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青銅の鐘突き人形  作者: 沼田紋次
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営業スマイル

【営業スマイル】



「皆さんに襲って貰うのは私の会社の工場です。強盗でも殺人でも何でも構いません。出来るだけセンセーショナルにお願いします」


 まるで、ちょっとそこまでお使いに行って来て下さい、位の感覚で、気楽さで黒縁は言い放った。


「保険金目当ての狂言強盗ですか。……この様な後ろ暗い事をしなければならない程、貴方の会社は切迫している様にも見えないのですが?」


「どこの会社もパット見、そういうものだと思いますよ?」


 木槌男よりも更にデカイ、分厚く重い筋肉を纏った覆面神父の質問に黒縁が答える。


 本来なら廃墟であろうと教会では一番似合う筈のカソック姿だったが、如何見てもコスチュームがカソックなだけの覆面レスラーであった。しかもマスクが、一つ目の怪人サイクロプスの頭を模った、エメラルドグリーンのド派手なものである。


 確かに素顔は隠せているが、そのマスクのおどろおどろしさは一度見たら、そうそう簡単に忘れられるものではなかった。


「私が百二十年前に創設して以来、初めての大損失です」


 黒縁の言葉に眉をひそめる者はいない。下らないジョークだと失笑する者も居ない。ただ、汗をかいている所を見るに、サイボーグではなくクローンの方なのだなあ、という推測が過るだけ。


 覆面神父は頷くと、子供の胴体と同程度はある太さの腕を組む。軽く腕を曲げただけで袖ははち切れんばかりだ。


「報奨は奪い取った御社の製品とカネ。貴方には保険が下り、我々の手には欲しい製品が、という訳ですな」


「そうです。在庫処分の大出血セール、と言った所でしょうか」


 ニヤニヤと笑う黒縁は続ける。


「たった一台のロボットが起こした殺人でうちの株価は大暴落ですよ。確かに我が社は日本のホリロボットと提携して様々な製品を生み出して来ましたが、ロボットの殺人事例はテツオの一件だけなんですよね」


 いやはやと首を振るも、黒縁に悲壮感は見られない。話す内容は大きいが、語り口は同僚に対するちょっとした愚痴の様にも聞こえる。


「なのに、さも我が社の全ロボットが殺人可能であるかの様に報道されてしまって。まあ、たった十数年前の小さな事件ですがね、その小さな事件に振り回されるのも飽きてしまいまして」


 黒縁は教壇の中から黒い冊子を取り出すと十人に一部ずつ配り始める。


「新事業も軌道に乗り始めましたので、よければどうぞ」


 生まれながらの変わらない、新しい肉体に乗り換えるのなら今。性転換可能。一生に一度の素晴らしい体験を。


 様々なキャッチコピーと空中でタッチ可能な3D写真が並ぶカタログだった。


 木槌男と毛皮少女は生首を挟み、同じ冊子の同じページを食い入る様に見詰め。


 五人組は自分の手元の冊子を見ずに、態々隣の冊子をそれぞれが覗き込み五角形を作っている。


 碧帽子は化石の様な時代遅れのスマフォを取り出し、カタログについて誰かと電話で話し始めた。


「宗教上の理由でクローンはちょっと……」


「いいから、とっとと作戦予定を話しなさいよ」


 覆面神父は受け取らず、赤シャツは分厚いカタログを、木槌男にオプションの説明をし始めた黒縁へと投げ返した。

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