決着とぼく
妖鼠と闘って四日後の四月八日。
ぼくとゆかりは沖天高校の入学式に参加した後、そのまま家へと帰っていった。
その帰り道の話である。
「無事に入学式に出られてよかったわね、こころ」
「ぼくもそう思うよ。鬼と闘うんだから、下手したら死ぬところだったかもね」
「そうね。もし死んだら墓に嫌がらせするところだったわ」
墓に嫌がらせって……
「たとえば、どんなことするんだ?」
「隣の他人の墓を綺麗にして、あんたは放置よ」
「うわ、地味に嫌だなそれ」
よく思いつくなあ、そんな嫌がらせ。
「でも、そうしなくて良かったわ」
「まあね。でもこれから大変だよ」
仙気の修行と同時に、仙道の修行も始まって、大変な毎日を過ごしている。
その上、学校も始まってしまうと考えると負担が凄い。
「歩けるようになったとはいえ、払う犠牲は多かったのかな」
「当たり前よ。世の中ギブアンドテイクなんだから」
幼馴染は辛辣だった。
「私は、今でもあなたが仙人になったのは間違っていると思うわ」
「うん? どうしてだい?」
「だって、こころ、あなたは寝てないでしょ」
「…………」
「黙るってことは図星なのね」
はあっと溜息をつくゆかり。
「どうして分かる――」
「分かるに決まってるわよ。隈が酷いわよ」
ゆかりがバックの中から手鏡を取り出し、見せる。
「そんな酷いかな……」
「自覚なしなのは致命的ね。周りの生徒はあんたにビビッてたわよ」
だから誰からも話しかけられなかったのか。
「何日寝てないの?」
「昨日ちょっと寝られたから三日ぐらいかな」
「……夢に出てくるの?」
そういうんじゃないけど、説明するのが難しいので「それもあるかな」と答えた。
「色々考えてしまうんだ。もしかして、他に方法はなかったのかなって」
「仕方ないわよ。あっちはあなたを殺すために必死で、こころも妖鼠を殺そうと必死だった。結局勝ったのはこころだって話じゃない」
「まあそうだけどさ……」
「最後に日輪が言った条件、あれは妖鼠のためじゃないのかしら」
ゆかりがぼくを慰めるつもりで言う。
「ああいう条件を言えば、必ず断るのは眼に見える。その結果、自分で死を選べた。プライドを持ったまま、死ぬことができたのよ」
「……そっか」
「まあ私の憶測だけどね」
それでもなんだか、救われる話だった。
そうでないと、日輪が残酷すぎて、可哀想すぎる。
「それで、次の鬼が来るのは五月なわけ?」
「そうだよ。あの妖鼠より強いって想像もつかないけど」
「私は協力できないけど、応援はしてるわ」
「ありがとう。助かるよ」
家の前まで来たので、ゆかりは自分の家に戻っていく。
「また明日ね、こころ」
別れの挨拶をぼくも返して、家の中に入る。
ゆめ姉は部活でいない。
鍵を開けて、入ると、そこには日輪が居た。
「おかえり、十六夜こころ」
「……えっ?」
日輪が神出鬼没なのは驚くに値しないけど、驚いたのはそこではない。
髪を黒く染めて。
沖天高校の制服を着ていたのだ。
「えっと、ドッキリ?」
「違うぞ。今度お主の高校にワシも入るんじゃ」
「え、ごめん。訳が分からないんだけど」
「学年は一つ上じゃからお主の先輩にあたるな」
いろんな情報が錯綜して訳が分からない。
「どうして――」
「お主と共に行動するためじゃ。学校でも修行を続けるぞ」
どうやら、仙人どころか、学園生活も楽じゃないみたいだ。
「よろしくな、後輩」
そう笑う日輪はまるで高校生のようで、なんだか自然だった。
こうしてぼくの仙人になる修行と難題が多すぎる学園生活が始まった。
残る鬼は十一体。
無事に鬼退治ができるのか。
それは仙人だけが知っていた。




