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012

 三人で旅を初めて早十五日。スクリードまでの旅路は残り半分までになった頃、僕らは道中にある町で宿泊していた。


 無理な強行軍ができるとは言え、適度に休まなければいけない。


 宿泊中、僕らは町の人達に少しだけ聞き込みをした。


 この町に入ったときもそうだったけど、やはり、美人をーー片方は変態とは言えーー連れていると、視線を集めてしまうらしい。それも、僕みたいな冴えない男が連れているのだ。皆、好奇心でついつい見てしまうのだろう。まあ、ナイアはふよふよ中に浮いてるしね。ナイアには子供達の方が視線が集まっている。


 視線を集めながら、僕たちは情報を集める。


 といっても、噂話程度のものだ。スクリードについての悪い噂や、その他、奇っ怪な噂などが聞きたいのだ。なにが起きているか分かっているとはいえ、そんなに情報が多いわけではない。存在がばれてしまわないようにセプテムとの連絡は控えているので、そこまで情報が入ってこないのだ。


 僕が聞き込みをしている間、暇だったのか、ナイアは子供達と鬼ごっこを始めていた。


「食べちゃうぞ~!」


 がおーと言いながら子供達を追いかけるナイア。基本なんでも食べることのできるナイアなので、その台詞がふりなのか本心なのかわからないので、少しひやっとするも、普通に楽しそうに口角を上げているので、おそらく単純に楽しんでいるだけなのだろう。


 子供達も、きゃっきゃと楽しそうに声を上げていて見ていて心が安らぐ。


 周囲の大人も同じなのか、ほっこりとした顔をしている。


 ちなみに、宙を浮いているナイアだが、僕とリツの指示でロングスカートを履いているため下着が見えることは無い。悔しがってるそこの若者達、残念だったね。


 ナイアの様子を確認しつつ、情報収集を続ければ、変なお姉ちゃんが遊んでくれていると聞き付けてきた子供達が、ナイアに一緒に遊んでとせがんでいた。


 今はおままごとと鬼ごっことかくれんぼで意見が別れている。


「サクヤ様」


「ああ、うん。行ってきてもらっても良いかな?」


「はい」


 子供達に手を引かれておろおろと困っているナイアを見ていられず、クイーンクゥェの提案にありがたく乗らせてもらうことにする。幸い、情報収集も大方済んだ。ここからは僕一人でも平気だ。


 僕は広場のベンチに座って奥様方とお話をしつつ、二人の様子を見る。


 どうやら、ナイアが鬼ごっこ継続で、クイーンクゥェがおままごとを担当するらしい。


 少しだけ嫌な予感を覚えてクイーンクゥェの方に聞き耳を立てていれば、案の定やらかしていた。


「ちょっとあなた、何ですかこの服についた口紅は!」


「ご、誤解だ! これは口紅じゃなくて……そ、そう! 返り血だよ返り血! ちょっと山でハッスルしすぎちゃったかなぁ! あはは!」


「ハッスルしたのは山じゃなくてお部屋ではなくて!?」


「そ、そんなことしてないよ! あ、あはは!」


 なぜおままごとで修羅場中の夫婦の喧嘩をしているんだ……。


 ちなみに、奥様役が女の子で、夫役がクイーンクゥェだ。ずいぶんとませた子だなぁ……お父さん、夜のお店でハッスルしちゃったのかな? 修羅場を見てたのかな? だとしたらお父さん、ハッスルは控え目に。


 ともあれ、悪乗りしてるクイーンクゥェも悪い。というか、クイーンクゥェがおままごととか情操教育に悪い気がする。彼女、悪乗りが好きだから。


 僕と一緒に様子を見ていた奥様方も微妙な顔で修羅場(おままごと)を見ており、なぜか一人額に青筋浮かべて拳を握りしめていたけ……うん、気のせいだ。あの奥様役の子のお母さんでは無いはずだ。うん、お父さんがハッスルしたとか事実無根なはずだ。


 怖かったので、僕は速やかに配役を交代させた。


 ナイアがおままごとで、クイーンクゥェが鬼ごっこだ。


 ナイアがおままごとに加わると、今度は普通におままごとを始めてくれた。なぜか危機を脱したような気がして、僕と奥様方はほっと胸を撫で下ろした。


「あなた? お昼ご飯はなにが良いかしら?」


「んー? なんでもー」


「もう! なんでもが一番困るのよ! それに、いくら休日だからってだらけてないで、少しは手伝ってくださいな!」


「えー……」


 なんて夢の無いおままごとだ……。


 リアリティがあるというかなんというか、普通に想像できるしこの町にも何世帯かいるでしょ、こういう夫婦。


 またも微妙な顔になる僕らだが、まあ、先程の修羅場よりは良いだろう。


 そう思い、今度はクイーンクゥェの方に視線を向ける。


 先程のナイアと同じで子供達がきゃっきゃと楽しそうに声を上げながら、クイーンクゥェから逃げ回っている。


 うん、今度は大丈夫そ……いや、ダメだ。走るクイーンクゥェを見て顔を赤らめてる少年達がいる。どこをとは言わないが、揺れる大きななにかを見ている。


 まあ、これは仕方ないだろう。彼らも思春期だ。揺れるものに目が言ってしまうのも仕方がない。奥様達も親の仇でも見るようにガン見してるけど仕方ない。


 けれど、ただ遊んでいるだけのようだし、大丈夫かなと思ったら甘かった。またやらかしやがったのだ。


「がおー食べちゃうぞー。………………………………………………………………………………………………性的な意味で」


 はいアウト。


 僕は即効で彼女を回収した。





 情報収集も終えて宿で休む僕達。


 満足げな顔でベッドで眠るナイア。


 それを優しげな目で眺める僕。


 床で正座をするクイーンクゥェ。


「あのう、なぜ私は正座をさせられているのでしょうか?」


「言わなきゃわかんない?」


「ちっとも」


「おい……」


 悪びれずに言うクイーンクゥェに、思わずジトッとした目を向ける。


「ふふ、冗談ですよ。ちょっとしたお茶目じゃないですか」


「お茶目じゃ済まないと思うんだ僕は。君、自分がエロ本の自覚ある?」


「魔導書の自覚ならございます」


「君の場合魔導書と書いてエロ本って読むんだよ」


「まあ素敵」


「不健全図書として燃やすぞ」


「魔導書はどれをとっても健全とは程遠いものでは?」


「君のはそのカテゴリーが違うんだよ……」


 確かに、魔導書は健全とは言いがたい。


 魔導の奥義が記されているとされる、ネクロノミコン。


 食人や死姦、黒魔術が記されている、屍食教典儀。


 クトゥルフやその眷属の召喚方法が載った、ルルイエ異本。


 等々、読むだけでも気が狂う魔導書もある。だから、魔導書が健全だとは僕は言わない。けれど、クイーンクゥェは不健全の毛色が違うのだ。


 もう説明するのも疲れたので、僕はざっくりと結論だけ言う。


「変態を子供に近付けたくない良心って言えば分かるかな?」


「なるほど、納得です」


 ぽんと手を叩いて納得してくれたクイーンクゥェ。しかし、納得したからと言って彼女が子供達に変なことを言わないとは限らない。


 ていうか、納得するのかよ……。


 今後、子供との接触を極力避けることを心に決めながら、僕は溜め息を吐いてこの話を終わりにする。


 こいつにはなにを言っても無駄だ。エロ本である上に全属性兼ね備えているであろうこの魔導書は怒っても無視をしてもご褒美になりかねない。


 それよりも、噂話の精査がしたい。


「それよりも、本題に移ろうか」


「わかりました」


 僕の言葉に、彼女は真面目な雰囲気になって居住まいを正す。


「本当、ずっとそうしてくれてたらただの美人なメイドなのに……」


「美人な変態メイド。甘美な響きじゃありませんか?」


「官能的な響ではあるよ。それよりも、君、耳が良いから聞こえてたろ?」


「ええ。問題なく」


「それならよかった。話す手間が省ける」


 彼女は子供達と遊んでいる間も、僕達の話に耳を傾けてくれていたらしい。普段は変態だが、基本的に優秀なので助かる。まあ、変態な分、差し引きゼロだが。


「この町での噂は大まかに二つ。一つは、国全体で謎の変死の続出。もう一つは、スクリードの急激な人口増加。もうこの時点で嫌な予感しかしない……」


「変死の方は、おそらくは”冒涜の双子”の仕業でしょう」


「だよね。それで、それに伴う人口増加。これは”冒涜の双子”だけじゃなくてシュブ=ニグラスも関わってるはずだ」


「つまり、少なくとも神性(やつら)が人の形をしていることは間違いありませんね」


人が(・・)増えてると認識されてるわけだからね」


 そして、明らかに人が増えていると分からせるほどの急激な人口増加。


 町中で一人二人ならば知らない顔と擦れ違っても違和感は無い。スクリードのように大きい町なら、もっと多くてもそうだ。けれど、町の人が明らかに人が増えていると自覚できるくらいに知らない顔が増えている。


 気味悪がったり、噂になって当たり前だ。


「本当に厄介な事になったなぁ……」


「ええ、まったくです。唯一の救いと言えば、奴らが互いに協力し合わない事ですね」


「だね。そればっかりは本当に彼らの不仲に感謝だよ。いや、一番はなにもしないことだけれども……」


 言いながら、彼らにとってそれが無理な相談であることを思い出す。


 この世界の破壊は彼らにとっての悲願だ。


 そうされるとこちらの都合が悪いから止めるけれども、彼らとしてもこのままであることは都合が悪いのだ。


 けれど、彼らは手を取り合わない。同じ目的であるが、仲間と言うわけではないからだ。互いが互いを牽制し合っているのは僕らにとってかなり都合が良い。正直、彼らが一斉に動いたら僕にはどうしようも無いし、僕も最後の切り札を切らざるをえなくなる。それだけは、絶対にしたくはない。


 とにかく、彼らが各々動くのは都合が良いのだ。同時侵攻されでもしたら厄介だし、手を取り合われても厄介だ。


 僕達がすべきことは、迅速な各個撃破だ。そのために、リツ以外の勇者全員出回っている。


 しかし、邪神が倒されたという報告は未だに無い。


 姿を眩ませている者もいれば、所在は分かっているが、容易に踏み込めない場所にいる者もいる。今回のように、開けっ広げに居場所を知らしめているのは珍しい部類に入る。


「容易にはいかないと思うけど、なんとか倒して良い流れを作りたいものだね……」


「ええ」


 とは言え、それが本当に容易では無いことを、ハスターとの戦闘経験のある僕達は知っている。


 これからを思うと、溜め息が出てしまう。


「ごめん、クイーン。僕は先に寝るね」


「はい。お休みなさいませ」


 憂いていても仕方が無い。


 僕は身体を休ませるために、眠りについた。

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