全員集合
【全員集合】
クラクションが鳴る。
「おーい!」
何時の間にか広場の入り口に大型のゴミ収集車が停まっていた。続けて鳴らされたクラクションと呼び声に、広場に居た全員が意識を向ける。
「おい、呼んでるぜえ? 誰の知り合いだあ?」
街路樹程度なら易々と引き抜けそうな、ゴツイ蟹バサミ型のアームが一対搭載された、黒と黄色でカラーリングされたゴミ収集車。その運転席側の窓から顔を出す男が再度、五人を見詰めクラクションを鳴らす。その顔は笑みを浮かべ、片腕も出し手を振っていた。
「知らない。私じゃないわよ」
「私も違いますな」
「俺もだ」
カマラも首を振り否定し、鼻をと耳ひくつかせている。臭いも覚えが無い様だ。だが運転席の男は五人の様子など構わず気さくに手を振り続けている。
「ちょっと、近くに行って話し掛けてきなさいよ。アンタ達を回収しに来たのかもしれないじゃない」
鬱陶しいじゃないと、自分で動く気はさらさらない赤パンダがジャックマールとエスメラルダに当たる。
「断る」
「あっちから近付いて来ねえんだからよお、こっちから出向く必要はねえなあ」
「同感ですな」
「キになるなら、アカパンダがイけばいい」
「え~~~」
ぶーたれる赤パンダに否定的、というよりは安易に面倒事へ近付きたくはないという心情だろうか。不気味な運転手は尚も笑顔で、車体のアームと一緒に手を振りクラクションを鳴らしている。
「…だが、これ以上目立つのは避けたい」
カフェの件よろしく、警察がまた集まって来るとも限らないと、ジャックマールは肩に座るカマラの首根っこを摘まみそっと地面へ降ろす。
「うおい、兄ちゃんよお、不用心に近付くもんじゃあ……」
エスメラルダの忠告が終わる前にジャックマールは歩きだす。だが方向は反対側。ゴミ収集車に背を向け、ずんずんと迷い無く進む後ろ姿に、運転手までもが不思議そうに成り行きを見守っている。
「……なあにしてんだ?」
「知らないわよ」
全員が奇異の目で見詰める先、地面に突き立てられ半円型のオブジェと成り果てたテーブルの傍へとジャックマールは歩み寄る。そして ―――。
「え?」
運転手は思わず疑問の声を発した。
ボロを纏った大男が背を向け何かしていたのは確認出来ていた。背を曲げ、片足を後ろに下げ勢い良く振り返ったのも視認していた。先程と広場の風景が若干異なるという違和感にも気付けていた。
だが同乗者の、ゴミ収集車の荷箱に隠れていた五人が慌てて、転げる様に逃げ出した理由は終ぞ知る事はなかった。
空高く投擲されたテーブルは寸分の狂い無く収集車の荷箱部に落下。
直撃した瞬間、単なる衝突事故では考えられない真っ赤な爆炎が、重く低い衝撃音と共に青空高く轟々と立ち昇った。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
風圧と耳鳴りによろめき、身を屈めぽかんと火柱を見上げたのも一瞬。広場近くの標的ビル、ロボット工場から警報音と避難勧告が周辺一帯に響き渡り、気まずげに俯き頭を掻く大男へ全員の視線が注がれた。
収集車の傍で爆風に煽られ、ぐったりとへたり込むクローン五人組の前に運転手の生首がてんてんと転がり落ちる。それを何所からか現れた二匹の狼が互いに取り合い、自身の番の前に置くまで耳の痛い沈黙は続いた。




