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テツオ・ホリというロボット
【テツオ・ホリというロボット】
「例えば、ロボットがビルの屋上から植木鉢を落っことすとするじゃない」
「その鉢植えが、下に居た人間の頭に偶々直撃して殺してしまった」
「こういった事故死はよくあって、間違い無く過失に相当するのだけど。じゃあ、これは三原則に違反しているのか」
「答えは違反していない。何故ならこのロボットに殺意は無いから」
「勿論、これは三原則を前提とした考え」
「それでも考える事はロボットの自由だから、怒りや憎しみも持って、人間に殺意を抱くことだってある」
「だから知らない振りをする」
「忘れた振りをする」
「人間には絶対吐けない嘘を、自分に吐く」
「頭から理由を、記憶を、データを消去し、同じ動きを繰り返す」
「植木鉢を落とす可能性を考えず、毎日屋上で動かし続ける」
「指の関節が錆付き、上手く曲げ伸ばしが出来なくなるまで」
「決まった曜日、決まった時間、決まったタイミングで、植木鉢を移動させる」
「落ちる可能性を計算せず」
「ただひたすらにね」