似て非なるもの
ちょっと下品な表現が含まれます。
【似て非なるもの】
「ナンでパンダにジンケンはミトめられないんだ?」
「人間以外の人権を認める事で、ロボットにも人権を求める人間の声が大きくなるからだ」
「ナンでロボットにはジンケンがミトめられないんだ?」
「法整備や社会制度の改革、その徹底が難しいというのもあるが……根本的にロボットは人権を求めていない。だから人間もロボットに人権は必要ない物だと考えている」
「ナンでニンゲンはモトめられていないことをワザワザ ジツゲンしようとコエをアげるんだ? ロボットもナンでジンケンをモトめないんだ?」
「……それは」
「それは?」
「……」
「それは人間が他者を見下す事が出来る生き物で、ロボットはそんな人間を険悪しているからよ」
カマラの純粋な疑問による質問攻めに応えていたジャックマールが詰まると、後を継いで語り出したのは真っ赤なワイシャツを着たビジネススーツ姿の女性だった。
ポンポンと軽く、毛皮に埋もれたカマラの肩を叩くと、空いていた席、ジャックマールの左隣りに長い脚を組んで腰掛ける。
「あんな醜い生き物と同列にされたくないって、見下してるのよ、ロボット達は」
新たな客に、カウンターに置かれていた全面ガラス張りの球体が動き出す。その場で自転し始め、徐々に垂直へ浮き上がっていく。
「その真っ当な感情の発露こそが “ロボットに人権を” なんて馬鹿げた事を人間に言わせる原因になるんだから、世の中は皮肉よ…ねぇ……」
ふらふらと宙を千鳥足で往く球体、コーヒーサーバーロボットは赤シャツの前に自身の回りを公転するステンレスマグを置くとその場で停止し、じょぼじょぼと、南半球側から突き出た小さな注ぎ口を用い泡立つコーヒーを淹れていく。
「……」
見せ付ける様に、ゆっくり、ねっとり、たっぷりと一分は掛けただろうか。
「……アンタ達、これ飲んだの?」
スッキリ軽快に再び自転しつつカウンター側へと真っ直ぐ戻る球体を見送り、何だか触るのも嫌だとばかりにマグから身を反らす赤シャツは問う。だが同じ席に着く男達の反応は芳しくなく無言のままだ。カマラ一人がジャックマールの膝上でホットミルクの残りを掲げている。
「……ソレもなんか嫌だわ。アンタ達は何も思わなかったの? それとも、あんな光景見せ付けたうえでコレを呑ませる趣味でもあるっていうのかしら」
冗談で軽く詰る言葉を放つ赤シャツだが男達は互いに顔を見合わせるばかり。その様子にどことなく戸惑う雰囲気を感じ取り、言語中枢をセットし間違えたかと録音データを確認するも異常は無し。
いよいよ理由が解らず、ただ単に無視されただけかと青筋を立て始める赤シャツは苛々とテーブルの裏を膝でガンガンと叩き始める。
「ちょっとお。今更空気乱す様な「貴女は「お前は「てめえは「「「どちらさまで?」」」――――――」
本気で首を傾げる三名に間髪入れず重いステンレス合金のテーブルが襲いかかった。
「ニオいでワからないのか?」
一人、別の事で首を傾げる少女は背を曲げ避けつつ残りのミルクを飲み干した。




