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デート遺跡の中で

 フラットが号泣していた。

「あいつ等酷いんだ。既婚男性は、彼女のいるリア充は、いつだって彼女のいない独身男性を、可哀想な目で見ながらその優越感に浸りつつ、言葉で嬲るんだ……」  

 そんな何処か被害妄想じみた事を口走るフラットにアリスは、

「……聞いていた限り、惚気話しかいっていなかったけれど……」

「確かに惚気だった。だがその一方で少しだけだが、妻がいる俺も大変なんだぜアピールしやがったんだぞ! 分るか! その酷さが!」

「分らない」

「そんなに文句言うなら奥さんでも何でもくれよ! 僕に! そんな事する気なんて、手放す気なんて無いくせに彼女がいる奴とかもうね、そういう風に彼女なんてそんなにいい物じゃないんですよって言うんだ。だったら僕に寄こせよ! うおおおおおおお」

 そう更に号泣するフラット。

 色々突っ込み所がありすぎるが、それでもあまりにもフラットが泣くので可哀想になってアリスが、

「……そのうち、フラットにもいい子が現れるよ」

「……ぐす。じゃあアリスちゃん、僕の恋人になって下さい」

「えっと、お断りかな?」

「きっとアリスちゃんが僕の前に現れたいい子なんです。慰めた責任とって、だから僕と……」

 いきなり涙を器用に止めて、フラットはアリスの手を掴みながら口説き始めた。

 その本気な様子というか、必死な様子にアリスが引きつった笑みを浮かべていると、そんなフラットの肩をクルスが軽く叩いた。

 そしてそのままクルスは、フラットの肩を掴みにこやかに笑いながら、

「……フラット。そろそろ行かないか? 随分と時間を取ってしまった。お前のせいで」

「え、は、はい。今のは冗談なので、肩の手を少し緩めてくれないかなと」

「いや、吟遊詩人なら、こうなる事が分っていただろう? ほら、心の機微には聡くないとな。そうだな、それは生きていくのに大切なものだからな……」

「え、う、え……アリスちゃん、助けて」

 そう、目の前の手を掴んだままのアリスにフラットは助けを求めた。だが、

「フラットが私の手を放したら助けてあげる」

「せっかく女の子の手を握っているのに! ……痛い、痛いですマジで!」

「痛いと言いつつ、私の手は絶対に放さないとか……フラットは男だわ、悪い意味で。あ、あんな所に美人が!」

「本当ですか!」

 くるっと、アリスの見ている方向にフラットは視線を向けた。

 そこには似合わない女装をした男達がおり、それを見てフラットは固まった。

 けれどその油断を利用して、アリスはフラットから手を放す。

「あ、アリスちゃん酷い。あんなものを僕に見せるなんて……どうしてクルスとアリスちゃん、僕の事を半眼で見るんだ?」

 それには答えず、アリスはクルスを見て、

「次はどっちに行けばいいの?」

「そうだな、こっちかな」

 そう言って二人は歩き出す。それをフラットが待ってと追いかけていったのだった。


 クルスだって健全な男である。

 そして、何らかの不純な願望を持っていたりもする。

 確かにアリスは可愛いし、守ってはあげたい。

 けれど少しこう、良い思いをしてもいいんじゃないかと思ったのだ。

 思っただけで、別にガイドブックの触手の魔物スポットを通ってしまうのも依頼の関係上最短距離なので仕方が無いのである。

 そんな夢と期待を胸に、その道を歩いていったのだが……。

「あー、ここの触手の魔物は、一回 50ネオンだよー」

 少し離れた場所で、男や女が、やーんといっている。

 上下に振り回されたり空中で緩やかに回されたりして、キャーキャーと騒いでいる。

 とても楽しそうだ。

 何でも怪我をしないようにあらゆる教育がされている触手らしい。

 休日には親子連れで賑わうとか何とか……。

 しかも今は一時間待ちらしい。

 その光景と説明に、ここはテーマパークか何かかとアリスは目をどんよりさせて、

「クルス、ここって本当に遺跡なの? ……って、クルス! 膝を付いてどうしたの!」

 クルスに駆け寄ろうとするアリスを、フラットが何やら悟ったように微笑みながら首を振る。

「アリスちゃん、放っておいてあげよう。可哀想だから」

「? そうなの? 触手の魔物と戦いたかったの?」

「うん、そんな所かな……ほら、行こうクルス」

 そう声をかけられて、クルスは立ち上がり、三人で依頼の場所へと歩き出したのだった。


 ひび割れた回廊を歩いていくとこの付近だけ、人がいない。

 理由は他よりも崩れていて見た目があまり良くないからだろう。

 そんな風情の有る廃墟の壁をアリスは見ながら、クルスに世間話を振る。

「でも、中でバンバン魔法を撃っているのに、よく壊れないわね」

「魔物が住みつける程度に強度が有る、というよりは、魔物と対抗するためにこれはあったと考えるほうが自然だろうな」

「どうしてそんな事がいえるの?」

「と、前にガイドブックに書いてあった。理由は知らない」

「そうなんだ」

 そう呟きながらアリスは軽く壁を叩いてみる。

 コンコンと何となく頑丈そうな音が聞こえた。

 あくまでも感覚なので本当にそうなのかはアリスには分らないが、そんな壁にアリスは興味を失ったように手を放して、

「でもそろそろ、一度攻撃して倒せないなら逃げろっていうの、もう少しだけ……」

「駄目だ。前も言ったように、攻撃するだけならどうにか先手を取れるから、まだ素人でもいいかもしれない。けれど防御は、相手の動きを見極めないといけない。だから初心者のアリスは、一撃を加えて無理だったら逃げるのが妥当だ」

「それは、分っているけれど……」

「それに、そうなると俺達も危険に曝される。アリスという負傷者を連れて行くわけだから、動くが鈍る」

「……分りました」

「良い子だ」 

 ぽんぽんとアリスは頭をクルスに撫ぜられる。

 子ども扱いしてと思うのだが、クルスにされるとそんな感情よりもなんだか恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。

 そこでそんなアリスをフラットが面白そうに見ていた。

「何よ」

「いや、クルスといる時のアリスちゃんて、いつもより可愛いなって」

「? 意味が分らない」

「ははは、まあ、今はそれでいいんじゃない? さ、行こうか」

 強引にはぐらかすフラットを怪訝な表情でアリスは見て、歩き出す。

 そして数歩歩いたその場所で、三人は浮遊感を感じたのだった。

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