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青銅の鐘突き人形  作者: 沼田紋次
10/20

コードネーム その2

名前を検索すれば一発で色々とネタバレしてしまいますので気を付けて下さい。

【コードネーム その2】



「俺はよおう、願掛けとかするタイプでなあ」


 勿体ぶって語る碧帽子に、いいから早くしろよと、全員の冷たい視線がチクチクと刺さる。


「神父さん。アンタが決めてくれや」


 思わぬ言葉にたじろぐ覆面神父だったが、その言葉に何かを感じ取ったらしく、気を取り直して深く頷くと、少し考える時間が欲しいと告げた。


「なら俺は、最後でいいかねえ」


 ぎしりと、椅子に浅く腰掛け直した碧帽子は脚を組み両手を腹の上へ。リクライニングじゃないのが残念だといわんばかりの寛ぎっぷりである。


「糞パンダが目を覚ますまで始まらねえんならよお、俺も少し休ませて貰うぜ」


 長くなるのを見越してか、キレて暴れる危ない糞パンダが先程木槌男に気絶させられ安全になったからか、碧帽子は早速寝息を立て始めた。


 そんな若人達を呆れ眼で見詰める外見だけは若い眼鏡。


「本当に自由な方たちですね。私も随分長く生きていますが、こんな人は滅多にお目にかかれませんよ」


 ここで残りの八人にさっさと作戦説明をして切り上げてもいいのだが、何が起きるか判らない残りの二人がネックで話を勧められない眼鏡も静観の体勢に入ってしまう。


「出来れば夜が明けるまでにお願いしますよ。なんだったら本名でも構いませんし」


 場を和ませる為か、早く話を進めたい為か、眼鏡の提案も酷い物であった。完全管理社会のこの時代、名前一つで、顔写真一枚で個人情報は際限なく暴かされてしまう。


 幾ら簡単に安価で身体を弄繰り回せるからとはいえ、それを永遠に繰り返す訳にもいかず、一度世に情報が出回ればそれを消す事などまず不可能なのだ。


 だからこそアンダーグラウンドな連中は顔を隠したがる。野箆坊の存在が良い例ではなかろうか。


 しかしこいつらにとっては、ここに集う連中にとってはそれらすらどうでもいいと言わんばかりの事であった。


「俺は、ジャックマールだ」


 眼鏡の注文に対し逸早く応えたのは木槌男だった。


「……あの、すみません。さっきのは冗談ですからね。本当に本名じゃありませんよね? 別に私も貴方の個人情報を知りたい訳じゃないんですからね? 何だかツンデレっぽくなりましたが、貴方の名前を知ったばっかりに私の身が危険に晒される事もあるんですよ! そこんところ、確り自覚して下さい!!」


 自身をジャックマールと名乗った男は問題無いと首を横に振る。椅子に座った状態で尚も見上げる程の巨体のジャックマールは木槌を下ろす事なく担いだままだった。


「俺は欲しい物が手に入れば、後は如何だっていい」


 ジャックマールがぼそぼそと口を動かす度に、椅子もぎしぎしと悲鳴を上げている。だが本当に悲鳴を上げたいのは眼鏡の方だった。


 情報が出回っても問題無い。裏を返せば情報を問題無く消すことが、もしくは厄介な連中に命を狙われても対処出来ると豪語しているのである。


 それが絶対に不可能だとは言えないものの、限りなくゼロに近い世界で問題無いと言い切れるのはよっぽどの世間知らずの無知野郎か、よっぽどの自信を持つ者だけ。


 狂言強盗が世間にバレ、自身の不利になる様なら纏めて消してしまう腹積もりだった眼鏡は厄介な奴を引き入れてしまったと、ぐしょぐしょに濡れたハンカチを絞り滝の様に流れる汗を拭った。


 そして眼鏡の心労と汗は止まる事無く増え続ける。


「カマラ」


 毛皮少女も自身の本名らしき名前を口にしたのだ。


「こっちはアマラ」


 続けて紹介したのは自身が纏う毛皮だった。少女のチョコレート色の肌を隠す、全身灰色の毛皮を見せ付ける様に、襟口を持ち上げるカマラは誇らしげに、ニッと微笑んでいる。


「でもって」


 カマラの紹介は終わらない。暗闇を指差し、人では無い何かの名前を口にした。


「あっちがルーで、そっちがガルー」


 カマラの指差す先、暗闇の中にはぼんやりと輝く黄色い目玉が四つ浮かんでいる。


「……えっと、本物じゃないですよね? 本物の狼じゃないですよね? 一世紀前に全種絶滅した狼さんじゃありませんよね?! ただの大きなワンちゃんですよね!? もしくは犬型ロボットですよね!!」


 間違い無く自社製品よりも、これから下りるであろう保険金よりも価値がある、というか値打ちも付けられない世界遺産まっしぐらな存在の登場に慌てふためく眼鏡。そして更に信じられない単語がカマラの口から飛び出す。


「カマラのダンナ」


「しっ、しかも一妻多夫!!」


「眼鏡殿。驚く所はそではないかと」

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