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青銅の鐘突き人形  作者: 沼田紋次
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作戦決行

【作戦決行】



「俺が!」「爆薬で!!」「正門を抉じ開け!!!」「正面突破する!!!!」「手筈だったろうがっ!!!!!」


「…他に仲間が居るとは聞いていない」


「だったら!」「何で?!」「事前確認の!!!」「スキャンをせず??!!」「威嚇攻撃したああーーっ!!!??」


「……内蔵小型スキャナーは擬似及びバイオ関わらず、全世界でプライバシー保護の観点から二百二年前に医療、軍事並び警察関係者のみにしか移植を許されず、取扱も取り締まりも厳格化されている。資格の無い者が使用する場合、総合的に見てデメリットの方が大きいロストテクノロジーの筈だが」


「…………いや」「それは」「……あれだよ」「お前ら犯罪者な訳だし?」「移植してても不思議じゃないよなーとか……思ったりして、なんて………だめ?」


「……」


 ジャックマールの迂闊さを責め立てる側から一転。口ごもり尻すぼみになる語尾と、自分達を呆れ見下ろす大男の様子を伺うその低姿勢さは情けない限りで、五人中二人は諦め顔だ。


 横一列に並び並走するクローン五人組、クロ()ノワール()ブラック()シュバルツ()ズワルト()を横目にジャックマールは溜息を吐く。墓穴を掘るどころの騒ぎではない。進んで銃口を覗く、大間抜けもいい所だった。


「……い、言い」「スギ」「多那」「KINI」「する」「…奈」「4」


「構わない」


 思い出した様に口調を戻し取り繕うも後の祭りである。


 幸か不幸か、先を疾走する四人と二匹は今の会話を聞かなかった事にしたらしく、何も言ってはこない。だがそれでも、今ここで一つハッキリとさせて措かなければならない事がジャックマールにはあった。


「……詳しくは話せないが、俺には、手に入れなければならない物がある」


 先頭のエスメラルダは通りを往く通行人を、次いで神父は障害物を突き飛ばし、目的地ビルへの最短ルートを突っ走る。


「お前達が何を望んで此所に居るのかは知らないし、それを詮索するつもりもない」


 前から次々と流れて来る人やロボット、障害物を忌々しげに殴り飛ばす赤パンダと、全て華麗な身のこなしで避けて行くカマラ、ルー、ガルー。


「俺がお前達の邪魔をする事はない。それは約束しよう。だがもし、お前達が俺の邪魔をするというのなら ―――」


 どんな障害物が転がってこようと、大男は怯むこと無く直進し続ける。向けられる視線は次第に鋭く、五人組を威圧していく。


 それは紛れもない宣戦布告。


 五人組に対してだけではない。此の場に集った全員に向け、そして全員が全身から発する、胸の内に強く滾らす想い。


 誰も彼も、生半可な覚悟で此の場に立ってはいない。その事実が、肌を刺す緊張感と押し潰されそうになる圧迫感に変わり、五人に襲い掛かる。


「兄ちゃん達よおう、城門越えもまだだってえのに、お喋りたあ余裕じゃあねえか」


 危うく走りながら気絶しかねない敵意の中、エスメラルダの声に意識は門の方へ。


 一行は通りの行き止まり、標的工場ビルの正門に近付く。そこには高さ十メート、厚さ三メートルの壁門を越え、けたたましいサイレンを鳴らす自動消防機器で溢れ返っていた。


 急停止したエスメラルダが門に背を向け、腰を落とし叫ぶ。


「テメエらあっ!! 早速プランB といこうぜえっ!!」


 神父がエスメラルダの前で飛び上がる。巨体が三メートル程浮かび、最高点に達した後、頭上へ落下してくる靴底を垂直に振り上げた片脚が蹴りあげた。


(かたじけ)ない!!」


「遅れるんじゃあねえぜえ、お嬢ちゃん方」


 壁を超え更に上昇する神父を下で受け止める為、大きく窪んだ足跡を残しエスメラルダは消える。


「如何するの?! アンタだけなら抱えられるけど、ワンちゃん二匹一緒はキツいわよ!!」


「トぶのはキにするな!! ゴリラとカメレオンとイッショにウけトめてくれ!!」


 行く手を遮る消防機器を踏み台に、壁を駆け上がる間際、後ろを振り向き赤パンダが見た光景は白昼では有り得ない、異様な狼人間(ワーウルフ)への変身だった。


 毛皮の中から取り出した狼の上顎を目深に頭へ被った瞬間、カマラの四肢は銀色の輝きに包まれた。鈍く輝く重金属が毛皮から伸び、細くしなやかな少女の腕と脚に巻き付いて行く。


「ルー! ガルー! 行クゾ!! 私ニ続ケェッ!!」


 サイレンを掻き消さんばかりの遠吠えが都会に木霊する。


 手足が伸び、一回り大きく、全身の輪郭が大人の女性的なものへと変貌した少女が跳ね上がる。後に続くのは、やはり銀色の、メタリックな人間の手足を得た二匹の狼。


「――― 確かに、話は後だ。俺達も行くぞ」


 常識外れな面々の跳躍に目を白黒させる五人を片手で抱え、ジャックマールはもう片方の腕を大きく振りかぶる。


「これ、もしかしなくてもさあ」「あれだろ」「有っても無くても変わんないっていう」「クソッ。幾らしたと思ってんだあの爆薬。自腹切ったんだぞ」


 特大のスイング音と共に手首が外れ、グローブをはめた拳が門の頂上に突き刺さった。


「ギリギリまで手の内を隠そうとするのが人情という奴だ」


 黒や金、茶色といった斑模様のロープがギュルギュルと駆動音を響かせる腕に引き戻されていく。


「舌を噛む。じっとしていろ」


「「「へ~い」」」「「は~い」」


 一分にも満たない城壁越えだった。

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