のなかにあり。その周辺だけが小さな森でおおわれている。町の中にある普通の神社といった雰囲気であり、変な商売をしているような印象は特にない。周りも普通の参拝客に見える。

 鳥居を潜って境内に入る。長い石階段を上った先の広場の奥に、本堂らしき建物があった。

 ここからは嵯峨根が先頭に立って歩くことになった。脇の玄関口らしきところから本堂の中に入る。

 木の香りが漂う古くも荘厳さのある本堂の中。俺たちは靴を脱いで中に入る。


「ごめんくださーい」


 嵯峨根の声に呼応し、「ただ今参ります」という男の声が聞こえる。少しして、その声の主と思われる二十代くらいの男が現れた。


「どちら様でしょうか」

「嵯峨根と申します。今日は『儀式』をお願いしていたと思いますが」


 男はそれを聞いて、やや強張った表情になる。しかしすぐににこやかな顔になり。


「お待ちしておりました。さあどうぞこちらへ」


 そして俺たちは、中央にテーブルが置かれた6畳ほどの和室に通される。

 テレビやポットなどが置かれており、普通の住居と変わらない雰囲気の部屋だ。ここでその儀式とやらをやるのだろうか。


「いえ。ここはあくまで説明をさせていただくだけです。儀式自体は奥の専用の部屋で行います。書類をお持ちしますので、少々お待ちください」


 そういって男は部屋を出て行った。


「嵯峨根。今の男が神主か? ちょっと若すぎる気もするんだが」

「ううん。あの人は田中さんっていう、神主さんの弟子。神主さんはもっとおじいさんだから」

「嵯峨根さん。この場所になにか感じますか?」

「うーん。特になにもないかなあ。普通の神社って感じ」


 俺たちが声を潜めて会話していると、先ほどの男。田中が戻ってきた。そして俺たちに何やら一人一枚紙を配る。


「こちらは誓約書になっております。同意していただけたら、そこにサインをしてください」


 未成年に誓約させてもほとんどの状況で法的に意味はない。保護者が言えば覆せるはずだ。しかしこれはそれを知らない情弱に文句を黙らせるためだろう。

 俺たちは田中の説明を受けながら、誓約書に書かれた内容を読んでいく。

 気になった内容はこんな感じだ。


 まず、『この儀式によって起こったいかなる問題に関しても、神社側は責任を取らない』ということ。


「精神を神の領域に近づけるわけですから、何かしらの問題が起こる可能性は否定できません。特に心に悪を抱えるものには、神は神罰を下す可能性がございます。そういった場合であっても、こちらは一切の責任を負わないというものです。幸いにしてこれまで一件も起きていませんが」


 と田中は説明した。


 次に『同じ人間が儀式に二度参加するのは許さない』というもの。「神に何度も近づくのは侮辱にあたる」らしい。


 そして『儀式の具体的な流れについては、一切口外しない』というものだ。神との対話内容や神秘の世界で見たものを公開するのは構わないが、『神域』と呼ばれる奥のエリアに入ってから、そこまでに至る状況は一切口外してはならないという決まりらしい。 


「以上となります。同意していただけない場合は、儀式に参加していただくことはできません」


 俺はボールペンを持ってためらいなくサインした。なにかあれば親の一言で法律の力により取り消せるのだから、問題はないだろう。

 俺が迷いなくサインしたのを見て、中大路と嵯峨根も名前を記す。田中はそれを見て、また一瞬だけ険しい表情を見せた。


「では、『神域』へと案内いたします。こちらへどうぞ」


 男に案内され、俺たちはまた本堂の中を歩く。

 そして、電子ロックされた柵の前で、田中は立ち止まる。


「この柵を越えて少し進んだところからは、もう『神域』となっております。誓約書の通り、この先の出来事は他言できないため、ご了承ください」


 そういいながら、田中は電子ロックを開き、俺たちを檻の中へと招き入れた。

 さあ、ここからは向こうの領域だ。少しでも間違った行動を取ることが命取りになる。俺は自分の気持ちを引き締め、檻の中へと足を踏み入れた。


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